第4話 魔法少女は、まだいない
時間は悪の組織が発足して間もない頃。
いまだ本格的な活動もなく、悪の組織は世間に知られておらず、魔法少女が影も形もない時。
地下秘密基地の薄暗く広い部屋。
組織発足間もなく、まだ装飾も施設もないガランとした部屋である。
ぽつんと一つある会議テーブルを囲み、戦闘員姿のアー・ガー・ペーの三人、加えて笛奈が椅子に座る。
なんとも中古品を買ってきたような椅子である。
ところどころメッキが剥げ、金具には錆が浮いていた。
全員が据わるところを確認してから、ディスキプリーナは椅子から立ち上がって会議の開始を宣言した。
「ではまず、誰を魔法少女にするか。の会議を始める」
ローティーンの姿となった人類最強の女はふてくされたように、宣言を終えて座り直す総統に向かって言う。
「なあ、これって俺様が参加しないといけないのか? 魔法? 魔法少女と言われても、テレビまんがであるような魔法も、お前の持つ不思議……本物の力もよくわからんのだぞ。あと今、席から立った必要ある?」
「て、てれびまんがぁ?」
「わしらかてアニメって言うぞ」
「まだ若いのに……」
中身アラサウザンドの戦闘員アー・ガー・ペーの三人が、アニメをテレビまんがと昭和な言い方をした中身七十歳の笛奈をおちょくった。
「ふん。なんだっていいだろう。アニメとまんが? ふん! 同じだ」
笛奈は腕を組んでふんぞり返る。
戦闘員たちは元帝国陸軍軍人で人生の大先輩だが、笛奈は己の力に対する自負があった。
このくらいならば、おちょくられようと揺るがない。
「まあその姿で潜入する場合に、時代錯誤で困るのはオマエじゃがの」
作戦のため笛奈を若返りさせた総統ディスキプリーナは、彼の尊大な態度に呆れた。
「で、総統。魔法少女の候補と言いますが、当てはおありなので?」
最長齢の戦闘員アーが、空気を断ち切って議題に話を戻した。
戦闘員アー。本名 千々岩 鉄次郎
実年齢は齢百歳を超える。しかし戦闘員状態の彼は、元帝国陸軍中尉たるものかくあれといった立ち振る舞いだ。
パイプ椅子に座る姿すら、凛々しく若々しい。
覆面で顔は隠れているが、志太と同じように戦闘員たちも全盛期の肉体を取り戻している。だが、恒常的に若返っている笛奈と違い、彼らの若返りは一時的だ。
戦闘員状態を解除すると、実年齢通りの姿となる。
「その候補なんだが……実は最有力候補が集まる中学校がある」
当てを聞かれた総統は、ドヤ顔で胸を張る。胸はない。
総統の無い胸を眺めながら、戦闘員ガーは若返っているため今は無いヒゲを撫でる仕草をしながら肯く。
「ほう。まとまっていて面倒が減るってわけじゃな」
戦闘員ガー。本名 森石 胤和
彼は元帝国陸軍の軍曹で、砲兵ながら当時珍しい自動車免許を持っていたため、トラックの運転を行い、手先の器用さから機械修理など行っていた。
戦闘員となり肉体が若がっていても、立ち振る舞いが老人のような印象を与える。
「集まってるって、何人くらい?」
戦闘員ぺーが、身を乗り出して気安い態度で総統に尋ねる。
戦闘員ぺー。本名 蓼川 宗吾
その様子は近所の兄ちゃんという印象だ。
彼も元帝国陸軍の一等兵であったが、三人の中でもっとも軍人らしくない。
徴兵され軍人であった期間も短かったからだろう。
だが貰った若さを最大限に活用し、人格にもっとも影響を受けている人物だ。
戦闘員ぺーの質問を受け、ディスキプリーナは情報を記した紙を配った。
「才能があるのは四人。全員同学年じゃが、二人は同じクラスで、二人が別々じゃ」
五人の魔法少女を育てることを想定していたため、件の学園だけで八割揃う計算である。
都合がいいな、と気楽な戦闘員三人に対し、笛奈の顔つきは厳しい。
「ちょっといいか? 総統さんよ」
身を乗り出し、総統に提案する。
「なんじゃ、笛奈」
「本当に才能があるかどうか、この俺様も見届けたい」
「おぬしに魔法がわかるのか?」
総統は可愛らしく首を傾げた。その様子は総統らしくない。
笛奈の目は自信に満ち溢れている。その様子は歴戦の格闘家らしかった。
「わかるわけがないだろ。だが戦いのセンス、心構え、そういったモノはわかる」
「ふむ。魔法の才だけではなく、確かにそういった才能もいるか」
総統ディスキプリーナはなるほど、もっともだと肯き、嬉しそうに立ち上がった。
「さあ、では笛奈……いや、総怪人将軍カナキャタクリズミクリィ! 貴様も一緒に潜入して貰うぞ」
悪の総統らしく命令できるのが嬉しいらしい。
その様子を戦闘員たちは孫娘のごっこ遊びを見守るように、温かく優しい目で眺めている。
「ああ、任された……ん? 俺様も? 俺様もって、あと誰?」
面倒くさそうに頭を掻きながら、総統ディスキプリーナの命令を聞きいて首を捻った。
今いるメンバーは、戦闘員三人と志太だけである。
戦闘員スタイルは、仮の姿のアバターだ。
解除すると、百歳の老人たちが中学校に潜入できるわけがない。
生徒は無論、先生でも事務員でも無理だ。百歳労働が当然になるほど、まだ日本はピンチではない。
悪の組織とは違うのだ!
「わからんか? このわしだッむぅごっふ!」
総統ディスキプリーナは、ぺったんこな胸を叩いてむせた。
笛奈と戦闘員たちは、「まあ小学生みたいな総統でも、中学生と言い張れるかな?」と、納得してそれ以上は口を挟まなかった。




