第七話 魔道具
既に分かっていらっしゃる方も多いと思いますが、のっぺらぼうのお二人は数十分前に私に絡んできたチンピラのお二方で間違いありません。
ダンジョンの入口という事もあり、パーティーと待ち合わせをしたり、私のように仲間が受付を済ませている間、邪魔にならないように待っている冒険者が多数見受けられました。
そのような場所で人を殺すような真似は出来ませんが、怒りに震える部下を宥める為にもそれなりの対応が必要です。場合によっては部下が殺しかねませんからね。
という事で、私に絡んできたチンピラ二人───ピン美さまとチン代様の顔を頂きました。
文字通りの意味です。皮を剥ぐのではなく、目、鼻、口といった顔のパーツ全てを頂きました。取られた後は前途の通り妖怪『のっぺらぼう』のようにつるりとした顔があるだけです。
何が起きたか理解出来ていない様子のお二方に、頂いた顔を見せると悲鳴を上げていましたね。パッと見は職人が作った精巧な仮面にも見えますが、本人であれば一目見れば自分の顔だと認識出来るそうです。
見間違いか、あるいは悪い夢だと思いたいのか自分の顔をぺたぺたと触り、そこにある筈のモノがない現実にチンピラの二人は腰を抜かしていましたね。
さて、皆さまも気になるであろう『顔を頂いた方法』についてです。と言っても難しい技術を作っている訳でもなく『未来視』の指輪のようにダンジョンで拾ったアイテムを使った結果ですね。
私は左手に腕時計をつけているのですが、実はこの時計に秘密が隠されています。元々は小さな針のような形でしたが、そのままでは使いにくいので部下と一緒に改造して、今の腕時計の形になりました。
使い方は簡単で、腕時計を触ってから相手の顔に触れるだけです。それだけで対象の顔を頂けます。使い勝手がいいですね。
───『仮面作成』。
それがこの腕時計の能力名称です。触れた対象の顔を頂き、仮面に変える。顔を頂かれた者は知っての通りのっぺらぼうになります。
この能力の面白いところはここからで。二人以上の顔を頂いた場合、顔を取り替える事が可能なのです。手術のような大掛かりな事をせず、のっぺらぼうに仮面を被せるだけという、それだけの工程を顔を変える事が出来ます。
何とも裏社会に向いた能力だと思いませんか?万が一犯罪がバレて指名手配されたとしても、適当な人間の顔を頂き入れ替わればいい。それだけで逃げ切る事が出来ます。
このドロップアイテムを手に入れて、能力を知った時は思わず小躍りしたものです。私が欲していた理想系の能力でしたからねー。
とまぁ、このように特殊な能力を持つアイテムがダンジョンには存在します。冒険者は魔石を集める傍らで、これらのアイテムを血眼になって探している訳です。アイテムがあるだけでダンジョンの探索が楽になりますからね。
効率よくアイテムを入手するなら、一定の確率でダンジョンに現れ、隅の方で縮こまっている『アトランダム』というモンスターを倒す事でしょうか?
このモンスターを倒すと、私が持っているの物と同じような不思議な能力を持つアイテム───『魔道具』をドロップします。ただし、能力は全てランダム。運が悪いと何もないアイテムがドロップする事もあるとか。
有識者によると『アトランダム』よりもボスモンスターを倒して入手した魔道具の方が能力の質が良かった、なんて声もありましたね。
はい。ここまで言えば分かりますね。魔道具の能力は全てガチャです。
運が良い者は一個目から有益な能力を持つ魔道具を入手しますが、運が悪い者は百個入手しようと粗末なモノばかりとか。なんとも可哀想な話ですね。
私やレヴィ様は魔道具に苦労した覚えはありませんので、そういう話を聞くと『大変ですねー』としかお言葉が出ません。
───話が逸れましたね。
魔道具の能力によってピン美さまとチン代さまの顔を頂いた後、それらを交渉材料にダンジョンの同行をお願いすると、潔く承諾して頂けました。震えていたような気もしますが、気の所為でしょう。
お二方の役割は主に魔石の回収です。
ダンジョンの受付の際に魔石のみを収容する専用のバックが渡されます。拒否すること出来ますが、ダンジョンを出る際の手続きがスムーズなので拒否する冒険者は少ないですね。
自動的に数と重さを計測する機能がついたバックなのですが、正直に言ってかなり大きいです。そんな計測機能を付けるのならゲームのように上限なくアイテムを仕舞える機能にして欲しいと、冒険者はついつい思ってしまいます。無駄に大きいので背負うと動きの邪魔になるんですよね。
とはいえこのバックがなければ効率よく魔石を回収、運搬できないのは事実です。冒険者は無駄に大きいバックを背負ってダンジョンの探索を強いられる訳です。
個人でダンジョンを探索する場合は一人でモンスターを討伐し、ドロップした魔石を回収するという作業を行うのですが非常に効率が悪い。
一応、戦闘には参加せず魔石の回収のみを行ってくれるダンジョンの職員さまがいらっしゃるのですが、危険なダンジョンに同行するという事で割高です。
そんな背景があるので、政府は個人ではなくパーティーでの探索を推奨する訳ですね。二人以上のパーティーなら戦闘員と回収や補助に専念するサポートで別れる事が出来ますから。
今回の場合ですと、戦闘員は私とレヴィ様。魔石の回収を主とするサポート要員がピン美さまとチン代さまになります。
「ボス、あの女……どうするつもり?」
せっせと魔石の回収を行っているお二方……ではなく、モンスターを相手に無双しているレヴィに対して言っているようです。
影から聞こえる声から、彼女の不満が感じ取れます。
「どうするとは?」
「あの女がお得意様なのは僕も知ってるけど、ボスも知っての通りあの女は政府に近い位置にいる」
「後暗い事をしている私たちにとっては危険と、梓さんは言いたいのですね」
「はい」
梓さんの懸念はごもっとも。
レヴィ様は英雄として扱われる前から政府に近い立ち位置にいました。レヴィ様がドイツの有力者の娘というのもありますが、彼女自身の能力の高さが一番大きいでしょう。
ドイツからレヴィ様が派遣された後に、政府が発足したダンジョン探索の専門チームのリーダーに任命され、成果を上げていたという情報は入手しています。
専念チームを抜けた後に個人で探索を始め、英雄と呼ばれるに至った訳ですが……まだ、専念チームとの縁が完全に切れた訳ではありません。
加えて、私たちの商売は基本的に非合法です。法の外で商いをしておりますので、政府に近い位置にいる彼女を危険視するのも無理はありませんね。ですが。
「レヴィ様なら大丈夫です」
「ですが!」
欲に負けて飛び付いてきたとはいえ、梓さんは優秀な部下の一人、知恵も回ります。最悪を想定して、私たちの敵となる前に排除したいのでしょう。その胸にあるのはボスに対する忠誠心。
「もう一度言います。レヴィ様なら大丈夫です。既に買収済みですから」
「っ!……英雄をこちら側に引き込んだのですか!」
「はい。その通りです」
使ったのはお金ではありませんがね。レヴィ様ほどの冒険者であれば有り余る富を持っておられます。当然、お金では釣れません。
だからこの世界の異常性と、レヴィの好意を利用する事にしました。
「私の上半身裸の写真を交渉材料にしたら、二つ返事でしたね」
綺麗な即答でした。首がもげるんじゃないかと心配になるくらいブンブンと首を縦に振っていましたね。
ん?おや?影が揺らめいて……。
「ボスの裸は僕のモノだ。あの女は絶対殺す!!!!!」
───梓さんステイ。




