第十一話 価値は個人によって異なる
レヴィ様と梓さんの二人から発せられる殺気と闘志で空気が冷たく張り詰めていくのが分かります。さりとて、そこに緊迫感がないのは何故でしょう。
───戦う理由が私の男性器だからですね。
本当にくだらない理由で戦いが始まりそうです。世界が変わる前でしたら、こんな戦いは起こりえなかったでしょう。
愛する女性の為に戦うなんて神話や英雄譚では在り来りな話ですがそれをこの世界に合わせて反転させると、チンコの為に戦う女性になるそうです。出来ればこの二人だけだと思いたいですね。
「前から気に食わなかったんだ!ここで果てろ英雄!」
「おじゃま虫がいたのは最初から分かっていたよ。mein Schatzとは違う不快な気配を感じたからね!」
レヴィ様が振るう白銀の槍と、梓さんが操る黒い棘が交差し金属音を辺りに響かせます。それが合図となり、目の前の敵を排除する為に本格的な交戦が開始しました。
長い付き合いなのもあり、梓さんが本気で戦っているのが操る影の動きから分かります。視線の誘導や、時間差を置くなど波状攻撃でレヴィ様に攻撃の隙を与えていません。
それほどの猛攻を受けて尚、涼しい顔で影を凌ぐレヴィ様も流石ですね。
「影を操る魔道具……それでmein Schatzの影にいた訳か。何ともうらやまけしからん……んん!卑しい女だな、君は」
「羨ましがってるだけじゃん、むっつりスケベ!これは僕の!僕だけの特権さ!ボスの影に入れれる僕が羨ましいだろ!」
「羨ましい!」
影に入る事をなかに入る、なかに入ると連呼しないで頂けますか? 卑猥な意味合いにも聞こえますので。本当に勘弁してください。
私の心の声など当然ですが二人には届きません。実際に声に出して言えばいいのですが、この二人に反応されるのもめんどくさいんですよね。このまま戦いに集中して頂いた方が気が楽です。
今のやり取りから分かる通り、本気で戦ってはいますが殺す気はないようですね。二人が威嚇するように放っている殺気や戦意はモンスター対策と言ったところですか。
一番食らっているのは、モンスターではなく近くにいるピン美様とチン代様ですね。二人は私の事は気にしてくれていますが、お二人の事は眼中に無い様子。
戦いの余波で瓦礫が飛んだり、影がお二人の近くを抉っても全く気にしていません。流石に可哀想になってきたので、二人を抱えて距離を取ります。
それなりに鍛えていますし、魔道具による強化があるので女性二人を抱えて移動するのは御茶の子さいさいですよ。
ですので、そのような驚いた顔はナシでお願いします。
「え?」
「……お兄さん?」
戦いに巻き込まれない位置に二人を下ろすと、腰が抜けていたらしくペタンと座り込んでしまいました。ピラ美様とチン代様の視線が私に集中するのはむず痒いですね。
お二人の反応から理由は分かります。私が助けた事がお二人にとって意外だったのでしょうね。
「約束しましたからね。ダンジョンを出たら顔を返すと。だからお二人に死んでもらっては困ります」
───私はこう見えて、約束は護る派なので。
「……旦那!」
「お兄さん!」
キリッと格好つけた自覚はありますがそんな簡単にときめかないで貰っていいですか? 命を助けただけです。惚れるしては弱いと思いますよ。
「……はぁ」
お二人から向けられる視線の熱が変わった事に思わずため息が出ました。とりあえず、このチョロいお二人は後回しにしましょう。注意すべきはレヴィ様と梓さんです。
見たところ、梓さんが優勢ですね。影を操り一方的に攻撃をしています。
梓さんの魔道具は見て分かる通り、影を自在に操るというものです。私の影に潜って付いて来ることも、影の形を変えて武器のように扱う事も出来ます。 数ある魔道具の中でもトップクラスの利便性を誇ります。
対してレヴィ様が扱う魔道具はお世辞にも優れたモノとは言えません。ダンジョンに入る前に軽い共有は受けましたが、この状況を覆せる代物ではないです。
にも関わらず梓さんの猛攻を凌げているのは、レヴィ様の技量あってのこと。洗練された動きはまるで演舞のようです。
「流石ですね」
これで見た目が着ぐるみでなければ素直にカッコイイと褒める事が出来ましたが、着ぐるみをきた美女が槍を自在に操って戦う姿は少しシュールですよ。
「お兄さん……」
「はい、なんでしょうか?」
お二人の戦いを観戦しているとピラ美様から声がかかりました。声色が変わりましたね。私に対する怯えがなくなったご様子で。
「止めなくて大丈夫ですか?」
「そうですね……」
激しさを増す二人の戦闘。
互いに傷はなく、まだ様子見という段階ですが実力者同士の戦いにダンジョンが大きく損傷していますね。時間経過と共にダンジョンの損傷は修復されるので、その点は気にしなくて良いですが。
「騒ぎを聞きつけて守護戦士が来てしまいますね」
ダンジョン内での冒険者同士の戦闘は一部の例外を除いて、基本的にはご法度です。ダンジョン内での死は自己責任とはいえ、治安維持を放棄した訳ではありません。
貴重な人材を損なわない為に、政府は特別な訓練を受けた人材をダンジョンに派遣しております。一般に守護戦士と呼ばれております。
守護戦士は冒険者のようにダンジョンのモンスターを倒し、魔石を集めるのが主ではなく、負傷した冒険者の救護活動や、冒険者同士のいざこざのおさめる───治安維持の為にダンジョン内を巡回しております。
今の光景を守護戦士に見られれば、資格の取り消しとまではいきませんが、一定期間のダンジョンの立ち入りを禁止にする謹慎処分が言い渡される可能性が高いですね。出来ればそれは避けたい。
とはいえ戦いに熱が入ってきた二人を止める方法は何があるでしょうか?私が割り込んで力で黙らせるという事も出来なくはありませんが、これから新層へ向かう事を考えるとレヴィ様と梓さんを傷付けたくはない……。
いつか見た作品のように『私の為に争わないで!』なんて言えば止まるでしょうか?いえ、仮に止まるとしても、そのような発言はしたくないです。
あ、便利な道具があるのを忘れていましたね。どんな傷であっても飲めばたちどころに元通り! 私と部下で開発した自信作。
そう回復薬です!
間違っても写真なんかよりも価値がありますよ!私が今から特大の雷撃を浴びせてお二人を瀕死に追いやっても治す事が出来ますからね!
写真なんかより優れていますよ!本当ですよ!
「私のちょっと刺激的な写真ありますけど、見ます?」
「「見る!!!!」」




