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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~   作者: 大恵
第1章 

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第51話 江戸の仇を長崎で討つ

 世界は変わった。


 清水康介は一般家庭の少年である。その一般家庭ですら、変わってしまった世界を体現していた。


「康介。お前の学校にいないのかい? 魔法少女らしい子は?」


「そんな子がいたら大騒ぎだよ、父さん」


 朝の食事の最中、まるで成績や友達の事を尋ねるように、父親が話しかけてくる。

 しかも楽しそうに。


「案外、魔法少女の正体は、私みたいな主婦かもしれないよ」


「なにいってんだよ、母さん……」


 アラフォーの母親までノリのいいことを言いだし、息子として康介は困惑した。


 特にオタク知識もない清水少年の両親が、朝からこうして魔法少女関連の会話をするのだ。

 数か月前には想像できなかった同様の光景が、きっと日本の各家庭で起こっているだろう。


 両親も平均的──といっても大企業の役職持ちなので、上位20%に手が届きそうなサラリーマンではあるが、それでも家庭としては一般的な両親が、朝から魔法少女の話題を興奮気味に話している。


 昨日のカラテキック男の登場は、カラテショックと言われるようになった。

 フル装備の機動隊と重武装の警察特別班三百三十名で、対処できない怪人となれば当然である。


 仮に日本の警察があまりに不甲斐なかったと仮定しても、それでも世界的には上澄みとなる。

 その組織が、フル装備で当たって抑えられなかったのだ。


 しかもその存在を二人がかりとはいえ、完封したのが魔法少女というのだから、世界各国の治安機構と軍関係者は顔面蒼白である。

 さらにエティーズ・ルテティアと名乗る元アングザイエティーズ・キスは、一度に数十人という怪我人を治療して見せた。


 これも世界を震撼させる出来事だった。


 魔法少女が日常会話にのぼり、ビジネスの場にも話題として登場し、株価と経済にも影響を与え、あまつさえ国会で議題に上がるほど世界は変わってしまった。


「いってきます」


 康介は報道バラエティーが流す魔法少女関係の話題を横目に、日常と非日常が待つ学校へと出かけた。


 見慣れた通学路に、外国人が増えている。

 これも魔法少女のせいだ。


 なにしろ『日本へ魔法少女を見に行こうツアー』が、世界各国で組まれるほどである。

 もちろん「かならず出会えるわけではありません」という免責事項付きだが、それでも魔法少女にいわくつきの場所を巡るだけでも人気があった。


 清水康介は裏事情を知る一人として一種の高揚感と、不安に似た罪悪感を覚えながら、外国人観光客が増えた東京の街の通学路を歩いていた。

 この辺りは観光地でもない住宅街なのに、スコラリス・クレキストが多く目撃される場所として、鵤木中学校の周辺は外国人観光客が増えている。


 いずれすべてがバレるんじゃないかと、清水はびくびくとしていた。


 その隣を、なにも気にしてないか気づいてない様子で、岸 小夏が走って学校へ向かっていく。前方を歩くリリカへ追いつくため、清水少年に気が付いていない様子だ。

 日常を変えてしまった魔法少女スコラリス・クレキスト本人なのに、彼女はまだ日常の中にいるようだった。


 気が付かれず追い抜かれた清水少年に向け、小夏の持つバッグの中から白猫が顔を出して挨拶をしてきた。


 清水はその白猫に、ちょっとだけ手をあげて挨拶をした。


 挨拶のため立ち止まっていた清水に、後ろから声をかける少女がいた。

 

「康くん、おはよう! って、あれ? どうしたの? それ?」


 清水少年の額にコブと腫れた頬を見て、幼馴染である平井香織は大きく口を開けて驚いた。


「あ、うん。昨日、転んじゃって……」

「なにそれー。丸っこいから転んじゃうんだよ。……よし! 明日から朝、あたしのジョギングに付き合いなさいよねっ!」


 平井香織は最近まで、清水少年にきつく当たっていたが、今ではすっかり昔通りの付き合い方をしてくれる。

 それも魔法少女……いや、魔女が変えた日常だった。

 清水康介少年は、魔法少女と魔女がもたらした非日常を享受している側だ。


 一種の後ろめたさを感じつつ、清水少年は日常をこなしていく。


 やがて避けられない時間がくる。

 

 それは意外にも早く訪れた。


 一緒に登校していた平井香織の姿がいつの間にかない。

 同じ中学へ登校する生徒たちもいない。

 時折見かけた外国人観光客も、通行人の姿もない。

 雑踏も人の声も無くなった異常の通学路で、ただ一人、魔女だけが清水少年を待ち構えていた。


 魔法少女ではなく、魔女として小桜姫子がいた。

 

「ひっ! 姫!」


 清水少年は待ち構えていた小桜姫子に気が付くと、カバンを取り落として情けない声をあげた。

 周囲から人払いをした魔女は、微笑を浮かべてつかつかと歩み寄ってくる。


「やってくれましたね、清水くん」


「ち、違うんで──」

「違ってませんよ」


 言い訳を許さない姫子は、清水少年を壁際へ追い詰める。


「まさかあなたが暗躍して、お膳立てして、扇動し、私を追い詰めるなんて……」


「ご、ごめんなさい!」


「とりあえず謝ろうという考え方は、好きじゃありません」


 姫子は問答無用という態度で、清水少年を壁に押し付ける。


「目を閉じてください」

「その、あれは、あの……」

「早くしなさい」


「は、はひぃ!」


 胸倉をつかまれた清水少年は、電撃かビンタ一発で済めばいいなぁ……と涙目で目を閉じた。


 ──と、清水少年は唇に柔らかい何かが触れたように感じた。

 まさか! そう思った直後、清水少年は解放された。

 

 カッと目を開くと、姫子はすでに数歩離れた歩道の先に立って笑っていた。

 そして少し申し訳なさそうな表情で、姫子は会釈して見せる。


「これはお礼です」


「お、お礼? な、なんで? え? ……どうして?」


 清水少年は唇を抑えながら、姫子の言ったお礼の意図を理解しようとして……わからなかった。


「もしも清水くんが、あれこれして、あのコスプレ集団を焚きつけなければ、きっとスコラリス・クレキストを打ち負かして、私は本当の魔女になってしまっていたでしょう」


 姫子の瞳が、怪しく赤く染まり輝き歪む。

 清水少年はそんな瞳に睨まれ、ほのかな唇の感触すら吹き飛びそうだった。


「ですがあなたが勇気をもって飛び出したおかげで、私はスコラリス・クレキストにしてやられて……かろうじて人の範疇に留まれるていどですが、こうして生きていけるようになりました。だらかあなたには、本当に感謝しているんですよ」


「そ、そうなんだ」


「はい。せめて私のクモの一匹くらいは倒すくらい活躍してほしかったですが」

「ご、ごめ。すぐに転んじゃって……」


「あと、今まであなたを振り回したことを謝るつもりはありません。これからもそうするつもりですから」


「そ、そうなんだ……」


 清水少年は少し涙目になった。姫子の無茶ぶりはそれなりに大変だったので、せめて解放してほしかったと泣きそうになった。


「それから……清水くん」


「はいっ!」


「あなた、少し痩せた方がいいですよ。お腹が邪魔で、宙に浮かばないとキスが出来ませんでしたから」


「ふへっ!」


 体型にダメだしをされた清水少年は、やはりさっきのはキスだったんだと理解して顔が一気に紅潮した。


「香織さんがなさるとき、彼女は私のように浮けませんからね。……あれ? まだ彼女とはされてませんよね? キス」


 少し嫉妬気味の表情で、香織との進展を聞いてくる姫子。

 清水少年は全力全開で頭を振って、「してませんしてません」と言うほかなかった。



◇  □   ◇ 魔 ◇   □  ◇


 カラテショックから数日後。

 成田国際空港のプレミアゲートである専用ターミナルに、一機のプライベートジェットが接続された。

 空港内のビジネスアビエーション部門がこれに対応し、プライベートジェットの昇降作業を行う。

 この様子を少し離れた場所で見ていた空港職員は、緊張した面持ちだが直接対応する職員でないため無駄話をする余裕があった。


「現代のミダス王とか言われてるガーデナー財団の大富豪が、【魔法少女観光】か」

「はは、イベントドリブン(魔法少女起因)型インバウンドさまさまだね」


 日本は今、魔法少女景気の中にあった。

 観光客だけで、空港のCIQ施設は大忙しである。

 パンデミックで不発に終わったオリンピックの景気を、魔法少女で取り戻している形になっていた。


「これが江戸の仇を長崎で討つってやつか」

「パンデミックの損失を魔法少女で取り戻すってね」


 一人がことわざを言い、一人が直喩で表現して自分たちの仕事に戻り、以降は無言で飛来したプラベートジェットの主の降機を待った。

 ビジネスアビエーション部門の職員が出迎える中、ターミナル直結乗降口へ最初に姿を現したのは、長い金髪をまとめあげた12歳ほどの少女だった。


 金髪の少女は周囲の職員たちを家臣のように睥睨したあと、安全を確認したと示すようにプライベートジェット内へ合図を送る。

 間をおいて、ゆっくりとストレッチャー型のベッドがプライベートジェットから姿を見せる。

 そこには痩せこけ、無数のチューブとコード、そしてあらゆる機器によって生きながられている老人が横たわっていた。


 世界でも指折りの大富豪ゴールディアース・ローズガーデナーは栄光と富とは対照的に、非常に病弱な人物であった。

 生まれてこれより、自分の足で歩いたことがないという話もある。

 それは病弱であるからと同時に、あまりに財産があり自分の体を動かしたことがないという揶揄でもあった。


「お爺様、お加減は?」


 そんな老人の長旅を気遣い、少女がそっと手を伸ばす。

 気のせいか、彼女の手はほんのりと輝いている。

 これに気がついた空港職員は驚いたが、彼女がスマートウォッチをつけていることに気がついて落ち着いた。……きっと、スマートウォッチの画面が光っただけなのだ、と納得して。


「おお、ゾエ。よいぞ、すこぶるいいぞ。こんなに気分が優れているのは何年ぶりか」


 ゴールディアースは少女の問いかけに、呼吸マスク越しに答えた。マスク越しなので聞き取り難いが、少女は慣れているようである。


「よかった……」

 

 ゾエと呼ばれた少女は、光っていた手を下げて老人のベッドの誘導を職員から自分の手に戻す。

 さすがに昇降口は慣れている職員の手に任せたが、老人の世話はゾエの役目である。

 他にも使用人がいたが、ベッドをストレッチャーを管理するのは主にこのゾエだ。


 ゴールディアースは成田空港の様子を横たわりながら見回し、感慨深く呟く。


「ああ……懐かしいな、日本……。笛奈(てきな)が死んだ後に、くることになるとは思わなんだ。まったく、あやつ。この私より先に逝きよって……」


「残念でございますね」


「仕方あるまい。お互い歳だしな。このような別れはよくあること……。ついぞ笛奈(てきな)を手にいれることは叶わなんだが、その日本でマレフィカとウェネイフィカと【モニュメント】が現れるとは……。ぐはは、ごほがは」


「お爺様!」


 ゴールディアースは咳払いか笑いか、わかりにくい声をあげてゾエを心配させた。


「大丈夫だ…………。笛奈(てきな)には地獄へ逃げられたが……それを別の形で……ええっと、なんだ、別の形で願いが叶う? う〜ん。なんといったかの? 日本ではこれをなんといったかの?」


 ゴールディアースは西洋の言い回しではなく、場所に合わせて日本のことわざで言おうと努力した。

 これに日本人ではないゾエが答えた。


「江戸の仇を長崎で討つ、ですね」


ひとまず第一章完です。

12万字くらいでまとめるつもりが、意外と長くなってしまいました。


評価、ブックマークありがとうございます。

未評価の方も、よろしかったら下段の☆マークから、当作品の評価おねがいいたします。

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