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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~   作者: 大恵
第1章 

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第49話 授業開始!

「ぜえ、はあ……ふぅぅううぅぅぅぅ……。手こずらせやがって…………」


 新宿都庁前で繰り広げられた死闘が終わった。

 最後に立つ者は、怪人カラテキック男となった。

 目立ったダメージはないが、その体力は大きく削がれていることがわかる。


「ああ、三島さんが……」

「特別対応班が全滅だなんて!」


 警察関係者は護送車を盾にし、この様子を見守り歯痒い思いでいっぱいだった。

 機動隊の三割が投入され、その半分ほどが任務遂行困難……ありていにいえば怪我人となり、警察庁と警視庁が肝煎りで設立した怪人対応特別班も全滅した。

 全滅といっても、武器を破壊されて戦闘不能にされた程度なので、命に別状はない。

 ただ機動隊と合わせて三百三十人の傷病手当が国庫を直撃し、警察病院と最寄りの病院がパンクするくらいだ。


 ……なかなか大変だな、とカラテキック男こと笛奈(てきな)は他人事のように思った。


 この場には、まだ二百人からの機動隊と警察官が集まっている。

 疲れ始めているカラテキック男に、この人数で当たれば抑えられるかもしれない。

 だが、もしそれが不可能だった場合、警視庁が保有する機動隊十部隊千人のうち五割が機能不全となり、所轄の警察はほぼ職務が行えなくなる。


 それは東京の治安維持に穴があくことを意味していた。


 これ以上は、自衛隊の治安出動しかない。しかし、それは警察の権威失墜を意味している。

 対策本部は苦渋の選択を迫られていた。


 だが、まだ希望はある。

 最低限、本当に最低限の情けないがわずかなメンツを守る最後の希望が──。


 本部の連絡を待ち、動けないでいる警察たちを睥睨し、カラテキック男は呆れたように頭を掻いた。


「終わりか。もう、とっととトマソン破壊して帰るかぁ……」


 いくら遠隔操作のアバター(仮の肉体)とはいえ、カラテキック男の疲労は遠方で操る笛奈(てきな)にも反映(フィードバック)される。

 まだまだ余裕があるが、このままここで時間をかけては危険だ。

 自衛隊でも出てきたら貴重なアバター素材が破損し、笛奈(てきな)も取り返しがつかない怪我を負う可能性がある。


 疲れ始めたカラテキック男が、公園内に取り残された用途不明の排気口カバーに向かって拳を握ったその時!


 最後の希望が、舞い降りる。


「ぬぅっ!」


 カラテキック男は横に跳んで、希望がもたらしたハートの雨を避けた。


「な、何者だ!」


 攻撃方法を見て笛奈(てきな)は撃った相手が誰かわかっているが、カラテキック男はわからないという体で一応お約束的に誰何(すいか)する。

 カラテキック男が大袈裟に見上げるとその先……国府道の反対側のビルの屋上に立つ少女がいた。 


「魔法少女! スコラリス・クレキスト! 推参っ!」


 薄着の小柄な青い魔法少女、スコラリス・クレキスト。

 そしてもう一人、背中合わせて立つ黒い少女も名乗りをあげた。


「魔女アング……いえ、魔法少女エティーズ・ルテティア!」


 魔女としての黒いコートは脱ぎ去り、スコラリス・クレキストの衣装を白くアレンジしたような服を着る黒髪の魔法少女がエティーズ・ルテティアと名乗った。


「エティ~ズゥ……ルルゥテテティアァだと!」

「ルテティアです!」


 若干巻き舌過多のカラテキック男に、エティーズ・ルテティアは訂正を入れる。


「イテテだかルテテだか知らんが、不意打ちとは卑劣な! だが、この俺様には効かん!」


「不意打ち? なんのことでしょう? 足元のことですか?」


 低いカラテの構えを解くカラテキック男に、エティーズ・ルテティアは微笑みかける。

 すると、カラテキック男は体勢を崩した。


「なに? ……なにぃっ!」


 二段階の驚きを見せるカラテキック男の両足が、足首ちかくまで地面に広がる黒い何かに飲み込まれていた。


 頭上からのハート・アングル・ショットは、不意打ちですらない。

 真の不意打ちは、エティーズ・ルテティアが回避した先に仕込んだ黒い泥のような足場だった。


 泥のように粘りつき、バランスを崩せば転ぶような足場は、カラテキック男に満足な動きをさせない。

 そこへ向け、スコラリス・クレキストがハート・アングルスを撃ち、エティーズ・ルテティアは五本の爪の槍を伸ばした。


「むうん!」


 バランスを崩していたカラテキック男に命中……したはずだが、どちらの攻撃も薄い飴細工のように砕け散った。

 無傷のカラテキック男は、ほのかに光を纏っているように見えた。

 カラテキック男の向こう側が、注意して見ればわかる程度だが陽炎のように揺らいでいる。

 

「な、なんで!」

「耐えるのはまだわかるけど、あの足場でなぜよろめきも? ……あの怪人がまとうあれは!?」


「そうか。貴様らもこれが見えるほどになったか…………これか? これは! これが! 気ってやつだ!」


 カラテキック男は貯めに貯め、自らが纏う不可思議な力を自慢した。


「気っ!?」

「気ですって!」


 開示された超常的能力に、二人の魔法少女は動揺した。


「気? 気ってあれ? ドラゴンボ◯ルとかであるアレ?」


「おいバカやめろ」


 実はあまり動揺していないのか。

 スコラリス・クレキストが危ういことを言い出したので、カラテキック男が慌てて止める。


「クレスちゃん。気というは……J◯J◯で言われる波紋とかそういうのです?」


「まったく違うモンをお出して、巻き込み事故起こすのやめろ!」


 エティーズ・ルテティアがわかっているのにわからないふりをして別作品の話をしたので、カラテキック男は足場の悪い魔法の泥濘(ぬかるみ)から逃げ出しつつやめろと叫ぶ。


「ⒿⒿは読んでないんだよねぇ、私」

「あとで貸しますね」

「ありがとう、エティーズちゃん!」


「伏字とJを合体させるなッ! ま、俺も読んでないけど、なっ!」

 

 泥濘から脱出したカラテキック男は、近くの樹木を足場にして高く飛び、ビルとビルの間を交互に蹴って高く飛び上がる。

 そして雑談をしている二人の魔法少女へ向け、鋭角な飛び蹴りを叩き落とす。


「喰らえぇい!」


 ご丁寧にも見え見えの予備動作ありの大技攻撃。

 当然二人は別々の方向に逃げる。

 ある程度、手加減を考えているカラテキック男は、二人の連携を見定めるため放った跳び蹴りだ。

 

 魔法少女たちは二手に分かれ、スコラリス・クレキストはカラテキック男を引きつける。

 一方、エティーズ・ルテティアは逃げ遅れている機動隊たちの前に降り立った。


 この手分けを見て「まあ合格だな」と、カラテキック男を操る笛奈(てきな)は満足した。

 カラテキック男はスコラリス・クレキストと適度に遣り合いながら、ちらりとエティーズ・ルテティアの様子を確認する。


「き、きみは」


 怪我人を担いで退避中だった機動隊員は、目の前に降り立ったエティーズ・ルテティアを警戒した。

 服装こそ違えど、彼女がアングザイエエティーズ・キスであると気が付いている。警戒するも当然である。

 それを理解しているエティーズ・ルテティアは、敵意がないと示すように胸に手を当て訴える。


「安心してください! 私はおしおきされて、生まれ変わりました」


「え? おし、おき?」


「はい。スコラリス・クレキストのおかげで、私はもう不安を振りまく魔女である必要がなくなりました。ですから……白蛇の沼サーペンスアルバス・パルス


 エティーズ・ルテティアが右腕を振り上げ、手のひらに集まった光を地面に叩きつける。

 そこ中心にして白い光が公園内に広がり、各所で倒れている機動隊や特別班を包む。


 アングザイエエティーズ・キスの脅威を知っている警官たちは一瞬怯えたが、白い光につつまれて怪我の痛みが消えたことに気が付くと、興奮した面持ちで立ち上がる。


「傷が!」

「胸の痛みが消えた……」

「折れた腕治ったぞっ!」


 各所で機動隊と特別対応班たちが、元気を取り戻していた。


「骨折は治ったといっても完全にくっついたわけではありません! 早く退避してください。あの敵は危険です」


「わ、わかった!」


 回復した三島警部補はアングザイエエティーズ・キス改め、ティアズ・ルテティアの要望に従い、すぐさま退避を開始した。

 いくら怪我が治ったとはいえ、特別対応班の武器は全て破壊され、機動隊の盾は全て破損している。

 むしろ巻き込まれる可能性があり、ここにいるのは危険だ。

 

 役立たずと罵られようと、魔法少女たちの邪魔になるよりは遥かに賢明である。


 スコラリス・クレキストの誘導に引っ張られながら、これらのやりとりを見て、カラテキック男の中の笛奈(てきな)は喜んだ。

 魔法少女にも警察の頑張りにも、感心した。


 スコラリス・クレキストも評価に値する。

 機動隊を治療するエティーズ・ルテティアをフリーにするため、カラテキック男を引き付けるだけでなく、しっかり無視できない程度の攻撃を挟んでくる。


 スコラリス・クレキストの天性の勘は、的確過ぎて笛奈(てきな)も舌を巻くほどだ。


 一方、エティーズ・ルテティアは自力で魔法を習得し、さらには治療と回復という便利で強力な力を使いこなしている。

 魔法少女になるイベント演出できなかったとディスキプリーナは悔しがるだろうが、才能を自ら開花させる人物は笛奈(てきな)的に評価が高い。


「ふわっはっはっはっ! 警察相手にウォーミングアップも済んだところだ。ここはメインディッシュといこうか!」


 警察の特別対応班に実力の一端を見せ、魔法少女は二人に増えているならば、もはや過度の手加減はいらない。

 五割ほどの力で、様子を見るかと笛奈(てきな)は判断した。


 大きくカラテの構えを取り、そして体勢はとても低くなる。

 低くなったのに大きくなるというカラテの構えは、見る者に違和感と威圧感と恐怖感を与える。


「喜べ、魔法少女ども! これより授業(クラス)を開始する!」

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