第十七話 釘
速報です。
蛇島様率いる冒険者パーティー『チェリーボーイラブ』の皆さまが、36階層にてモンスターパニックに巻き込まれ、亡くなったという知らせが入り込んで参りました。
熟練の冒険者である蛇島様はダンジョンで時折発生するモンスターの異常発生───通称『モンスターパニック』の対象法をご存知でした。その為、本来であれば難なくその場を切り抜ける筈でした。
ですか、現実はそうはなりませんでした。
蛇島様の対処が悪かった訳ではありません。彼女たちは最善の選択をしておりました。唯一の誤算。それは共に現場に居合わせた冒険者パーティーの存在です。
最近Dランクに上がったばかりという二人組の冒険者パーティー『チンピラガール』は、ランクが上がった事で次の階層へと進む許可を得て、嬉々としてダンジョンを探索していました。
そんな折にモンスターパニックに巻き込まれてしまった訳です。
チンピラガールのお二人もモンスターパニックは初めてという訳ではありません。冒険者として活動していれば必ず出くわすランダムイベントのようなものですからね。
経験則からチンピラガールのお二人はモンスターと戦わず、逃げる選択を選びました。ですが、初めて踏み入る階層故に土地勘がなく逃げた先は行き止まりでした。
慌てて来た道を引き返そうとするチンピラガールのお二人ですが、時既に遅し。道を塞ぐようにモンスターの大群が現れたのです。
モンスターの大群を見てチンピラガールのお二人の心は折れてしまいました。ここで終わりだと諦めてしまったのです。
それもまた仕方のないこと。数は膨大であり、何よりも初めて踏み入る階層故に初見のモンスターばかり。対処法の知らない膨大な数のモンスターと戦う?不可能です。
チンピラガールのお二人と同じ状況に陥ればほぼ全ての冒険者が死を覚悟するでしょう。モンスターパニックほど冒険者にとって脅威となり、理不尽なものは存在しません。
え?お二人がどうなったって?そうです、ここからが大事な話なんですよ。
絶体絶命の危機に陥り、死を覚悟したチンピラガールのお二人。そんな彼女たちの元へ救世主が現れたのです!
おや、察しがいいですね。そうです。それが先程話題にあげたチェリーボーイラブの皆さまです。
チンピラガールのお二人同様にモンスターパニックに巻き込まれたチェリーボーイラブの皆さまは、モンスターパニックの対象法である撤退を選びました。
その逃げている最中にチンピラガールのお二人を発見。そしてモンスターたちに追い詰められたお二人を見捨てる事が出来ず、助ける選択肢を選んだのです。
はい。無謀です。いくらBランクのパーティーとはいえ、無限に等しい数のモンスターを相手にするのは不可能です。ですが、それでも彼女たちは戦いました。
ご友人だから? いいえ違います。
あるいはご家族? それも違います。
知り合いですらありません。赤の他人。それも初めてダンジョンで出会った冒険者です。なのにチェリーボーイラブの皆さまは命懸けでチンピラガールのお二人の命を護りました。
何故? チンピラガールのお二人も当然疑問に思ったそうです。そしたらこう返ってきたそうですよ。『弱きを救う』───それこそがアビスの教の教えだと。私たちはその教えに従っただけだと。
そう、彼女たちにも譲れぬものはあったのです。高名であるが故に根も葉もない噂が飛び交っているのはご存知でしょう
ですが、だからこそ知って頂きたい。チェリーボーイラブの皆さまは高潔な信念を貫き、己の命を燃やし、命をかけて!チンピラガールのお二人を守り抜きました!
その戦いでパーティーが全滅する結果にはなりましたが、彼女たちはアビス教の教えを最後まで全うしました。
「という流れで、まぁ最後はアビス教を賞賛する形で締めくくってくれませんか?」
『ししし、こんなデタラメな話を信じる奴がいるのかね』
スマホ越しに伝わる言葉遣いとは対象的な小鳥のさえずりのような可愛らしい声。ギャップが凄いですね。
「いるんじゃないですか? 少なくともチェリーボーイラブのお二人に救われた冒険者は、この話を信じると思いますよ」
『しし、違いない!さて、旦那の頼みだ!オレ様は言われた通りに記事を書くとするさ』
「はい。お願い致します。チェリーボーイラブの皆さまはチンピラガールのお二人を護って死んだ」
『素晴らしきかな、アビス教の教え!アビス教バンザイってか!ししし! 』
楽しげな笑い声を最後に、スマホからツーツーという電子音が響き渡ります。
さて、これにて後処理は終わりですね。
綴様に依頼しましたので、早ければ明日の朝にはチェリーボーイラブの皆さまの死が世に広まる事でしょう。良かったですね、最後の最後で美談が出来て。
あなた方は知る由もないでしょうが。
「さて!これにて共犯者という事になりましたね。ピラ美様、チン代様」
地面に散らばる蛇島様の死体は直にモンスターが食い漁るでしょう。そうなれば私が殺したという事実を知る術はない。その現場を目撃したピラ美様とチン代様以外。
「え?」
「へ?」
私と記者のやり取りを聞いていたと思ったのですが、反応は乏しいですね。分かってはいましたが、頭はあまりよろしくないようです。
「お二人はチェリーボーイラブの皆さまの最後の見届け人になったのですよ」
私が殺したという事実を隠し、ピラ美様とチン代様の命を護るために死んだと───悪名の多い蛇島様たちに最後の美談を差し上げた。
「私の知人の記者が話を盛りに盛って書いてくれるでしょう。そしてアビス教の教えの素晴らしさに皆が感銘を覚える事でしょう。アビス教の評判もうなぎ登り!」
───『弱きを救う』
アビス教の教えとして実在する教えではありますが、どれだけの数の信者が護っていることやら。
「さて、ここで重要なのは真実を知るお二人です」
死神の大鎌お二人に突きつけながら告げます。
「分かっておられると思いますが、真実を公に話せば私が殺します。私の組織が必ず殺します」
「ひっ」
大前提として新階層まで付いてきてお二人が生きていないといけませんがね。私は約束は護る男なので、ダンジョンを出て顔を返すまでは私の手で殺すつもりはありません。
「アビス教の方に真実を話すのも良いでしょう。ですが、この話はアビス教にとって都合がいいのですよ」
蛇島様が率いるチェリーボーイラブの皆さまは、冒険者としてそれなりに名が広まっていますが、どちらかと言えば悪名の方が多いです。
叩けば誇りが出てくる犯罪者集団とでも言えば分かりますかね? 世界が変わる前ですら集団レイプやら、ダンジョン内での強盗やらで問題を起こしています。
アビス教が揉み消していたからこそ大きな問題にはなっていなかっただけ。多額の献金をしていたようですので、その見返りだと思いますが正直に言って蛇島様たちの存在には手を焼いていたでしょうね。
私がトップで、そんな部下が下にいたら頭を抱えますもん。
むしろ死んでくれてありがとうとすら、思っているでしょう。死ねばこれ以上悪事は働けない。悪名が広がる事もない。
今の今までは上手く対処して揉み消す事が出来ていましたが、蛇島様たちならいつか必ずやらかしていたでしょう。その時、世間の目は蛇島様たちだけでなく今まで悪事の揉み消し行っていたアビス教にも向かう。
そうなる前にアビス教の使者が蛇島様たちを抹殺していたでしょうがね。
「なので、アビス教としても美談として終わってくれた方が良いのですよ。分かりますか?アビス教にとってもお二人は困った存在という事です」
お二人が真実を漏らすような事があれば、私たちだけでなくアビス教もお二人の抹殺の為に動くでしょう。
「さて、事実確認といきましょう。お二人は今、何か目撃しましたか?」
「何も見ておりません!!」
チン代様が震えながら叫びましたが、そうではありません。
「違うでしょう?」
「はい!私たちはチェリーボーイラブの皆さまに救って貰いました!」
「間違わないように注意してくださいね」
二人揃ってブンブンと首を縦に振っています。首がもげるんじゃないかと、心配になりますがここまで釘を刺せば十分でしょう。
ダンジョンを出てお二人を解放しても言いふらすような事はないかと。……万が一の備えはしておきますがね。
「さて、そろそろ移動しましょうか」
「はい!」
「分かりました!」
せっかく根回しをしたのです。私が殺した死体をレヴィ様見られたくないので気絶している今のうちに連れて移動するとしましょう。
もう直ぐモンスターのリポップ周期ですから、放置しておけばモンスターが死体を食い漁ってくれるので証拠隠滅も完了です。
「おや?」
チン代様がレヴィ様を肩に担ぎ、ピラ美様が梓さんをお姫様抱っこで運んでいるの見ながら後を付いて歩いていると、スマホが鳴りましたね。
確認すると綴様からメッセージが届いていました。タイミングを考えると今回の依頼の報酬についてでしょう。メッセージには短くこう書いてありません。
『今日のパンツの色教えてくれ、写真付きで。しし!』
───本当にこの世界は、イカれています。




