第十六話 死神
「てめぇ……ふざけてんのか?」
額に綺麗な青筋を浮かべた蛇島様がお怒りになられていますが、気にせずに魔道具を使用します。
右手首につけたブレスレットが眩い光を放ったかと思えば、何も無い空間から突如として漆黒の大鎌が出現しました。
これが私の相棒、名を───死神の大鎌と言います。
ブレスレットは魔道具を収納する事が出来る魔道具と言えばよろしいでしょうか?ややこしいと思いますが冒険者の必需品ですので記憶に片隅にでも置いておいてください。
私が使う大鎌やレヴィ様の槍のように持ち運びが面倒な武器を異空間へと、収納し任意のタイミングで取り出せるのがこの魔道具の利点です。
また。レアリティも低いので入手は簡単なのも良いですね。持っていない冒険者はまずいないでしょう。余程運が悪くなければ。
梓さんは上位互換と言える魔道具を所持しているので、持ち歩いていませんがね。
「ふざけてなどいませんよ。私は本気です」
死神の大鎌を構えて軽く振るうと、彼女たちも臨戦態勢に入りました。
しかし、あまりに遅い。
「なっ───!」
パーティーのリーダー格である蛇島様は自身に起きた異変にいち早く気付いた様子ですが、残念ながら既に手遅れです。
「『刈り取る者』」
蛇島様との距離を詰めるために一歩前に踏み出すと共に、死神の大鎌をゆっくりと横一線に振ります。
私が言ってはなんですが、あまりに単調な攻撃ですね。ですが、今の彼女にこの一撃を交わす事は出来ません。
私が振るった漆黒の大鎌は蛇島様の肉体を易々と切り裂き、上半身と下半身を二つに分かちました。
「な……にが……」
何が起きたか、理解できない。そう言いたげな表情で息絶えた蛇島様に『さようなら』と別れを告げてから、次の標的を見定めます。
チェリーボーイラブのリーダーである蛇島様が殺されたというのに、パーティーの仲間の皆さんは逃げる事も歯向かう事もしません。いえ、できないというのが正しいでしょう。
地面に倒れた蛇島様の遺体を足で踏みつけながら私が一歩前へ踏み出すと、小さな悲鳴が彼女たちから漏れました。表情は恐怖に染まり、今にも逃げ出しそうなほど震えております。
「安心してください。今、あなた方のリーダーと同じところに送って差し上げますので」
その恐怖を取り払うように、笑みを浮かべて優しく声をかけてあげます。
おや、おかしいですね。私の部下であればこうしてあげると、頬を赤くして喜ぶのですが……何故か彼女たちの表情は青ざめていく一方です。
これ以上恐怖を与えるのは酷ですかね?一思いに殺してあげるのが慈悲というもの。
「さようならチェリーボーイラブの皆さま」
悲鳴すら上げられず、恐怖で震える彼女たちに対して死神の大鎌を振るいました。
「これにて終わりですね」
私の目の前に上半身と下半身が別れた死体が六つ地面に転がっています。
こちらは今更言及する必要はないと思いますが、先程まで元気に性癖を叫んでいたチェリーボーイラブ皆さまです。
残念ながら既に事切れておりますので、彼女たちの口から性癖が語られる事はありません。
それにしても。
「弱かったですねー」
仮にもBランクの冒険者パーティーですよね? 蛇島様の実力はAランクにも匹敵するなんて、噂も流れていましたが根も葉もないただの噂だったようです。
念には念をと言う事で死神の大鎌を使用しましたが、この程度の相手なら必要はなかったですね。
ため息を吐きながら魔道具を起動して、死神の大鎌を虚空へと仕舞います。
さて、ここで種明かしと参りましょう。
魔道具は基本的に一つか二つ能力を持っているとされております。形状もまた様々。装飾品のようなものから武器や防具まで数多く存在します。
一説によると武器の形状の魔道具の方がより戦闘向きの能力が宿るとか。
それは私の死神の大鎌も例外ではありません。死神の大鎌の能力はその名が冠する通り、魂を刈り取るというものです!なんて言えればかっこいいのですが、残念ながら違います。
能力名称は魅了。
死神の大鎌を構えた私を見て、僅かでも欲を抱いた者の動きを奪う。それが死神の大鎌の能力です。
私に対する欲が強ければ強いほど、その身を拘束する力は強くなる。世界が変わる前は使いにくくて仕方ない能力でしたが、今の世界では有用である事が証明出来て良かったですね。ん?
「どうかしましたか?ピラ美様……チン代様」
背後から大きく息を吐く音が聞こえましたので、振り返ると腰を抜かしたのか床に座り込むお二人の姿が。
心配になって声をかけると、ビクッと体が跳ねました。声をかけるだけで怖がられる……少しだけ悲しい気分になりましたね。
「お兄さんって……もしかして悪い人?」
カタカタカタカタと歯を鳴らすチン代の代わりにピラ美様が、恐る恐る尋ねてきました。
そこまで怖がらなくてもいいのにと思いましたが、チェリーボーイラブの皆さまを殺した事がお二人には、相当ショッキングだったようですね。
それにしてもくだらない質問ですね。
「何を今更おっしゃるのですか」
自分たちが置かれている状況を理解しているのであれば、このような質問は本来飛んできません。
にも関わらず、私に対してそのように問を投げかける。恐れていても、心のどこかで私を見くびっていたのでしょうね。
男だから、なんてくだらない理由で。
世界が変わった事で変化した事は多岐にわたります。今回重要なのはそのうちの一つ、男女の力関係も男女比と一緒に逆転したという事。
───『男は女に勝てない』。
なんて言葉が当たり前になるくらいの力関係が今の男女にはあります。
それが常識として存在するのですから、お二人の頭が悪いと切り捨てるのは可哀想ですね。さて質問に答えてあげましょうか。私が悪人かどうか。考えるまでもないでしょう。
「悪党ですよ……それもとびっきりの」




