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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~   作者: 大恵
幕間 世界が変わった後の日常

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笛奈《てきな》の休日 1

 出杉笛奈(てきな)こと、志太笛奈(てきな)は、用事のない時は本を読むことが多い。

 意外なことにインドアタイプである。

 かつて山籠りなどで山中生活をしていたが、それは楽しみではなく修行と生活のための活動であって趣味ではない。


 土曜日の午前10時。笛奈(てきな)はリビングのソファに寝転び、現代らしくタブレットで読書を楽しんでいた。


「ふわーー……おはようなのじゃ…………。む? なんじゃ、笛奈(てきな)。休日なのに制服か?」


 遅く起きてきた出杉・プ・リーナこと、ディスキプリーナは、寝巻き姿のままクマのぬいぐるみを引きずってリビングに現れた。


「ん? ああ、いつものつもりで着替えちまってな。私服に変えるの億劫なんで」


 あまり服装に拘らない彼女は、着替えるのも面倒だと言い放つ。

 ディスキプリーナはクマのぬいぐるみをまず椅子に座らせ、リビングキッチンのカウンター席へよじ登って座る。


「楽な格好になったほうがいいじゃろうに……。パンツ見えとるぞ。立って隠すのじゃ」


 ソファに寝転がり、膝を立てて足を組んでいる状態の笛奈(てきな)は、背の低いディスキプリーナの視線からすると完全にスカート中が見えていた。

 指摘された笛奈(てきな)は、億劫そうにタブレットの画面を消してテーブルの上に置き、特に隠す仕草もなく豪快に足を振って立ち上がる。


「んなこと言って、立たせて朝飯の用意させるんだろ?」

「そうなのじゃ! ブランチなのじゃ!」


 柄に魔法少女がプリントされたスプーンとフォークを持ち、ダンダンとカウンターを叩くディスキプリーナ。


「へいへい。総統閣下の相当遅い朝飯、作ってやんぜ」


 笛奈(てきな)は制服の上にエプロンをつけ、キッチンに立った。

 自分の朝食を作る時、別容器で一緒に作っておいたサラダを先に出す。


「おおっ! サラダパフェか! 小洒落てるのぉ」


 パフェグラスに盛られた色とりどりのサラダは、ディスキプリーナを喜ばせる。

 あまり器用に食べられないディスキプリーナ用として、パフェグラスの(ステム)を持って食べてもらうように笛奈(てきな)が思いついただけで、洒落たつもりなどない。


 寄せなくてもフォークで容器に沿って深く刺すなりすれば、しっかり取って食べられる。

 グラスの(リム)は波になって広がっているため、ディスキプリーナなの小さな口に入れるまで取りこぼすこともない。


 ディスキプリーナがサラダを食べている間に、笛奈(てきな)はささっと総統用のブランチプレートを作り上げる。

 

 ウィンナーを炒め、出た脂でスプランブルエッグ。

 少食のディスキプリーナに合わせ、ミニパンケーキを三枚焼き上げる。一枚のフライパンで同時に焼いたため、少し円の縁が歪んでいるが、またそれがカフェ感を出している。

 これを重ねてクリームとブルーベリージャム、冷凍されていたダイス状のフルーツをひと掛け。

 紫キャベツにクルミと干し葡萄を和え、アボガドソースと水切りヨーグルトを添える。


「おおお〜〜っ! 笛奈(てきな)はいいお嫁さんになるぞ!」


 せめてもの手伝いと、自分でココアを淹れていたディスキプリーナは、それを横に置いてカフェスタイルのブランチプレートを目を輝かせ出迎える。


「婚期を五十年くらい逃してるがな!」


 キッチン道具を片付けながら、笛奈(てきな)はディスキプリーナなの褒め言葉を鼻で笑う。

 今でこそ女子中学生の姿をしているが、実年齢は七十歳を超えている笛奈(てきな)にしては笑い話だった。


「この盛り付けにこの味、金取れるのう! カフェだって開けるぞ!」


「はん。カフェがオレ様の後塵を拝してんだよ。ま、それを商売にしようって発想はなかったから、最初にやって形にしたヤツはさすがだけどな」


 山奥生活が長かった笛奈(てきな)は、食事の盛り付け方が野生味溢れる。

 奇しくもそれは、このところカフェで流行っているようなオーガニックな食品を木製カッティングボードに盛り付けたり、有り合わせの器を工夫して利用するスタイルと似ていた。

 笛奈(てきな)は自分が先人だと自負しながらも、それを商売に取り入れて成功させた人物には敬意を表した。


「……ふ〜ん、これだけことを簡単になせるのだ。笛奈(てきな)よ。お前、誰かいい奴とかおらんかったのか? もぐもぐ」


 ブランチを頬張り、嫁の貰い手がなかったのかと尋ねるディスキプリーナ。

 笛奈(てきな)も中身はいい歳なので、皿を洗いながら気軽に答える。


「まあまず殴り合いでオレ様と互角から初めてもらうから、ちょうどいいやつってのはいなかったな」


「ハードル高いのー。そのちょうどいい奴の意味が違うじゃろうが」


「オレ様を倒せっていうのよりは低いだろ?」


「つまらんおなごじゃのぉ〜」


 ディスキプリーナは呆れたとばかりに、ウィンナーを齧りながらリビングのテレビに視線を向けた。


 テレビ画面では休日らしい、遅めの報道バラエティーが流れていた。

 テロップには【現代のミダス王!? 魔法少女を求めて来日?】などと書かれ、寝たきり老人が空港に到着したシーンを流している。

 つられて画面を見た笛奈(てきな)が呟く。


「あ〜、そういやオレ様にプロポーズした奴はいたな」


「なんじゃと! そんな笛奈(てきな)のようなやつに結婚を申し込むとは剛気じゃな! どんな人物じゃ? 顔をみてみたいわ!」

「今見てたぞ」


「ほわい?」


「テレビに映ってる、そいつ」


 ディスキプリーナがぐりんっ!と首をねじり画面を見ると、世界有数の大富豪として紹介されベッドに横たわり色々な延命装置に繋がれた男性の写真が映し出されていた。


「こやつか!」

「そいつだ」

笛奈(てきな)がボコって寝たきりにさせたのか!」

「ボコッてねーよっ! 昔からそいつはそうなんだよ!」


 冤罪だ! と皿を拭きながら不本意を表明する笛奈(てきな)


「ではどうしてこの者は、このような姿に?」


「オレ様が知る限り…………そうだな。20歳の時は横になってるほうが多かったような……。すまんさすがに五十年以上前なんでよく覚えてない」


 ディスキプリーナが残したブロッコリーをつまみ食いし、笛奈(てきな)は天井を見上げて語る。


「オレ様が最強を目指してた頃、まだ15歳だったな。アメリカへ武者修行で渡って、そのころに出会った」

「ほうほう」


「目を爛々(らんらん)とさせているところすまんが、マジで色気のある話はまったくないぞ。当時、もうあいつは車椅子だったし」

「でも一つや二つあるだじゃろう? 相手が車椅子であろうと恋の障害にはなら、な……い」


 うなって首をひねる笛奈(てきな)を見て、ディスキプリーナは「あ、これはないな」と気がついたようで言葉が途切れた。


「う〜〜〜〜〜ん……。あったかなぁ……。あいつと話をしても内容もよくおぼえてなくて……あー、トレーニングの質問されたかな? どうだったかなぁ……。いやほんとに色気のあった話ないぞってさっき言ったけど、まずオレ様の記憶が怪しいな」


「むしろなんでそれで、求婚されるんじゃ?」


「オレ様が強かったからだろうな」


 自信満々に、袖をめくって力こぶを見せて答える笛奈(てきな)


「あーはい。そうでしたかー」


 呆れたように標準語になるディスキプリーナ。


「あ、てめぇ! てめぇから話ふってそれかよ!」


 瞬間沸騰する笛奈(てきな)だったが、食事中のディスキプリーナを邪魔するつもりはない。

 彼女は食べ物を粗末にするなど絶対にできない気質だ。

 ちょっと腹が立つからと、食事をしている者の前で暴れるわけにはいかない。


「……うむ。ちょっとアイデアが湧いたのだ?」

「なんだ、悪巧みが総統?」


「タイダルテールはモニュメントを破壊しているという設定だが、それを壊すとどんな病も治す力が手に入るとか、死者も復活するとか、そんな物が手に入ることにしよう」


「へえ、そいつはいいな。……で、それは給料何ヶ月分だ?」


 パーティーの景品でも決めるようにディスキプリーナはモニュメント破壊に意味を後付けした。

 それを聞いて、笛奈(てきな)は総統ディスキプリーナの懐具合を気に掛ける。

 タイダルテールはディスキプリーナの持ち出しが多く、資金については


「ん? それほどでもないぞ。安くはないがまとめ買い備品発注すれば、本隊から届くくらいのもんじゃ。笛奈(てきな)も治療薬で使っておるだろう?」


「オレ様が怪我するたび、使ってたあれ、そんな高性能だったのか……。すぐに治るなとは思ったが。オーバースペックじゃねぇか」


「といっても、ちょっとした傷を治す薬とか、そんなの吾輩の世界にはないのだ」


 処方箋感覚で完全回復剤(エリクサー)を使用する。

 そんな世界に、笛奈(てきな)は改めて侵略側の底知れなさを覚えた。


 + + + + + + + + +


 午後、笛奈(てきな)は買い物に出かけた。

 ディスキプリーナは教職として課題作りなどあり、自宅で作業しながらお留守番である。


 服装は着替えるのが面倒なので、やはり笛奈(てきな)は制服姿だ。


 ハートマークとウリボーがプリントされたマイバッグをワイルドに肩に担ぎ、近くの商店街まで大股で闊歩する。

 その姿は可愛いだとかカッコいいだとか、全く意識していない女丈夫そのものであった。


 笛奈(てきな)の魅力はその立ち振る舞いにある。

 

 粗にして野だが卑ではない。を体現するかのような女性で、中学生にしては長身ということもあって人目を引く。

 そして人の目に止まって、初めて顔立ちが整っていると気がつかれる。

 そんなタイプだ。


 顔などよりまず存在感。

 それが笛奈(てきな)の魅力だった。

 

 そんな笛奈(てきな)に大声で声を掛ける魚屋の店主。


「お、笛奈(てきな)ちゃん! この前のカレイ! どうだったい?」


 人の視線を引きずるように歩く笛奈(てきな)に、魚屋の店主が大声で呼びかける。


「おう。おやじさん。マグロの刺身しか食べないあのリーナの姉貴が、珍しくパクパク食べたぜ」


「そうか、それはよかった。旬をちょっとすぎたあたりでも、やわらかく食べやすさならカレイだからな!」


「次は歯ごたえのある魚を食うようにさせたいんだが、なんかあるか?」


「そういうのは子供にはまだ早いかもしれんなぁ」

「リーナの姉貴は大人だよ」

「そうだったそうだった。がはは。リーナのお嬢ちゃんには内緒だぞ」

「子供扱いじゃねぇか」


「硬いもんなら、笛奈(てきな)ちゃん、うちのせんべいはどうだ?」


 魚屋の店主と親しく話していると、次は乾物屋のじいさんが声をかけてきた。


「骨せんべいか……。オレ様は好きなんだが……」


「じゃ、うちのコマイ、どうだい? もうすぐ旬も終わりだし安くしておくよ」

「そっちもいいが、乾物のほうのコマイもいいな。酒のアテになる」


 結局、笛奈(てきな)は魚屋が進めたコマイと、乾物屋の骨せんべいを購入した。


 商店街でも人気な笛奈(てきな)はあちこちで声をかけられ、あれこれ買い込み、両手いっぱいの袋を持って帰宅することになった。


 トレーニングも兼ね、脇をやや開け傘のように手を広げて荷物を持ち、自宅マンションへ向かう。

 その途中、笛奈(てきな)は路地奥から争いの気配を、晒しているうなじで感じ取って立ち止まった。


「ほう。最近の若いやつらはお行儀いいと思っていたが……陽も落ちないうちから、けっこうけっこう」


 笛奈(てきな)は楽しそうに、介入するため裏路地へと足を踏み入れていく。

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