第二十四話 猫
───ゆうべはおたのしみでしたね。
なんて古の言葉が脳裏を過ぎりました。そんな朝です。
「……んん……うへへ……」
ベッドから起き上がると私の直ぐ横には裸の梓さんが寝息を立てて寝ていました。幸せそうな笑みを浮かべていますね。
この状況を一言で言い表すとしたら事後です。
梓さんの望み通り、彼女と性行為を致した訳です。どのようなプレイだったかは皆様方の想像にお任せするとして……。
「少しばかり寝すぎましたね」
事務所の休憩室の壁に設置してある時計を見ると時刻は既に10時を過ぎていました。夜遅くまで励んでいたのもあり、予定より長い惰眠を貪ってしまったようです。
世界が変わっている事を少しばかり私も甘く見ていました。まさかこの世界の女性がこれ程性欲が強いとは思っていなかったですね。貞操観念が逆転したから?あるいは梓さんだけ?
残念ながらまだ答えは出そうなないです。どっちであろうと、これから先また梓さんと体を重ねるのならばまた直面する問題だと深く刻んでおきましょう。
私も私で男のプライドとボスの威信もかかっているので、引く訳にはいきませんでした。女性の求めに応えてあげるのが紳士というもの。この世界にはそのような男性は既にいないそうですが。
「……ボス……あと5回しよぅ……へへへ」
悪魔の言葉が聞こえてパッと梓さんを見ましたが、まだ寝てましたね。ホッと息を吐きました。
本当に中折れせずによく戦いました。疲れ果てた私の相棒に労いの言葉をかけます。
なんて冗談を言うよりもそろそろ行動した方がいいですね。流石にゆっくりし過ぎです。
一先ず床に散らばった衣服を身につける事にしましょうか。
「しまった……」
私とした事が上の服をシャワー室に置き忘れてきましたね。こればかりは仕方ありません。梓さんが好むシチュエーションに沿って行動しましたので。
それとなくダンジョンを降りる道中で梓さんの好みを聞き出していましたが、変わった性癖ですねー。
なんでも彼女が愛読しているエロ本にこのようなシチュエーションがあるようで、いつか同じような体験をしたいとチラチラと私を見ながら言ってきました。そこまで言われれば応えてあげるのがボスの優しさというもの。
梓さんが望む通り、上半身だけ裸でタオルを肩にかけて寝室に突入しましたよ。その瞬間に飛びついてきたので、余程に興奮していたのでしょうね。
うっすらと鼻血が流れていたので、申し訳ありませんが……少し引きました。流石の私でも引きます、はい。
それはともかくとして意識を切り替えましょう。梓さんと夜の戦いに勝ったと満足感に浸っている場合ではありません。
今日も仕事があるのです。多少の疲労感は残りますが、デスクのパソコンの向き合うとしましょう。
梓さんを起こさないように音を立てずに休憩室を後にします。
「ゆうべはおたのしみでしたにゃー」
その直後に出くわした少女の言葉に思わず硬直してしまいました。まさか脳裏に過ぎったセリフを現実で言われるとは思いませんでしたね。
「おはようございます。今日はお早いお着きですね、ルカさん」
「にゃお!……この流れでいつもの挨拶するんだにゃー。流石はボス。肝が据わってるにゃー」
「褒めても何も出ませんよ」
非難の目が一瞬向きましたが、私の上半身をチラチラと見た後頬を赤らめながら顔を背けました。あ、そういえば私上半身裸でしたね。
女性の前に出るには相応しくない格好だと、心の中で戒めます。一応上の服を着に行こうとはしていたんですよ?そしたらルカさんと出くわしただけです。
「すみません、服を着てくるので少し待っていてください」
「え……うん。行ってらっしゃいにゃ」
ルカさんに背を向けてシャワー室に向かいますが、背中に食い入るような視線を感じますね。これまでにない熱い視線でした。
「予定よりも大分早いお着きですね」
着替えを済ませて改めてルカさんと対峙します。着ている衣服が昨日の物なのが気持ち悪いですね。部下と一緒に開発したアイテムで、綺麗にはしましたが心情的にはあまり良くありませんが、それは一旦置いておきましょう。
事務所に備え付けられてソファに腰を下ろし、真正面で足を大きく開いて座るルカさんに言葉をかけます。
その際に壁にかけられた時計を確認しましたが、針は10時30を指しています。ルカさんとの打ち合わせは11時30分を予定しておりましてので、一時間早い到着という事になりますね。
「んー、こっちも色々あるということにゃ」
「でしょうねー」
ルカさんは猫のように気まぐれな方です。時間を守らない事の方が多い。割合で言うと遅刻の方が多いですね。今回のように予定より早く来る場合はルカさんに何かあった時です。
「にゃーもボスに報告したい事は山ほどあるんにゃけど」
「言いにくそうですね」
「そりゃ言いにくいにゃ。んー、聞いていいのかにゃー?」
「当ててあげましょうか?私と梓さんが付き合ったんじゃないかと、聞きたいとみました」
ルカさんの琥珀色の目がギュッと細くなりました。どうやら当たりのようですね。
失敗したプリンのような配色の髪をかき分けるように頭から生えている猫耳が、ルカさんの心情を表すように垂れています。腰から生えた猫の尻尾も忙しくユラユラと動いております。
いやはや、何度見ても本物のように見えますね。ただの魔道具に過ぎないと言うのに、しっかりとルカさんの感情と連動している。
冒険者として活動を始めてそれなりに経ちますが、やはり魔道具は未知な部分が多い!それがまた楽しいのです。
「付き合ってるのかにゃ?」
声に不安が乗っていますね。出来れば違って欲しいと言外に言っているようです。
ルカさんを安心させる為……ではないですが、これからの事を考えてしっかりと否定しておきましょう。
「いいえ、付き合ってはいませんよ。梓さんと体を重ねたのはこれまでの彼女の成果に私が応えた次第です」
カッとルカさんの目が見開きます。
「それならにゃーもボスとセックスする権利があるにゃ!!!」
「ないですよー」




