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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~   作者: 大恵
第1章 

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第48話 痛がりの魔女 フラジャイル・オーバーリアクテッド・ウィッチ

 小桜(こざくら)姫子(ひめこ)は餓えていた。


 いつの頃からか、何も食べても満たされず、何を口に入れても味がしない。

 甘い、辛い、苦い、酸っぱい、うまい。

 どれも感じるけど、味としては薄くて遠い。


 足りない。

 絶対的な何かが一つ、足りない。

 

 中学二年になったころから、その餓えはより強くなった。

 幸い、少しだけ餓えを満たす方法が見つかった。


 同級生の女の子たちから補い、ほんの少し餓えが癒えた。


 アングザイエティーズ・キスとなってからは、痛めつけて打ち倒した相手からも奪い、少しだけ満たすことができた。

 しかし、圧倒的に足りない。


 数年に渡った餓えを満たすには、あまりにも少なすぎた。


 アングザイエティーズ・キスは餓えを満たすため、不安と災厄を振りまきはじめた。

 

 その彼女が今──────。


「美味しい、おいしい、オイシイ、……ひんひん。………おいしい。……味が、うぐ……味がするよぉ、美味しいよぉ」


 ミンチルが用意したプレイルーム(アジト)で、スコラリス・クレキストが差し出すケーキに食いつき、プレッツェルを食いつくし、アイスクリームを舐めつくし、パンケーキを平らげ、パフェを食い荒らす。


 それはそれは幸せそうな笑顔で、泣きながら止めどなく食べるアングザイエティーズ・キス。

 普段のクールな美少女はそこにはいない。


 猛然とパンケーキを消費していくアングザイエティーズ・キスを見守りなが、スコラリス・クレキストは困惑するばかりだった。


「ど、どうしたの? そんなに食べて大丈夫、ティーズちゃん?」


「私、なにを食べても、なにを飲んでも味がしなくて……砂を噛んでたみたいで……。いくら食べてもお腹が減るし……おいしい、美味(うおォン)しいよ~」


 食べながら返事をするアングザイエティーズ・キスは、もう魔女らしさも学校で憧れの美少女でもない。

 コミカルなアニメで、食いしん坊が披露する食事シーンのようである。

 スコラリス・クレキストが百年の恋も冷めたという顔をしていた。


 一方で、プレイルームのキャットタワーの上から、これを眺めていたミンチルは納得したようである。


「そうか。アングザイエティーズ・キス。キミは魔力が枯渇してたんだね」


「ど、どういうことなの、ミンチル?」


「たぶん、だけど……アングザイエティーズ・キスは、自力でロックを外しすぎたんだ」


「外し……すぎた?」


 理解できないことが多く、感覚派のスコラリス・クレキストは首をかしげる。

 ミンチルはキャットタワーから飛び降りると、アングザイエティーズ・キスの隣へ座って提案を持ちかける。


「えーと、ねえ。アングザイエティーズ・キス。ちょっと変身を解いてもらえるかな?」


「もぐもぐ……今?」


「あ、食べながらでいいから」


「え? ミンチル。ここでは変身は解けないって……あ」


 スコラリス・クレキストはわが目を疑った。


 泣きながらパンケーキを頬張っていたアングザイエティーズ・キスが、一瞬にして制服姿の姫子へと変貌したからだ。

 認識阻害の効果は無くなり、不安を与える威圧も消え去った。


 赤い額の角も小さくなり、ほんのわずかなコブ程度になる。前髪やメイクで誤魔化せる範囲だ。

 もちろんパンケーキは頬張ったままだ。


 今まで貯めた分を消費され、スコラリス・クレキストも微妙な気分である。


 アングザイエティーズ・キスの様子を見て、ミンチルは大げさに何度もうなずく。


「やっぱり。そういうことか」


「どういうことなの? ミンチル?」


「もぐもぐ……」


「姫子さんは、アングザイエティーズ・キスへ変身しなくても、魔法を使える存在。つまり魔女になっているんだ」


「それじゃあ、アングザイエティーズ・キスの時の姫子ちゃんは?」


「もぐもぐ?」


「アングザイエティーズ・キスという魔法少女になっている」


「もぐもぐもぐもぐ」


「……ん? 普段は魔女? それで……変身すると魔法少女になる?」


 スコラリス・クレキストは三段階くらい首をかしげ、柔軟体操みたいなポーズとなった。


「もぐもぐ、うんがぐっく。……つまり、もう私は人間ではないのですね?」


 ほとんど食べ終えて、餓えも落ち着いた姫子が簡潔に話をまとめた。

 ミンチルは肯定するように、目を閉じた。


「そうだね。そして魔女でいるだけで、キミは魔力を消費しつづけた。そして補給する方法がほとんどなくて、枯渇しつづけていた」


 ミンチルは自分の推測を口に出して、あらためてその考えが当たっていると実感した様子で自慢げだ。


「キミはなまじ才能があって、魔力も高かったことが悲劇だったね。才能がなければ魔女になることはなかった。魔力が低ければすぐに尽きて、魔女から人間に戻れていた」


「あ、死んじゃうとかそういうのはないんだ。よかった〜」


 魔女と化し悲しい結末が待っているのかと思ったがそうではないと知り、スコラリス・クレキストが無い胸を撫で下ろす。


「魔力がほとんどない人間になるだけだからね。魔法少女に変身できなくなるだけで、致命的じゃない」


 二度と魔法少女にはなれないが、普通の人間に戻るだけなので致命的でないどころか、安息を得られるという考え方もできる。

 辛い餓えを知る姫子にすれば、そう受け取れた。


「とにかくアングザイエティーズ・キスとして活動しなくても平気だよ、姫子さん。これからは魔法を使うたび、どころか姫子さんが魔女として生活してるだけで、漏れ出す余剰魔力が最適化、変換されて今みたいな食べ物として還元できる」


「まるで永久機関ですね」


「本来はそうなんだよ。魔法的な存在としているだけで、キミたちは永遠に存在できる……けどそれは理論上であって、実際にはわずかなロスやら破損や欠損、魔力の汚れなどがあって実現しない」


「ますます運動のロスや摩擦やエントロピーを入れなければ、計算の上と見た目ではそうなっている永久機関のようですね」


 姫子は理解が早い。

 理想値だけで組んだ理論と、細かく複合的な要因が関わる現実は違うと理解して飲み込んだ。


「それからキミの眷属となっている大きなクモたちも、漏れ出た魔力の汚れと欠損が原因で生まれたものだ」


「ああ、なるほど。私の不効率で穢れた魔法の放出によって生まれたのが、あの(クモ)たち。スコラリス・クレキストが魔法を放出して、ミンチルさんが調整してこのアジトに流し込んで作られるのがあのお菓子たち、というわけですね」


「さすが理解が早いようだね。自力で魔女になっただけある」


 話が早くて助かると、ミンチルは先ほどまで敵対していた姫子を褒めた。

 

「そうなると今まで食べたお菓子は、スコラリス・クレキストさんが貯めて置いてくれた物……。お詫びだけでなく改めて、お礼を申し上げないといけませんね」


 スコラリス・クレキストの蓄えと今後の楽しみを(むさぼ)りつくした知った姫子は、真剣な表情で居住まいを正して礼をする。

 綺麗な座礼をされて、スコラリス・クレキストの方が慌ててしまった。


「お礼だなんて、いいんだよ! ティーズちゃ、姫子ちゃん! それよりもこれからどうするの?」


「そうですね……。私が呪いをかけてしまった人たちは、もう魔力を吸い上げる必要がないので解放するとして」


「あ、そういう理由でやってたの?」


 スコラリス・クレキストはアングザイエティーズ・キスの活動が、暴力衝動の発露ではなく魔力の供給源の確保と知って少しだけ気が楽になった。

 ここしばらく、アングザイエティーズ・キスの活動は活発的だった。

 表に出ていない活動も含めれば、アングザイエティーズ・キスの魔力供給元となってしまった人たちは多い。

  

 さすがに問題になるかなと、スコラリス・クレキストは不安になった。

 その表情を読み取り、姫子は優しく答えた。

 

「ですが、もちろん死者とか大きな怪我をされたかたはいませんよ」


「そ、そうだよね〜」


「死んだ相手や、弱りすぎた相手から吸えませんから」


「ひっ……」


 スコラリス・クレキストが一安心したところから、突き落とす姫子はその様子を楽しんでいる節があった。

 どうも嗜虐的な行動は、姫子の趣味のようだ。


「まったくもう。あんまりスコラリス・クレキストを怖がらせないでおくれよ。それでキミが襲った人たちは大丈夫なんだね? 真面目な人とか行きずりとか犠牲にしてないよね?」


 ミンチルが助けに入り、姫子を問い詰める。


「はい。無差別に襲ってはなんですから、それは厳選しましたよ…………私基準で」


「だ、大丈夫かなぁ……」


「大丈夫ですよ」


 相手が社会的に悪党だとしても、襲って不自由にし力を奪い取っていたのは事実だ。

 これを世間が知ったらどう思うか。

 スコラリス・クレキストは心配そうだったが、姫子はケロッとしている。


「ところで、その前はどうしてたの?」


 スコラリス・クレキストはふと気になり、アングザイエティーズ・キスとしての活動前における魔力補充法を尋ねる。


「クラスの女子から、少しづついただいていました」


「え、どうやって?」


「触れるだけでもいいのですが、効率がいいのは口移しですね。もっと効率はいいのは〇〇からなので、××しながら▽▽を口口して出てきた△△を──


「ひゃーっ! だめーっだめだよ! わーわー、わーっ! って! あ、もしかして取り巻きの子たちって……」


 大声で姫子の卑猥な告白を打ち消していたスコラリス・クレキストは、話の内容からある推論に至る。


「はい。特に魔力の多い子たちだったので、普段から××を……」

「だめーっ! あわわわわっ!」


 具体的にナニをしていたのか言おうとした姫子の口を、スコラリス・クレキストは慌てて両掌で抑えた。

 スコラリス・クレキストにそうされて、姫子はあることに気がついた。


「……あ、もしかして!」

「な、なに? 姫子ちゃん」


 姫子は正座からスッと立ち上がり、自然とスコラリス・クレキストと間合いを詰める。

 そして壁まで追い込み──。


「お礼もかねて当初の予定通り、あなたから直接いただいたほうが……」

「はわ、はわわわ……」


 固まって動けないスコラリス・クレキストの顔に、姫子は唇を寄せ──ようとした時、こめかみに激痛が走る。


「っ! 痛っ! いたたた、ぐっ! な、なにこれ! あ、ちょ、ほんと、に、やば……やめ、だめ、いっ、いたーいっ!」


 姫子は身悶えしながら、プレイルームの柔らかいマットの上を転がりまわる。

 清楚でクールな彼女がここまで痛がるとは、かなりの激痛なのだろう。


 スカートが捲れて中が見えるほど、身を捩ってブリッジ状態になっている。

 普段のクールで余裕ある姫子が形無しだ。


 スコラリス・クレキストはそっと寄り添い、痛がり身悶える姫子を介抱する。


「ひ、姫子ちゃん、だいじょうぶ? って、なんで履いてないの?」


「それは……い、いた……ダメ、私、こういう、いたいの、だけはダメ! いたーいっ!」


 尋常ではない痛がりかたをする姫子を見て、スコラリス・クレキストは心配になった。


「ね、ねえ、ミンチル、なにが起きたの? 姫子ちゃんは大丈夫なの?」


ここ(アジト)は、もともと子供の避難場所(パニックルーム)でありプレイルーム(遊び場)だからね。喧嘩とか悪事とか、らしからぬことをする子にはお仕置きが降るのさ。まったく、助けてもらったのにスコラリス・クレキストを襲うなんて……反省するんだよ」

 

「ご、ごめなさーい、ほ、ほんと、ほんとうに、ごめ、いたーいっ!」


 今までの悪事について謝る気がまったくなかった姫子であったが、さすがにこの時ばかりは「ごめんなさい」という言葉がついて出ていた。


6つ目の味覚、脂肪味があると言われ始めてますね。


…つまり魔力の元は脂肪だったんだよ!

ΩΩ Ω<・・・・・-!

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