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燈守ノ書 〜 大正怪異譚  作者: NOA
灯影残し(ほかげのこし)
4/40

 翌朝、啓太郎の部屋を訪ねると、ようやく布団から起き上がっていた。顔色はまだ悪いが、昨夜よりは幾分ましに見える。


「……おはようございます」

 晴臣が静かに声をかけると、啓太郎は目を伏せたまま、ぎこちなく頭を下げた。

「大旦那さまは、あなたのことをとても心配されています」

 啓太郎のまぶたがわずかに揺れる。

「……怒って……いませんでしたか」

「何か伝えようとしておられました。けれど……その途中で、霊の気配が急に途切れました」


 啓太郎はそっと目を伏せる。

「……そう、ですか」

 もう一度だけ会えたのなら、聞きたかった。叱られたかった。謝りたかった——。

 その想いだけが、静かに啓太郎の胸の奥に残った。


 晴臣は懐から小さな紙包みを取り出し、啓太郎の前にそっと置いた。

「これを、蔵の前で拾いました。見覚えがありますか?」

 啓太郎は眉をひそめながら包みを開き、中の(ぼたん)を見つめた。

「……これは……山形堂の、仕立てのものです。私も、この釦のついた上着を持っていますが……これを、どこで?」

「大旦那さまが倒れていた場所のすぐそばです。蔵の影になっていたところに落ちていました」


 啓太郎は紙包みを手にしたまま、動きを止めた。

「山形堂は、もともとは裏通りの小さな仕立て屋でした。父はあまり、あそこを……よく思っていなかったようです。けれど私は好きでした。仕立ても洒落ていて」

 晴臣は静かに頷いた。

「……もう一晩、滞在させていただけますか。もう一度、確かめておきたいことがあります」

「ええ……どうぞ……」


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