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燈守ノ書 〜 大正怪異譚  作者: NOA
灯影残し(ほかげのこし)
9/47

 燈守神社に隣接する神職の住まい、その座敷の一間で、晴臣と玲、それに晴臣の父・敬道(けいどう)が、ちゃぶ台を囲んで夕餉(ゆうげ)をとっていた。

 麦入りのご飯に、焼き魚、味噌汁、煮しめ、そして分厚い厚揚げの煮物。素朴ながらも、心がほっとするような品々が並んでいる。


 玲は黙々とご飯をかきこんでいた。

「……なあ、玲。それ、何杯目だ?」

 呆れたように見つめながら、晴臣が聞いた。

「四杯目」

「やっぱり……なんでそんなに食えるのさ」

「……体、貸すと、腹が減る。全部、抜けたみたいになる」

「そういうもんか……そりゃ、食わんとやってられんよな」

「……うん。詰めないと」

「……なにその言い方」


 晴臣が飯櫃(めしびつ)をのぞき込むと、もうご飯の残りが心もとなくなっていた。

 そこへ湯気の立つヤカンを手に、敬道が台所から戻ってくる。

「はははっ、玲、どんどん食え。今日の麦飯は米を多めにしてある。たまには贅沢しないとな」

 玲は箸を止め、ちょこんと首をかしげた。

「……最初のひと口で気づいた。でも、気づいたより先に手が動いた」

「そりゃ四杯も食べりゃな……って、もう五杯目!?」

「……うん」

「“うん”て……」

「ぎりぎり、まだあるよな?」

「あと一杯分、ってとこだな」

 そのやり取りに、敬道が豪快に笑った。

「煮物な、山ほどあるぞ。全部食っていい」

「やった!」


 玲が茶碗を差し出すと、晴臣はため息まじりに飯櫃を手に取った。

晴兄(はるにい)、それ食べないならちょうだい」

 目にも止まらぬ速さで、目刺をひょいと箸でつまみ、パクッ。

「あっ!それ、最後にとっておいたのに〜!」


 神の(やしろ)に仕える者たちの、ささやかで、しかし何よりもあたたかい晩餐(ばんさん)

 ちゃぶ台を囲む空気には、どこかほっとするような、静かな安らぎが漂っていた。



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