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燈守神社に隣接する神職の住まい、その座敷の一間で、晴臣と玲、それに晴臣の父・敬道が、ちゃぶ台を囲んで夕餉をとっていた。
麦入りのご飯に、焼き魚、味噌汁、煮しめ、そして分厚い厚揚げの煮物。素朴ながらも、心がほっとするような品々が並んでいる。
玲は黙々とご飯をかきこんでいた。
「……なあ、玲。それ、何杯目だ?」
呆れたように見つめながら、晴臣が聞いた。
「四杯目」
「やっぱり……なんでそんなに食えるのさ」
「……体、貸すと、腹が減る。全部、抜けたみたいになる」
「そういうもんか……そりゃ、食わんとやってられんよな」
「……うん。詰めないと」
「……なにその言い方」
晴臣が飯櫃をのぞき込むと、もうご飯の残りが心もとなくなっていた。
そこへ湯気の立つヤカンを手に、敬道が台所から戻ってくる。
「はははっ、玲、どんどん食え。今日の麦飯は米を多めにしてある。たまには贅沢しないとな」
玲は箸を止め、ちょこんと首をかしげた。
「……最初のひと口で気づいた。でも、気づいたより先に手が動いた」
「そりゃ四杯も食べりゃな……って、もう五杯目!?」
「……うん」
「“うん”て……」
「ぎりぎり、まだあるよな?」
「あと一杯分、ってとこだな」
そのやり取りに、敬道が豪快に笑った。
「煮物な、山ほどあるぞ。全部食っていい」
「やった!」
玲が茶碗を差し出すと、晴臣はため息まじりに飯櫃を手に取った。
「晴兄、それ食べないならちょうだい」
目にも止まらぬ速さで、目刺をひょいと箸でつまみ、パクッ。
「あっ!それ、最後にとっておいたのに〜!」
神の社に仕える者たちの、ささやかで、しかし何よりもあたたかい晩餐。
ちゃぶ台を囲む空気には、どこかほっとするような、静かな安らぎが漂っていた。