第十二話 宗教
やはりこの世界は可笑しいと強く認識します。
先程まで激しい戦闘を繰り広げていた二人が、武器すら捨てて一枚の写真を食い入るように見ています。なんというか、目が怖いですね。写真の奥を覗こうしているのかと思うほど凝視していますよ。
「旦那……お二人にはどのような写真を」
ピラ美様の最初絡んできた時とは正反対のへりくだった言動に吹き出しそうになりましたが、何とか堪えて返答の代わりに写真を渡します。
「これは!!!」
「あら!!!」
写真を見てピラ美様とチン代様が歓喜の声を上げました。幸いな事はレヴィ様や梓さんほど写真を凝視していない点ですね。それでも食い入るように見ていますが……。
彼女たちに渡した写真はグラビア雑誌に載っているような刺激的なものではありません。水着でもなければ、レヴィ様への交渉材料にした上半身裸の写真でもない、ごく普通の写真。
シュチュエーションを部下に決めて貰ったので女性受けはいいでしょう。だからといって、ただの投げキッスをしているだけの写真にそこまで食いつきます?
レヴィ様に至ってはもっと攻めた写真を渡したと思うのですが……。
ダメですね。理解できません。ありとあらゆる事が私の理解の外にあります。救いとも言えるのは、私の行動指針である怨敵が変わっていない事ですね。
男女比が偏り、世界が狂い常識すら異なった。それでも尚、怨敵は何も変わらない。それがどれだけ嬉しい事か。
同時に怨敵の強大さを表しているようでもあります。世界が変わっても尚、その影響力を誇示しているのですから……。
「宗教の厄介なところですね」
日本は世界的にも珍しく宗教に対して無頓着な者が多い国でした。そう、過去形です。それは100年も前の話。
「欲は人を狂わせるとは良く言ったものです」
私の呟きにすら写真を食い入るように見る四人には届かない。これもまた人が持つ欲。
今や全世界に広まった宗教は人の欲を上手く操り、影響力を伸ばしました。その宗教の名は。
───『アビス教』
深淵。深海。底なし穴。あるいは神秘的な暗闇。
名が体を表すようにその宗教にのめり込めばのめり込むほど、抜け出せなくなると聞きます。
『アビス教』の信者が主として崇めるのは超越者などではなくダンジョンそのもの。
人類の大きな分岐点となり、飛躍的に発展するきっかけとなったダンジョンそのものに信仰を捧げているという。イカれていますね。
ですが、彼らの主張もまた分かります。
ダンジョンの出現と共に人類は大きく発展しました。それこそ大きな課題となっていたエネルギー不足は魔石が発見された事で解決。
当時使用されていたエネルギーによって地球の温暖化が問題視されていましたが、それも魔石の発見によって解決。
その他の課題や問題の多くはダンジョンの出現と共に解決しました。長年、研究者が頭を抱えた山積みの問題がダンジョンのお陰で解決しました。崇拝する者が現れるのも無理はありません。
何より、現代において神や仏という存在は朧気になりつつありました。
文明の発達と共に人々の声がより広く届くようになったのも大きいでしょうね。数千年前であれば神を見たと言えば信じた者もいたでしょう。ですが現代においては神を見たと言っても誰も信じはしません。
嘘をついていると決めつけられて終わりです。人は自分の目で見たものしか信じる事は出来ませんからね。
時代が進めば進むほど神や仏へと信仰は薄れていく。これもまた仕方のない事です。
けど、ダンジョンは違います。
誰もがその姿を目にしました。そして誰もが歴史から学びます。ある日突然、地中から出現したダンジョンの存在を。
ソレは人の領域を超越した事象です。
神や仏と代わる形でダンジョンを崇拝する宗教が誕生し、世界全土に広がるのもおかしな話ではないですね。認めたくはありませんけど。
「あれは!」
噂をすれば何とやらですね。
特徴的な白いローブで全身を覆う冒険者の団体が私の視界に入りました。『アビス教』のシンボルである黒い薔薇も確認出来ました。間違いありません。
彼女たちが私たちの怨敵である『アビス教』の信徒。
「寝取り最高ぅぅぅ!!」
「いええええええい!!」
───決して許してはいけない悪の権化です! あれ?




