第十八話 雷雨
「まだ目覚める気配はありませんね」
余程ショックが大きかったのか、レヴィ様と梓さんのお二人はまだ起きる気配がありません。
二人とも上級冒険者に数えられる人材ですので、睡眠に対する耐性はあるのですが……いえ、今回の場合は状況が違うのはそれは関係ありませんね。
当初はお二人が目覚めるまで待とうかと思いましたが、入口であるエントランスエリアと、攻略済みのボスエリア以外は基本的にモンスターが出現します。
目覚めるまで待機していれば私たちの匂いや気配に気付いたモンスターが近寄ってくる為、一箇所に留まるよりも移動した方がいいと判断しました。
戦闘面は私が担当すればいいだけですからね。ピラ美様とチン代様のお二人にはレヴィ様と梓さんの護送に専念して貰います。
このような形でダンジョンを進んでおりましたが。
「お二人は下がっていてください」
「「はい!」」
なんて言ってる側からモンスターが出現しました。
今回の場合ですと、私たちを待ち構えていた形ですね。正確な数までは分かりませんが50体は超えるでしょうか? と言っても所詮36階層のモンスターですので、脅威にはなりません。
「さ、手早く済ませましょう」
私の言葉を開戦の合図とするように前方で待ち構えていた紫色の二足歩行のトカゲ───ポイズンリザードマンがおぞましい声と共に突撃して参りました。
人工的な槍を構え、まるで人間のように陣形を組んで向かってきます。浅い階層と違い30階層を超えれば知能を有するモンスターが増える為、別段おかしな事ではありません。
「『雷雨」
私は対人と対モンスターで使用する魔道具を使い分けています。特に今回のようにモンスターの数が多い場合に使う魔道具があります。
それが私のお気に入りの魔道具の一つで、その名を『雷神の涙』と言います。形状は雷の形をしたネックレスで、一日に使用できる回数は決まっていますが雷神様のように雷を操る事が可能です。
魔道具を起動するとバチバチという雷鳴が轟き、紫色の雷を纏う右腕を振り下ろせば技名の冠する通りに雷の雨がポイズンリザードマンに降り注ぎました。
雷に触れれば感電するなんて生易しいものではありません。雷に当たった瞬間にポイズンリザードマンは消し炭となり、元々の形状すら保てない塵芥となって地面を汚します。
この魔道具の欠点を一つあげるとするならば、使用回数が決まっている事と威力が高すぎるあまりモンスターを倒した後に魔石を回収出来ない点でしょうか?
モンスターの体内に眠る魔石ごと破壊している訳ですね。殲滅には向いていますが、魔石集めには向いておりません。
一応威力の調整は可能ですが、モンスター事に耐性が違いますので下手に威力を下げると殺しきれないなんて事もあるので、モンスター相手の場合は基本的に最大出力で攻撃した方が楽ですね。
それに、この階層のモンスターですと魔石の質はそこそこなので回収出来なくても問題はないでしょう。
魔道具に関する初歩的な知識ではありますが、一部の例外を除いて基本的に魔道具は一日に使用できる回数が決まっております。
レアリティの低い魔道具ですと一日に一回しか使えないなど、使い勝手が悪いものが多いです。
私が先程使った『雷神の涙』は一日に20回と使用できる回数に制限があり、今の戦闘で一回、事務所で襲いかかってきた梓さんを気絶させる為に一回使用したので、本日『雷神の涙』を使用できる回数は残り18回となります。
蛇島様との戦いで使用した死神の大鎌は常時発動型の魔道具なので回数制限はありません。
魔道具の出し入れを行うブレスレットには回数制限があるのでその点は気を付けないといけませんがね。
このように魔道具を駆使して戦うのであれば常に使用回数は把握しておきましょう。
初心者にありがちな過ちは、使用回数の把握漏れです。まだ使えると思ってモンスターと戦闘したら、魔道具が発動せすパニックになってまともに戦えないなんて事が良く起こります。
慣れないうちは使用回数をメモに取るなどしましょう。後、もう一つ大事なことが。使用回数に制限があるからと言って出し惜しみはしない事です。
これもまた初心者にありがちですが、使用回数に制限があるからと出し惜しみをして命を落とす冒険者は少なくありません。慣れないうちはバンバン使って、使用制限に達したらダンジョンから撤退しましょう。
探索に慣れてくれば使える魔道具も増えてきますし、使用回数も体で覚えられるようになります。どのモンスター相手に魔道具を使ったらいいかなどの判断が出来るようになれば尚よしですね。
私の場合は魔道具の使用回数を回復する術があるので、気にもしませんが。
「終わりましたよー」
戦闘に巻き込まれないように私から距離を取っていたピラ美様とチン代様に声をかけると、直ぐにこちらへ向かって駆け寄ってきました。
一定の距離まで来ると軍隊のようにビシッと行儀良く待機しています。まるで忠犬のようですね。少しばかり脅し過ぎたような気も……。
「ご無事でしたか?」
「はい!この通り傷一つありません!」
「お兄さんの蹂躙を眺めていただけだしねー」
お二人を巻き込まないように戦ったとはいえ、私から離れている間にモンスターの襲撃も起こりえます。この階層のモンスターでしたらお二人でもギリ対処は可能らしいので、私が駆けつけるまでに死ぬような事はないでしょう。
「それなら良かったです。お二人は私が必ず護りますので、しっかりと付いてきてください」
「はい!!」」
私にとって大事なお二人は部下である梓さんと、大事な商売相手であるレヴィ様だけなのですが、都合よく解釈して頬を染めてるピラ美様のチン代様には言わなくていい事ですね。
それにしても、あれだけ脅して分かりやすく恐怖していたというのに、少し優しくしたらこの有様ですか。言い方はアレですがチョロい人たちですね。まぁいいでしょう。
さ、もう直ぐボスエリアです。そこならモンスターも現れませんのでお二人が目覚めるまでゆっくり待つとしましょう。




