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男女比がおかしい世界で秘密結社のボスをしている  作者: かませ犬


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第三十二話 ラスボス

 この世界がゲームの世界?


 バカバカしい話だと笑い飛ばす事は簡単ですが、あのレヴィ様がわざわざ手紙に書き写してまで私にこのような冗談を伝えるとは思えない。


 ルカさんがやったのであればクソ猫!と文句を言いながら破り捨てたでしょう。ここら辺は信頼関係によるものですね。


「なるほど……レヴィ様はこの世界の元となったゲームをプレイした事があると」


 手紙を読み進めていけば何故彼女がこのような結論に至ったか、その理由が事細かに書かれております。少しばかり長い内容ですが以下の通りです。


 レヴィ様は前世の記憶を所持しておいでです。それはダンジョンでのやり取りから察する事も出来ましたが、占い師の先生から聞かされた話と合わないので、レヴィ様の頭が可笑しいだけどと切り捨ててしまっていました。


 その件に関しましては、後日レヴィ様に謝罪を意を示さなければならないですね。


 話を戻します。レヴィ様の生前の名前は高橋(たかはし) 明彦(あきひこ)というそうです。名前から分かる通り前世は男性であったようですね。享年は34歳。独身であり彼女いない歴いこーる年齢と書かれています。


 正直に言ってこの世界がゲームの世界だとカミングアウトされた時よりも驚きは強かったですね。


「なるほど……」


 手紙には何故自分に恋人がいないのか、思いの丈をぶつけるように文字が書きなぐってました。それは全て前世でプレイしたゲームが影響なのだと。


 レヴィがプレイしたゲームの名前は『Abyss(アビス)』。


 当時20歳の時にレヴィ様はそのゲームと出会い価値観を変えられたと強く訴えております。なんでもそのゲームに登場するラスボスに恋をしてしまったとか。


 それまでは普通の恋愛観を持つ一般男性だったと書いております。ゲームに没頭し、物語にのめり込み、キャラの心情や過去を知り、そして恋に落ちてしまった。


「一度出来た理想は簡単には越えられないですからね」


 現実の世界にはレヴィ様が恋に落ちた、ゲームのキャラよりも魅了的な人間はいなかった。創作物というものは人の理想を具現化したようなものです。現実が理想を超えるのは難しいもの。


 とにもかくにもレヴィ様はゲームのキャラに恋に落ちて、何度も何度もそのゲームをプレイしたそうです。


 どれだけプレイして、どれだけ攻略してもそのキャラとのHシーンがないのが残念だと無駄に多い文字量で語られていますね。そこで初めてレヴィ様がプレイしていたゲームがアダルトゲームである事を知りました。


「つまり、この世界はアダルトゲームの世界?」


 できる事ならゲームの世界観を知りたいのですが、現状の手紙から読み取れる内容はレヴィ様がどれだけゲームのラスボスを愛していたかという、彼女の熱い想いです。


 ここら辺は読み飛ばしても構わないですかね? 本当に長くなりそうなので、飛ばし飛ばしで読んでいきましょう。


 ひとまず読み進めて分かった事はこの世界がアダルトゲームの世界である事。所謂抜きゲーと呼ばれるエロに特化したゲームではなく、所々にエロが挟まるファンタジー作品といった印象でしょうか?


 ゲーム性やストーリー、世界観がどれだけ素晴らしいかを原稿用紙10枚分くらいで長々と語っていますね。レヴィ様が語る言葉通りなら名作と呼ばれる一本でしょう。


 エロゲーの醍醐味である抜きシーンよりも、ストーリーやキャラクターが評価されている作品のようですね。全年齢対象版が出たりコミカライズやアニメ化もした作品のようです。


 レヴィ様は特に原作と呼ばれるエロゲの方が大好きらしく、ストーリーを百週以上したとか熱弁しております。


 原作にしかないエロシーンの素晴らしさや、全年齢版にはない少しエッチなラスボスとの絡み、それがどれだけ素晴らしいか興奮が伝わる文面で書かれています


 好きなキャラのそういうシーンが見れたら嬉しいですよね。と他人事で読んでいたのですが。

 

「私も登場するのですね……それもラスボスとして」


 ゲームに登場する主人公や攻略キャラクター、サブキャラクターなどについて記載されている部分でようやくレヴィ様の愛するラスボスの名前が明かされたのですが……。


 そこにあった名前というのが『早乙女(さおとめ) 夏樹(なつき)』───つまり、私の名前です。


 キャラクターの肩書きについても楽しそうに書かれており、私のものには秘密結社『faceless angel』のボスなんて一文があるので、まず間違いはないでしょう。


 ふざけた話だ。


「私はゲームのキャラクターに過ぎない?」


 言葉にすれば遅れて実感が湧いてきました。同時にこの世界がゲームの世界だと明かされた時には感じなかった憤りがふつふつと沸き上がるのを感じます。


 この世界がゲームの世界であろうと私には関係ない。私自身の目的の為に動くだけだと、他人事のように考えていました。まさか私自身も当事者であるとは。


「認めたくは……ありませんね」


 ゲームやアニメには必ず製作者が存在します。ストーリーであったり世界観の設定、キャラクターの設定まで事細かく作り上げる創作者の存在が必要不可欠です


 この世界がゲームの世界であるのならば製作者によってあらゆるものが創られた事になりますね。


 なら、私が今この時この場で感じている感情と想いも記憶もその全てが作られたものだと言うのですか?


 私に起きた悲劇すらストーリーを加速する為の舞台装置だと……そう言いたいのですか? ゲームに登場しないモブキャラであればそこに製作者の意図は入り込まない。


 ですが、レヴィ様が語る通りラスボスの立ち位置に着くのであれば私はゲームの中核をなすキャラクターという事になる。必ず製作者の手が入っています。


「不愉快ですね」


 嗚呼。本当に不愉快です。


 認めたくない。この私が誰かに作られた存在なのだと。


 ですが、私の目の前にある手紙はその僅かな望みすら否定する。


「本当にこの世界はゲームの世界なのですね」


 ため息が出ます。


 紙に書かれているのは私の部下についての言及。それはこちら側に引き込んだとはいえ、本来ならレヴィ様が知り得ない情報の数々。


 梓さんの過去。ルカさんの過ち。双子の性癖。私自身ですら忘れていた幼い頃の記憶。


 あまりに知りすぎている。本来なら知ることすら不可能な事まで手紙には書かれています。


 嫌でも認めざるを得ないでしょう。この世界がレヴィ様がプレイしたゲームの世界であると。


「構いません。受け入れましょう。私の望みが叶うのであれば」


 私自身が作られた存在であっても構わない。この世界が作られた世界であっても。作られた悲劇であっても構わない。


 私はあの日の誓いのままに『アビス教』を壊す。それだけです。


「受け入れると不思議と納得がいきますね」


 ある日を境に変わった世界。


  ───突如として地中から生えてきたダンジョンの存在。


 何の前触れもなく世界各地の都市部に出現したダンジョン。二百年近く経過した現在においても、多くの謎を残したままです。誰が創ったのか。何の目的で生み出したのか。何一つ分からないまま。


 その答えに今辿り着いた気がします。


 この世界がエロゲーの世界であるならばダンジョンはゲームの要素に過ぎない。エロだけでは人はいずれ飽きてしまう。


 人を惹きつけるにはエロだけではないゲーム本来の楽しさが必要です。


 ヒロインとのコミュニケーションとエッチだけでなくダンジョンという要素を追加し、モンスターとの戦闘でプレイヤーを楽しませ、魔道具というガチャ要素で更にプレイヤーを引き込む。


「ダンジョンは……言わばプレイヤーを楽しませる為の舞台装置という事ですか」


 ダンジョンに住まうモンスターが都合よく魔石を落とすのもゲームにおけるお金だと思えば納得がいきます。


 ダンジョンの階層にランク制限がかかっているのも、プレイヤーにランクを上げる楽しさを与える為。あるいはプレイヤーが予期せぬ強敵と出会い敗北して萎え落ちしない為の救済処置といったところでしょうか。


「そして世界が変わったタイミングもまた、偶然ではなかった……と」


 ───男女比の偏り、貞操観念の逆転。


 女性が男性に性的な目を向け、男性と性行為する事を心から待ち望む。あまりに男性側に都合の良い世界へと唐突に変わりました。


 それまでは男女比は同じ。価値観も今の世界のようにイカれていなかった。


 この世界が変わったのは今から一週間前。


 そして、奇しくもゲームを最初からプレイした場合の日時はこの世界の男女比が変わった日時と一致します。


 決して偶然ではないでしょう。世界が変わったのは原作が始まったからだと、そう思えばこの超常現象も納得がいきます。


「一週間前……世界が変わったあの日に原作は開始した」


 レヴィ様は手紙でこう私に伝えたいそうです。


 ───ゲームは……原作はもう始まっていると。


 何故、レヴィ様が私に手紙を書いたのか。一番の理由はゲームの結末を知っているから。私というラスボスがどのような最期を遂げるかを知っているからこそ、レヴィ様は未来を変えたかった。


 ラスボスという立ち位置にいる事からどうなるかは凡そ察しはつくと思いますが、まずはレヴィ様が記したゲームの私について語らなければならないでしょう。


 ゲームにおける早乙女 夏樹というキャラクターは最終的な立ち位置はラスボスとして扱われていますが、どちらかと言えば主人公陣営のキャラクターだそうです。


 そもそもの話、ゲームの主人公の()として終始描かれているのは私ではなく『アビス教』です。


 主人公は幼い頃に両親がアビス教にのめり込んで捨てられた過去を持ち、苦しい少年時代を過ごしました。そんな時に主人公を支えてくれた大切な親友がいたのですが、ある日アビス教の信徒によって親友が殺害される現場を目撃してしまった。


 その現場を目撃した主人公を消す為に信徒に命を狙われ、どうにか逃げ延びた先でヒロインと出会い物語がスタートする。そんな流れな訳で……主人公と私は共通の敵を持つ存在として描かれています。


 レヴィ様の情報によると私はどうやら一定の条件を果たすとパーティに加入するキャラクターのようですね。


 他のヒロイン同様に好感度システムが存在し、仲良くなる事でイベントが発生。一定以上になると少しエッチなシーンもあるとか。男同士ですよね?


 ヒロインのように性行為をする訳ではないようですが、それがまた興奮するなんてレヴィ様の感情が書きなぐっていました。前世はレヴィ様も男性でしたよね?そして男性キャラである私に恋をした? ……深くは考えない方がいい気がしました。


 攻略難易度はゲーム最高レベル。好感度を上げて起きるイベントもラスボスらしくハードなものが多く、主人公のレベリングが足りていないと詰む場合もあるとか。


 その上、攻略キャラクターには珍しく通常の方法では90パーセントまでしか攻略出来ず、私のキャラクターエンドを見るにはダンジョンをひたすら周回するという鬼の作業が待っているようですね。


 私を完全攻略した後にエンディングを迎えると通常とは違う特殊エンディングが見られるとかで、レヴィ様はそれもう死に物狂いでダンジョンに潜り続けたそうです。


 涙なしでは語れない最高のエンディングだとレヴィ様は仰っていますが、私が最後に死ぬ未来は変わらないようなので結末を知った限りには阻止したいですね。


「キーとなるのは……まさかのルカさんですか


 今しがた述べた通り、私はラスボスという立ち位置にいますがどちらかと言えば主人公陣営のキャラです。ならば何故、私が主人公の敵として物語の最後の敵として立ちはだかるのか。


 その疑念の答えはちゃんとレヴィ様が記してくれています。


 物語の終盤になるとアビス教との戦いも佳境に差し掛かり、親玉であり諸悪の根源たるアビス教教祖『ミカエラ』との最終決戦が行われます。


 私たちの策が上手くハマった事もあり、強大な組織は内側から崩壊し後は頭を潰せば終わりの所までもっていけるのですが。


 教祖もまた腐っても傑物。最後の最後である策を講じてきました。


 ───それはルカさんの殺害。


 それだけ?と思うかも知れません。私自身同じような感想を抱きました。ですが、読み進めていけば笑えない事実に辿り着きます。


 問題なのはルカさんが死ぬ事ではありません。ルカさんの死後に能力を発動する魔道具『腐心』です。


 この魔道具はゲームに出てくる魔道具の中で最悪と評される悪辣な性質を持っています。それは所有者の死後、無差別に周囲にいる者の欲を刺激するというもの。


 心が強いとか弱いとか、あらゆる耐性を全て無視して無差別に能力が襲いかかるそうです。抗う事は不可能な最低最悪な能力。


「指輪が見せた未来にも納得がいきましたね」


 私が止めなければ珠魅さんと珠里さんの手でルカさんは殺害されていました。その時点であればお二人の意思は同じなので、指輪が見せた未来のように珠魅さんが珠里さんを殺す事はなかった。


 ですが、腐心によって欲を刺激されたお二人は心の中に眠る不満のままに争いあってしまった。お二人が争いあったのはどちらが私に愛されているか?と普段から言い合いしていたので納得はします。


 そしてルカさんと珠里さんの首を携えて私の元へ訪れた珠魅さんは、私を欲のままに求める。それを断った場合に待ち受けているのは私の身の危険といったところですかね。


「オマケに私まで対象ですか……」


 質が悪いのは腐心の所有者が最も愛した者を道連れにするという性質。所有者が死んだ場所からどれだけ距離が離れていても能力の影響を受けるそうです。クソみたいな仕様ですね。


 ここまで言えば分かりますね。私はルカさんの死をきっかけに腐心の影響を受けて、体を支配する憎悪のままに行動を起こした。


 私の愛する者を奪ったアビス教を破壊し、それで終わりになるかと思えば、次に私は世界を憎んでしまった。


 私がこのような想いするのは全て世界のせいだと、子供みたいな癇癪を起こし私は世界を壊そうした。主人公は世界を護る為に私と戦う事を決意する。それがゲームのストーリーです。


 最終的に私は主人公によって討たれ命を落とします。最後の最後に私を止めてくれた主人公に感謝と愛の言葉を述べて。


 この結末だけでどうやって回避のしようがないそうです。どう足掻いても。どのルートを辿っても終盤になるとルカさんは死にます。そして私をラスボスに仕立てあげる。


 私のファンの皆さんはルカさんの事をこう呼びます。


 ───クソ猫と。

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