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翌朝、啓太郎の部屋を訪ねると、ようやく布団から起き上がっていた。顔色はまだ悪いが、昨夜よりは幾分ましに見える。
「……おはようございます」
晴臣が静かに声をかけると、啓太郎は目を伏せたまま、ぎこちなく頭を下げた。
「大旦那さまは、あなたのことをとても心配されています」
啓太郎のまぶたがわずかに揺れる。
「……怒って……いませんでしたか」
「何か伝えようとしておられました。けれど……その途中で、霊の気配が急に途切れました」
啓太郎はそっと目を伏せる。
「……そう、ですか」
もう一度だけ会えたのなら、聞きたかった。叱られたかった。謝りたかった——。
その想いだけが、静かに啓太郎の胸の奥に残った。
晴臣は懐から小さな紙包みを取り出し、啓太郎の前にそっと置いた。
「これを、蔵の前で拾いました。見覚えがありますか?」
啓太郎は眉をひそめながら包みを開き、中の釦を見つめた。
「……これは……山形堂の、仕立てのものです。私も、この釦のついた上着を持っていますが……これを、どこで?」
「大旦那さまが倒れていた場所のすぐそばです。蔵の影になっていたところに落ちていました」
啓太郎は紙包みを手にしたまま、動きを止めた。
「山形堂は、もともとは裏通りの小さな仕立て屋でした。父はあまり、あそこを……よく思っていなかったようです。けれど私は好きでした。仕立ても洒落ていて」
晴臣は静かに頷いた。
「……もう一晩、滞在させていただけますか。もう一度、確かめておきたいことがあります」
「ええ……どうぞ……」