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数日後、啓太郎のもとに宗右衛門が現れた。
額を地につけて詫び、証文通りの金を持参した。
啓太郎はただ黙ってそれを受け取り、何も言わなかった。
それでよかった。父が望んだのはきっと、騒ぎ立てることではない。真実が明らかになり、誠実に償われることだったのだ。
その晩、啓太郎は夢を見た。
静かな雨の音のなか、庭に立つ父の姿があった。
もう怒っていなかった。厳しかった目も、今はやさしさに満ちている。
「おまえとは……よう喧嘩もしたな」
柔らかい目だった。
「わしは、和傘を守ることしか知らなかった。おまえが何を見ていたのか……どんな思いで言ったのか……気づいてやれなんだ」
啓太郎は、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
「だが、おまえには――おまえの道がある。もう、わしの時代ではない。……好きにやれ。おまえの思うように、恥じぬように、堂々と歩け」
父の姿が、風と共に薄れていく。
「啓太郎……すまんかった……頼んだぞ」
言葉とともに、啓太郎の頬に風が吹き抜けた。