第十話 取り合い
細かい数字までは覚えていませんが、この世界の人口はおよそ63億人と言われております。その内の二人がこの地球上で出会う。
言葉にすれば簡単ですが、人種も性別も出生国も何もかもが違う男女が、何の手掛かりもなく出会うなど本来は不可能です。だからこそ人はソレを運命の出会いなどと比喩するのでしょう。
それが嬉しいかどうかで問われると、否と答えざる得ません。
だって、私には肝心の『前世の記憶』がないんですよ。前世の知り合いだと言われても、記憶がないのですから郷愁を覚える事もできません。
「レヴィ様には申し訳ありませんが、覚えている訳ではありません。前世の話をとある人に聞いただけです」
「そうか……いや!謝る必要なんてないよ!ワタシと君が出会えた事、それこそが運命なのさ!前世の絆がワタシたちを導いたんだよ!」
「そうですか」
ここまでテンションが上がったレヴィ様を見るのは初めてですね。興奮しすぎで少し気持ち悪く感じます。余程、前世に思い入れがあるのでしょうね。
私と違って。
前世の番と出会うのはいいですが、その時の対処法まで教えてくださいよ先生。この場にいない先生にそう言いたくもなりました。
「ん?」
───番?
その意味は難しくありません。番とは、二つのものが組み合わさって一組になることであり、特に今回のケースですと動物のオスとメスの夫婦を意味します。
この意味を踏まえてレヴィ様の発言を思い出してみましょう。
『生まれ変わったら夫婦になろうって、前世でそう、言ってくれてじゃないか!』
───既に番なのに、生まれ変わったら夫婦になろうって言いますか?
生まれ変わっても夫婦になろう、ならまだ分かります。
その言い方では、前世では結ばれていないとも取れますよ。
矛盾してませんか?
いえ、決めつけるのはまだ早計。
「レヴィ様……私たちは前世で結ばれる事はなかったです。ですが、こうして再び出会う事が出来ました」
「そうだね!これを運命と言わずなんと呼ぼうか!ワタシたちの愛が、二人を引き合わせたんだ!」
私が誘導したのもありますが、否定せずにそのまま認めましたね。前世で、結ばれなかったと。
「…………」
レヴィ様が語る前世と、先生が語る前世の内容が一致しません。
つまりどちらかが嘘を吐いている。
レヴィ様?先生? 果たしてどちらが嘘つきなのか?
悩む必要すらありませんね。私は全面的に先生の事を信頼しております。ですので、嘘を吐いているのはレヴィ様という事です!
私は先生の占いを───強いては先生が使う魔導具を信頼しておりますから。
「mein Schatz……今後こそ、二人で幸せになろう!」
レヴィ様そう言いながらが一歩前へと踏み出した瞬間、私の影が急激に膨れ上がり、黒い人影となってレヴィ様の前に立ち塞がります。
この影の正体が何かというと、私の護衛の為に魔道具で影に潜んでいた梓さんですね。彼女も先生から占い結果を聞いていました。だからこそレヴィ様の主張に違和感を覚えた。こうして姿を現したのはレヴィ様から私を護る為……。
「ボスと幸せな家庭を築くのはこの僕だ!間違っても君じゃないよ!勘違い女!」
漫画のドーン!!という効果音が聞こえてくるような、力強い宣言でした。
梓さんとも家庭を築くつもりはありませんよ、と間違って口にしたらどうなるでしょうか? 恐らくレヴィ様と梓さんの二人が敵になることでしょうね。
最悪の未来が想定出来たのでお口はチャックして、二人のやり取りを見届けましょう。
「誰だい君は……」
最初に感じたのは肌を突き刺すような強烈な敵意です。弱き者であればその敵意に晒されるだけで、心が折れて逃げ出したくなるでしょう。
現に今回の事に関係のないチン代様とピラ美様にもレヴィ様の敵意は届いており、糸が切れた人形のように床に座り込んでいます。
心配になるくらいガタガタと震えていますけど、その程度の実力で良くもまぁレヴィ様の知り合いである私にちょっかいかけれましたねー。
と、そんな事はさておき。
レヴィ様の敵意を何処吹く風と流している梓さんが、どう返すか見ものですね。出来れば私の部下───『faceless angel』の幹部に相応しい言葉を期待します。
「僕はボスの右腕だよ。君と違って全幅の信頼を置かれている。だからこそボスは僕に命とチンコを護る役割を僕に与えたのさ」
与えてません。
「なるほど……ならば、君を倒して。ワタシのチンコを頂くとするよ!!」
私のです。
「させないよ!ボスのチンコは僕のものだぁぁぁ!!」
そんな最悪な流れで戦闘を始めないでください。
───もうやだ、この世界。




