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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~   作者: 大恵
第1章 

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第30話 新必殺技は殺さない


「ハート・アングルス!」


 距離もあったこともあり、初撃はスコラリス・クレキストが放った。

 しかし、相手が悪いこともあり、初速が早くても連射も効かない魔法ではなかなか命中しない。

 あくまで牽制だ。


 面踏み蹴り男はこれを屈んで躱し、間合いを詰める……が。


「くっ。身体が重い!」


 胴着が海水に濡れ、引き潮に逆らって泳いで体力は落ちていて、動きは遅い。

 本来の笛奈(てきな)ならばものとも……いや、泳いで体力はかなりおちているが、それでも動きが遅くなるほどではない。

 しかしこれはこれで笛奈(てきな)は負ける理由にちょうどいい。

 なので、わざと不利であることを大げさに叫んだ。


 間合いを詰める足が遅い。

 それを見越し、なおかつある程度引き付けてから、クレキストは新必殺技を放った。


「ハート・アングルス・ショット!」

 

 単発でしか発射できなかったハート・アングルスという魔法が四発、同時に放たれた!

 一言「ショット」という言葉を付け加えただけに思えるが、しっかりと新必殺技である。


「なんだと!」


 面踏み蹴り男はそのうちの一発を避けきれず、足を止め、しっかりと腕でガードした。

 せっかくの新技ということもあり、わざと受けたのだが、思いのほか衝撃が重く、倒れないため踏ん張ることとなる。

 クレキストの攻撃はまず牽制、相手を近寄らせ、拡散する攻撃で当てやすくする戦法。

 この戦闘のセンスはどこからでているのか? と感心しつつ、笛奈(てきな)は舌を巻く。


 今度はクレキストが間合いを詰めてきた。

 だが、遅い。速ければ一撃喰らってやっても良かった、と笛奈(てきな)は考えていたのだが予定を変える。

 

(──足場の砂地で初速が出なかったか)


 まだまだ甘いな、と体勢を整え終えた面踏み蹴り男は縦拳を突きだした。

 クレキストはこれを受けて払う……が、できない。

 

 払いきれず、狙いを逸らせたが肩に打撃を受けた。

 苦痛に顔を歪めるクレキスト。だが、面踏み蹴り男は容赦しない。

 中学生の女の子相手でも、鍛えようと決めている笛奈(てきな)は、打撃の痛みくらい乗り越えろというスタンスだ。


 怯んだクレキストに連撃を加える面踏み蹴り男。クレキストは受け流しは難しいと、すぐにガードと回避に専念する。

 日拳の縦拳に苦戦するクレキスト。


 大別してパンチには、ボクシング教本通りのストレートや空手の正拳突きなどに対し、縦拳の二種類がある。

 ストレートといえばボクシング。

 正拳といえば空手。

 有名で一般的なパンチだ。

 特に空手の正拳突きではより顕著だ。

 腰では手の平部分を上にして、打撃点では拳の甲は上を向く。

 百八十度回転するわけである。


 一方、縦拳は構えた時のまま、拳が捻られることもなく真っすぐ突き出される。


 拳が回転しながら進んでこないため、見た目の動きが少ない。

 多少大げさにいえば、迫ってくるように見えないのだ。

 しかも初速が正拳よりあるため、防御が難しい。

 なおかつストレートや正拳突きなどに比べて横へ受け流しにくい。

 だがそんな縦拳にも問題はある。


 上下への打ち分けが、ボクシングのジャブやストレート、正拳突きなどに比べて難しいのだ。

 数発、肩と胸と縦拳を受けたクレキストは、速さと受け難さのわりに、拳が上下にブレると気が付いた。

 攻撃直前の《おこり》が見えにくい縦拳だが、胴から顔、顔から胴への狙いの切り替えならばクレキストの目からよく見えるのだ。


 ──もっとも、笛奈(てきな)はわざと見えるように手加減をしているのだが、それでも気が付くクレキストは才能に溢れている。


 これを元に縦拳に対応。

 下から上に狙いが変わった瞬間を見て、クレキストは小さな体格を活かして低く、低く低く踏み込んだ。


 笛奈(てきな)が泣いて喜ぶほど、彼女の戦闘センスは優れている。

 だが──


「ふはっはぁっ! 甘い!」


 空を切る縦拳。その下を抜けるクレキスト。そこへ飛ぶ面踏み蹴り男の膝蹴り!


 あまり有名ではないが、日拳の決まり手や一本には膝蹴りが多い。

 さらに倒れた相手や投げた相手へ対し、膝を当てる技がある。

 通常では有効打になりそうにない近距離の膝蹴りが、日拳では思わぬ鋭さを持っていた。


 全身の捩じりから放たれるショートレンジ向きの膝蹴り。

 これを辛うじて両手を十字にして受けるクレキスト。だが、膝蹴りで軽く上がったクレキストを、面踏み蹴り男は身体を流して崩す。


 膝蹴りからの体崩しを受け、クレキストは砂浜に転がった。

 攻撃は終わらない。日拳の決まり手に、投げ単体は基本的にない。

 投げた相手に、《必ず》トドメの攻撃!

 これが日拳の特徴だ。


 クレキストは腕を捕まれているため、首を捩ることで面踏み蹴り男の踏みつけ攻撃を避けた。

 面踏み蹴り男は軸足を変え、逆の足を振り上げた。

 腕を極められ、首を捻りきったため、もう次に躱す方法ない……はずだった!

 

「ハート・アングルス!」


 ねじりあげられた腕に持つステッキから魔法が放たれた。

 近距離からの射撃を、腕を離すことで躱す面踏み蹴り男。だが踏みつけ攻撃は終わっていない!

 腕を解放されたクレキストは、転がってこれを回避。

 逃がすまいと、面踏み蹴り男のさらに踏み出す。

 また転がる。

 踏み出す。

 転がる、踏み出す、転がる、踏む、転がる踏む、転がる踏む転がる踏む!


 遠くから見ると面踏み蹴り男が地団駄を踏んでいるかのようだ。

 しかし異常な速さで繰り出されるため、クレキストは立ち上がることも一気に距離を取ることもできない。


「これもう日本拳法じゃないの~」

「ですね」 


 多少知識のあるガーとアーが突っ込みをいれた。


「がんばれー、クレスちゃーん!」

「負けるなー」


 サーファーたちの声援が届くが、クレキストは立ち上がれない。面踏み蹴り男の追撃から逃げるのに全力だ。


 面踏み蹴り男はクレキストを踏みつけるため、砂浜を耕しながら突き進む。

 クレキストは砂にまみれながら、海に向けて転がっていく。

 

 ついに二人は波打ち際へと達する。

 そこでついにクレキストが、転がり回避以外の手を取った。


「ハート・アングルス……」

 

 転がり回避するクレキストは浅瀬の水に潜り、ハート・アングルスは発射されなかった──かに思えた。


「バカが! 水の中で! ……おわっ!」


 (おご)る面踏み蹴り男が、足を掬われて倒れた。


 クレキストは海面に入る前に、魔法を詠唱。海の中に入った時、水中のステッキから面踏み蹴り男の踏み込む位置に向けて発射。

 位置は予測しやすい。

 なにしろクレキストの頭があったところ狙っているのだ。

 そこを撃てば、必ず面踏み蹴り男の足がある。


 彼女のこの戦闘センスはどこから来ているのか?

 これを理解できる笛奈(てきな)と戦闘員たちは、十三歳の小夏を空恐ろしく思った。


 わかっていたが、笛奈(てきな)はあえてハート・アングルスが撃ち込まれた砂地を踏んだ。

 予想外に足が掬われる。

 当然だ。

 引き潮の最中に、少しでも砂地に凹みがあれば、波は周囲の砂をさらって行く。


 引き潮の勢いと、流れていく砂地の足場が合わされば、人は簡単に転倒する。

 例え格闘を極めた男であると、耐えられない。というか、本人が想定していた以上にスッ転んだ。


「がぼぼ! ぶはっ!」


 面当てと胴当てに水がはいり、面踏み蹴り男はすぐに立ち上がれない。

 ついでに砂も噛んでいる。

 その隙、クレキストが海面から跳ねあがる。

 重装の面踏み蹴り男と違い、露出激しい水着スタイルが功を奏した。


「ていやーっ!」


 立ち上がりかけた面踏み蹴り男に向け、クレキストの回し蹴りが叩きこまれた。

 魔法で強化されたクレキストの蹴りが、ガードした面踏み蹴り男を問答無用で吹き飛ばす!


「ハート・アングルス!」


 吹き飛ぶ面踏み蹴り男へ、追い打ちの魔法を撃ちだす。蹴り足が付いた瞬間なので、おしりを突きだし身体を捻り背後を撃つポーズはセクシーで、それでいて一種のカッコよさを持っていた。


「0○7!」

「死刑っ!」


 ガーは往年のスパイ映画のオープニング、ペーは往年のギャグマンガのキメポーズを想起した。

 クレキストのポーズは、ペーが発言したキャラのポーズに近く、イメージが被ってカッコよさが薄まったな、とアーは顎を撫でた。

 

 幸い観戦していたサーファーたちは英国のスパイ映画の方しか知らず、ペーのイメージで上書きされることはなかった。


 ハート・アングルスで撃たれ、ガードはしたもののさらに吹き飛ばされる面踏み蹴り男。

 

 彼は海岸から遠く離れた場所へ着水した。

 すぐに顔を出し、無事そうである。


 この状況に、観衆のサーファーたちは盛り上がった。

 先ほどの泳ぎがまたみられると、スマートフォンによる撮影が開始された。


「おおっ! 潮に逆らって泳いでいるぞ!」


「すげぇ! あの泳ぎが見まだられるのか?」


「……いや、流されてね?」


「遠ざかってるかな?」


「ちょっと進んだけど、ああ、うん。ペース落ちてるな」


「あ、ああ……ああー、ダメだ。完全に引き潮に飲まれてる」


「二回目は無理かー」


 落胆するサーファーたち。


 引き潮に逆らって、戻ってくる体力が怪人にはもうなかった!

 泳ぎを横泳ぎに変えたが、すぐに立ち泳ぎに変え、なんとか浮き沈みしている。

 岸にいる岸小夏クレキストの元に、面踏み蹴り男はもう戻れない。


「なんであの人、真っすぐ戻ろうとするんでしょうか? となりの海岸の岩礁なら引き潮弱いのに……」

 

 戦闘員アーは頭を抱え、号令をかける。


「……回収!」

「ヘーイ!」

「ヘーイ!」


 さすがにこれはもう危険と判断し、戦闘員たちは近くのボートを無断拝借して、面踏み蹴り男の回収に向かった。

 そんな戦闘員たちの犯罪を、水着を直す振りをしてスコラリス・クレキストは見逃した。

 

「ちょっと飛ばしすぎちゃったかなぁ」


 怪人とはいえ、溺れさせて死なせてしまっては寝覚めが悪いようだった。

 

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