第二十五話 問題児
ガーン!!と漫画やアニメなら大きな効果音が入るであろう驚き方をしたルカさんが、立ち上がって詰め寄って参りました。
次に言うセリフは容易に想像がつきます。 『何故私はダメなの!』ですかね?
「なんでにゃーはダメなのにゃ!」
当たりましたね。
つらつらと並べるのは同じ幹部である梓さんの成果を評価して体を重ねたのであるならば、同じだけ成果を出したルカさんも同じように対応すべきという主張。
自分がどれだけ組織とボスに貢献したか、そしてどれだけボスの事を好いているかを熱弁していますが、今回重要なのはそこではありません。
「そうですね、ルカさんが組織にもたらした成果や利益は他の幹部と比べても大きい事が分かります」
「にゃら!」
「ですが、ルカさんがもらたした損害もまた幹部の中で一番ですよね」
「うっ……」
気まぐれで行動するせいで私にもルカさんの行動が読めない時があります。そのため、他の部下と違い失敗や過ちに直ぐに気付けず取り返しのつかない状態になってようやく発覚するなんて事も多々ありました。
それによって組織が被った損害はルカさんがもたらした利益を全て帳消しするほどです。辛うじて赤字になっていないくらいですねー。
それに関してはルカさん本人も自覚があるようで、苦い顔をして視線を逸らしました。
「この間、無断でアビス教の信者を殺しましたね。それもダンジョンの外で……」
「なんにゃ話かなー」
目が泳いでいますね。ユラユラと揺れていた尻尾は力無くソファーに垂れ、下手くそな口笛で誤魔化そうとしていますが、無理ですよ。
「私、キツく言いましたよね。殺すならダンジョンの中でバレないように殺しなさいって」
「にゃ……」
「なのに、どうして街中で殺したんですか?それも人目があるところで?」
「にゃー」
にゃーにゃーにゃーと鳴いていますが、猫の方がまだ可愛げがありますね。猫も飼い主にイタズラをしますが、めっ!で終わる程度です。
少なくとも私が頭を抱える事態になりません。
「殺した理由は……あえて問いません。どうせ大した理由ではないでしょう」
「そんにゃ事はない……」
「と、私の目を見て断言できますか?」
「できにゃい!!」
プイッと視線だけでなく顔ごと横に背けるルカさん。
───本当に可愛らしい子ですね。
ため息を吐くのをグッと堪え、ルカさんの頬に手を添えて無理やり顔を合わせます。『あっ!』と何かを期待するような声と共に頬が徐々に赤く染っていきます。
今のやり取りの流れでよくそれが出来ますね?だからこそ私の部下をやれているのでしょうけど。
「ルカさんが殺したアビス教の信者……誰が後始末したか知ってます?」
「にゃー」
「私ではないですよ。懇意にしているお方が私の為を想って善意でしてくれたそうです。良かったですね」
「にゃー!!」
お陰で作りたくもない貸しを作ってしまいました。せめて私に連絡を入れてくれれば、後始末くらい出来たというのに……。
それに関係ない人間まで口封じで消してしまいました。私としてもそれは望む事ではありません。潰すべきはアビス教。敵を間違えてはいけません。
「殺すなとは言いません。ルカさんとアビス教の確執は理解しているつもりです。ですが、手順は守りなさい」
「にゃー」
「アビス教の信者を殺す前は?」
「ボスに連絡する!」
なら、何故ルカさんは私に連絡もせずにアビス教の信者を殺して、後始末もせずにその場から逃げたんでしょうね? 教えて欲しいですよ、本当に。
苛立ち任せに頬を抓ると、痛い痛いと泣き叫びます。痛いのは私の懐と胃ですよ。まったく。
「今回に限って言えば懇意にしている方が動いたので大事になっていません。ですが、まだ私たちの戦力でアビス教と事を構えるのは不可能です」
「そんにゃ事はないと思うけど」
「そうですね。ルカさんの力があれば可能かも知れません。ですがそれは念入りの準備をしてこそです」
「にゃーならいけるよ」
と聞いてもいないのに自信満々にドヤ顔をするルカさんを殴りたいと思ったのは一度や二度ではありません。
組織に所属する部下の中でもトップクラスの問題児。それでも幹部としてルカさんを重宝するのは彼女が持つ能力がアビス教に対して特化しているからです。
───言ってしまえば、ルカさんは対アビス教における切り札。私たちが考える策の中心となる人物なのです。
「今日も五人殺して来たにゃ」
「後始末は?」
「してないにゃ」
人選を間違えてますね、間違いなく。




