第二十二話 加入
「頭を上げてください。それではお話ができないじゃないですか」
深く深く頭を下げるチン代様とピラ美様に声をかけます。その際、私の後ろで殺気立つ梓さんを抑えるのを忘れません。とはいえ、梓さんに向けてウインク一つ飛ばすだけで、治まるとは思っていませんでしたね。
好きな相手には強く出れないとか、そういうものでしょうか。今後の為にも覚えておきましょう。
「もう一度言います。頭を上げてください」
そこまで言ってようやくお二人が頭をあげます。不安と期待の二つが入り交じった表情。視線が顔と私の下腹部を行き来しているのは、減点ですね。顔だけに向けて頂きたい。
「念の為、聞いておきますね。先程仰った事は本気ですか?今なら冗談として流す事も可能ですが……」
二人の目を見て真っ直ぐに告げると、ゴクリと唾を飲む音が聞こえます。真剣な表情。まるで覚悟を決めた戦士のようです。
「冗談じゃないです、旦那!私は……旦那とセックスしたいです!」
割と最低な事を断言されている事をご自身で理解されているのでしょうか? 私以外の男性に同じ発言をすれば間違いなく通報されてますよ。価値観が違う私だから、許しているだけです。
そのような発言を言い切って、キリッとした顔まで作っているのですから呆れを通り越して感心してしまいます。
「ピラ美様も同じで?」
「私も冗談ではないわ。私をお兄さんの性奴隷にしてください」
私に向けられる目はあまりに真っ直ぐで期待の籠ったモノでした。子供が親に玩具を強請る時にこんな目をしていた気がします。ピラ美様が強請っているものは大変いかがわしいものですが。
「なるほど……」
思わずため息を吐いたのは仕方ないでしょう。元の世界であればここまでの逸材はなかなかいなかったでしょうね。もちろん才能という意味ではないですよ。
彼女たちの能力は客観的に見てもランク相応……特にコレといって見れる長所もない凡人。正直に言って彼女たちよりも強い部下は山ほどいます。
といっても、皆が皆最初から強かった訳ではありません。今では私の右腕となっている梓さんですら出会った当初は雑魚でした。ダンジョンで死闘を繰り広げる度に梓さんは飛躍的に強くなった。
チン代様とピラ美様もその可能性がない訳ではありません。それに『アビス教』という、とても大きな敵を抱えています。人材は必要不可欠。弱くてもにも使い道はありますしね。
「私は誰とでも寝るような人間ではないので、お二人のお気持ちには応えられないでしょう」
「そんな!」
「そこをなんとかお願い!」
食い下がってこないでください。後、梓さんは勝ち誇ったような顔をしないでください。ややこしくなります。
「ですが、梓さんのように私の部下として成果を上げたなら……可能性がない訳ではありません」
誰とでも寝るというのは簡単なようで難しい。独り身であり、抱えるものが何もないような人物であれば気軽に行えるでしょう。
ですが、私のように組織のトップとして立場があり、百数名の部下を抱えているのであれば細心の注意が必要です。一度肉体関係を持てば良くも悪くも人間関係は変わります。
これまで組織を形作ってきたボスと部下という上下関係が歪みかねません。それに世間体も悪く映ってしまう。誰とでも寝る男なんて、風評が流れれば私の組織はお終いです。
なので、何かしらの条件付けで関係を持った方が良いと私は考えました。体の安売りをしないと明言する訳ですね。
この世界の常識や、下半身で物事を考える異常性を考慮すれば部下と肉体関係を一切持たないのは不可能だと、短い期間で察しました。
最初のうちはどうにかなるでしょうが、いずれ我慢の限界がきた部下に襲われる未来が見えました。はい、指輪による未来予知です。
つまり襲われるのは既定路線。避ける事ができない未来であるならば、私の方でレールを作りある程度制御しようと考えた訳です。
梓さんが良き例ですね。彼女の場合は護衛の立場もあって、他の幹部の方よりも私と一緒にいる時間が多いです。つまり、私に対して欲情する機会が多い訳です。
自分で言ってて頭が可笑しくなりそうですが、この世界はイカれているので間違ってはおりません。現に今日の朝もちょっとした会話で欲情して襲ってきましたからね。
これが毎日のように起こり得る……頭を抱える大問題です。こうして考える時間を置くと、今になって後悔していますね。体の関係を持てば少しはマシになるかと先程は考えましたが、逆効果な気がしてきました。
その時はその時です。獣の手綱を握るのは慣れていますから、どうにかなるでしょう。
話を戻しまして、チン代様とピラ美様の件です。お二人には私とセックスしたいという大きな───いえ、小さな目的があります。
その目的の為に私に近づきたい訳です。ですが、先程も語ったように肉体関係を持つのは簡単ですが、リスクが伴います。なので、これから他の部下にも明言するように条件付けを行います。
ここで引き合いに出す相手が重要です。幹部の中でも特に私との付き合いが長く、かつ組織の一員としての貢献度が高い梓さんを超えてみろと、言外に告げるつもりです。
梓さんを良く知る部下たちは私が提示する条件の難しさを直ぐに悟るでしょう。そこで諦めるなら私が楽なので良し、逆に燃えるようであれば組織としての成果が上がるので良し。
条件を護らないようであれば、部下として私が今後接する事はないでしょう。場合によっては路地裏で転がっているかも知れませんね。
「可能性がない訳じゃない……」
「お兄さんとセックスできる」
お二人は梓さんが組織でどういう立ち位置にいるか分かっていないので、下半身だけで物事を考えていますね。
この様子ですと、成果を挙げて私と肉体関係を持った光景を妄想しているのでしょう。にやけ顔で察します。
「あくまでも可能性の話ですよ。梓さんを超えたら私もその努力に成果に報いましょう」
「よし、なら俄然燃えてきた!」
「お兄さんみたいな色男と出来る機会なんて今後一生ないと思うわ。このチャンスを逃してたまるものですか!」
お二人の体から燃えるようなオーラを感じます。やる気が凄いですね。いえ、この場合はヤる気ですかね。
「なら私もお二人を歓迎しますよ。ようこそ我が組織『faceless angel』へ。───共に世界を破壊しょう」
「え?」
「へ?」
おや、どうやら私たちが悪党であることをお忘れのご様子で。下半身で物事を考えた弊害ですねー。




