第四話 ダンジョン
国によって管理されていたダンジョンが民間に解放されたのは今から80年ほど前。それまでは国の軍隊や専門チームによりダンジョンの探索が行われておりました。
民間に解放される理由として挙げられているのは、魔石の需要が増える一方なのに対し、供給が間に合っていなかったという単純な理由です。
当初は国が魔石を高値で買い取る事を表明していた事もあり、一攫千金を夢見て多くの人間がダンジョンへの足を踏み入れました。ただ、現実は甘くはありません。
戦闘訓練を行っている軍隊や専門チームでなければ探索すらままならないのが、ダンジョンという魔境です。
ダンジョンに眠る莫大な富は人々から理性を奪い、ダンジョンへと誘う。そして待ち受けるモンスターを前に軍人ですら命を落とす。
なんの訓練も行っていない一般人がダンジョンに入って、尚且つ魔石を手にする為にモンスターを倒すなど出来る筈がありませんでした。
その時に出た犠牲者の数は決して少なくはありません。ダンジョンに無謀に挑戦した者の自己責任だと言う声もありましたが、説明が不足していた事もあり批判の声が政府に集まったとされております。
政権交代したばかりだったのもあり、批判の声を重くみた政府は素早く対応。そして現代に至るまで残っている法律が制定されました。
細かい所まで話すと長くなりますので、要約すると以下の通りです。
───ダンジョンでの死は自己責任。
あくまでも自主的に、自らの意思でダンジョンに入ったという形にしたいようです。このような形になったのは亡くなった方の親族が国を相手に裁判を起こしたりと、大きな騒ぎになったからですね。
最近になって冒険者にも適応される保険なども出来ましたが、月額の費用は高めのようですね。家庭を持っていなければ入る事はないでしょう。
───ダンジョンで入手したお宝に関しては発見者の所持権が認められますが、魔石は必ず国、及び政府が委任した企業に納品すること。
魔石は先も言った通り活用方法の多いエネルギー体です。悪人の手に渡り、悪用されるリスクを避ける為に魔石の扱いは厳格化されています。
ダンジョンの出入りの際に管理人から確認されますし、唯一存在する出入口に魔石にのみ反応するゲートがあるので、隠して持って帰るなどはできません。
そのような行いが発覚した場合、冒険者の資格は即剥奪の上、重い刑罰が待っています。
───ダンジョンには『冒険者』の資格を持っている者しか出入り出来ない。
冒険者の資格もまた医師や弁護士のように国家資格として扱われており、資格を得てから役所などに申請する事で『冒険者』として扱われます。
ただし、制限なくダンジョンを探索出来る訳ではありません。モンスターの巣食うダンジョンは階層が上がるにつれモンスターが強くなる傾向にあります。実力の伴わない冒険者が格上のモンスターに挑み、その命を落とさないように、一定の階層事にランクを設けています。
ここまで言えば分かると思いますが、冒険者にも同じように資格取得と同時にランクが与えられます。そのランクと同じ階層のみ、冒険者は探索出来る訳です。分かりやすい例ですと、Eランクの冒険者はEランクの階層だけ、といった形です。
冒険者がランクを上げる方法は幾つかありますが、手っ取り早い方法は然るべき機関で試験を行い実力を認められる事ですね。強ければ上の階層に行っても問題ない訳ですから。
このよう資格制度を取り入れ、厳しく制限するようになってから死傷者は大きく減少しました。
何の訓練も行っていない素人を不用意にダンジョンに送り出すだけでは犠牲者が増えるだけですからね。
専門の機関で教育と訓練を施す事で犠牲を減らし、強いては魔石の供給量を増やす事が成功。資格制にする事で冒険者の数と質を管理出来るのも強みですね。
他にも法律による様々な制約はありますが、資格を取得した後なら厳守しなければならないのは魔石の取り扱いくらいでしょう。
また、法律とは別に政府が推奨している事柄が幾つかあります。
───ダンジョンの探索はソロではなくパーティーを組んで行うべし。
ダンジョンに巣食うモンスターは非常に獰猛で、種類にもよりますが人間に近い頭脳を持つ個体もいます。
ダンジョンを探索する冒険者を罠にはめようとしたり、単純な数で制圧したりなど、私たちの想像以上の事をやってくるのはザラです。
単独行動でのダンジョン探索は大変危険なので推奨されていません。人間の腕は二本、足も二本、頭も一つと、一人で対応出来る事は限られます。パーティーを組んで仲間と協力した方が生存率は格段に上がるので、余程の理由がない限りはパーティー推奨です。
───ダンジョン内で負傷した場合、速やからに脱出すること。
モンスターとの戦闘を行えば必ず負傷する機会は訪れます。その際には傷の大小に関わらず、速やかにダンジョンから撤退する方が生存率は高いです。
ゲームのような回復薬はまだ世に出回っていませんので、負傷したらその傷を庇って戦う事になります。小さな傷でも放置すれば厄介な事になる事も。
ゲームのようにエンカウントが決まっている訳ではないので、その場その場での対応を強いられる状況で、負傷は大きなデバフです。血の匂いに反応するモンスターもいますからね。無理せず撤退するのが最善でしょう。
さて、何故このようにダンジョンの話をしているかと言うと。
「それでは行こうかmein Schatz」
これから私自身がダンジョンに潜るからですね。 お得意様からの依頼を受け、共に新層まで向かう予定です。報酬も美味しかったですし、私もダンジョンの新層に興味があったのでお受けした形ですね。
ちなみに、お得意様の名前はレヴィリア・オルフェンス様。
───『金の豚』の異名を持つ、日本に3人しかいないSランクの冒険者です。
余談ですが、彼女が口にしたmein ・Schatzはドイツ語で私の宝物という意味だったりします。重いですねー。




