第十三話 チェリーボーイラブ
ダンジョンの中は洞窟のような狭い空間ではなく、10人が横に並んで歩いても十分余裕がある程度には道幅はあります。
と言っても四方は石の壁に覆われているので、外を歩いているような開放感がないのと方向感覚が麻痺していくので、どうしても圧迫感はありますね。
狭いよりは何倍もマシではありますが、灯りが十分ではないので慣れるまではダンジョンの探索には苦労する冒険者は多いです。
さて、ここでダンジョンの構造について軽く解説しておきましょう。ダンジョンの入口や、階層を上がる階段を登ると最初に待っているのは大きな空間です。
その広さは東京ドームと同じくらいと言われておりますが、そのように言われてもイマイチ大きさが分からないですよね。
数字に直すと4.4万平方メートルで、例えとして使われている東京ドームよりは少し狭いです。このように言われても余計にイメージがつかないと思いますので、物凄い広い空間だと認識してください。
そのだだっ広い空間はダンジョンの至るところに点在しており、それぞれが違った性質を持っております。
ダンジョンの入口とされる空間は冒険者に『エントランスエリア』と呼ばれており、ダンジョン内で唯一モンスターが出現しない場所として扱われております。
このエリアに関しまして、長年の研究と冒険者たちの実体験の末に安全が保証されましたので、様々な施設が配備されております。
数が多いので一例として『治療室』と『商店』を挙げておきましょうか。治療室については詳細な説明不要ですね。ダンジョン内で怪我した者をいち早く治療する為にダンジョン内に作られた施設です。
商店もまた詳細な説明は不要だと思いますので省きます。ダンジョンの探索で使うアイテムを販売しているだけですので。あくまでも一般的な商品ですよ。
冒険者にとって役立つ施設が集まった空間が『エントランスエリア』です。ここを抜けて通路を進んでいくと本格的なダンジョンの探索が始まる訳です。
モンスターとの戦闘を繰り広げながらダンジョンの通路を進んでいくと、『エントランスエリア』のような広い空間にぶち当たります。
その空間の呼び方は様々で『海エリア』『森エリア』『山エリア』『迷宮エリア』など、それぞれの空間を表す名称が付けられております。
ダンジョンの中を進んでいたと思ったら突如として山が出現する。同じように突如として海が出現する。摩訶不思議な光景に皆が最初は驚く事でしょう。
外から見た外観と中の広さが一致しないのも摩訶不思議な点の一つです。空間自体がねじ曲がっているのでしょうか?未だ人類はその答えにたどり着けておりません。そのような非現実が当たり前に存在するのがダンジョンです。
エリアに存在するモンスターを討伐するか、スルーするかは冒険者の判断に委ねられます。
長年の研究の結果、ダンジョンの通路で出くわすモンスターよりも、エリアに出現するモンスターの方が落とす魔石の質やドロップアイテムが良いらしいですよ。
それもあってエリアを狩場として認識している冒険者も多いですが、モンスターの数も多いので危険は隣り合わせです。そしてより質の高い魔石やドロップアイテムを求める冒険者はダンジョンの奥へと進みます。
エリアを突破して通路を進めばまた、次のエリアに出て……それを何度か繰り返せばそのフロアの最深部『ボスエリア』に到着するのですが、ここで発生する戦闘は多く一度きり。
冒険者によって倒されたボスモンスターは基本的に復活しません。なので一度攻略された階層は悠々と次へ進める訳ですね。そして、『ボスエリア』の奥にある階段を登れば次の階層へと進めます。後はそれの繰り返しです。
現在ダンジョンは先駆者やレヴィ様の活躍もあり72階層までが解放されております。私たちが目指すのは新階層である73階で、今現代私たちがいるのはちょうど中間の36階層です。
この階層は冒険者ランクが『Cランク』でなければ立ち入る事は出来ません。つまりあの理解出来ない叫びを上げていたアビス教の信者もまた、指折りの冒険者という事です。
「さ!吾輩に続け!」
「いええええええい!」
「眼鏡男子最高!」
「いええええええい!」
アビス教の信徒と思わしき集団が理解し難い言葉を紡ぎながら私たちが滞在する『モンスターエリア』を進んでいきます。
このエリアはダンジョン系のゲームに存在するモンスターハウスのような性質からそのように呼ばれております。それはさておき。
「オネショタ最高!!」
「いええええええい!!」
「マッチョ最高!」
「いええええええい!!」
「ハーレム!最高ぅぅぅ!」
「いええええええい!!!」
レヴィ様と梓さんの戦闘が収束を迎えた直後ですので、モンスターの姿は近くになく静寂に包まれていたこの空間では信徒たちの声がよく響きました。
内容から察するに個人個人の性癖について叫んでいるのでしょうか? ダンジョン内で性癖を暴露する意味がそもそも分かりませんが、盛り上がっている所を見ると士気を上げる効果はありそうですね。
寝取り最高!などと叫んでいた人物が先頭を歩いています。恐らく彼女かリーダーですね。誇らしげな表情でその他の方々の性癖にも同調するように声を上げておりました。
「あれは……」
「『チェリーボーイラブ』か」
そんな方々が登場すれば、写真を食い入るように見ていた四人も気にせずにはいられません。視線はアビス教の信徒へと向き、ピラ美様とチン代様が、ゴクリと唾を飲み込むと共に、噛み締めるように言葉を口にします。
───チェリーボーイラブ。
それがあの団体のパーティー名ですか。イカれていますね。
「噂には聞いていたが……本当だったのか」
「勝てませんね……あいつらには」
ピラ美様とチン代様が戦慄しております。レヴィ様であっても気にしていないお二人が、チェリーボーイラブを畏怖している?
「それほどの使い手なのですか?」
アビス教が強大な組織である事は理解しております。怨敵であるからこそ調査は入れていますよ。チェリーボーイラブがBランクの冒険者パーティーである事も、得意とする戦法も知っております。
だからこそ解せません。レヴィ様という真の強者と共にいるにも関わらず、あのようなパーティーに畏怖するのか。
確認の為に尋ねれば、苦虫を噛み潰したよう顔で重い口を開きます。
「奴らは全員───非処女なんだ!」
「私たちとは格が違いすぎます!」
───はい?




