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その日の夕暮れ時。嶋屋の勝手口にふたりの若者が立っていた。
端整な顔立ちに前髪を短く下ろした短髪、控えめな袴姿の十九歳。神主の息子で、凛とした眼差しをたたえ、町では「若様」と親しまれている──灯神晴臣である。
もうひとりは灯神玲、十六歳。小柄で華奢、どこか女の子のような顔立ちをしている。寡黙で、おとなしい。晴臣の従弟で霊感が強く、世間では「狐っ子」と噂される。
ふたりは、今や店を継いだ若旦那・啓太郎の部屋へと案内された。
「灯神様がお見えになりました」と番頭が取り次ぐ。
啓太郎は、ふとんの中で顔を覆い、小さく震えていた。
「……俺のせいだ……親父は怒っている……俺が……あんなことを……」
晴臣は啓太郎の傍に座り、落ち着いた声で言った。
「あまりご心配なされませぬよう……気をしっかりお持ちください」
啓太郎は、怯えたまま丸まっていたが、わずかにまぶたを上げ、晴臣を見た。
「よろしく……お願いいたします」
晴臣と玲は番頭の案内で、離れに通された。そこは先代の使っていた部屋で、庭に面して建てられている。
「……こちらが、大旦那様がお使いになっていた部屋でして」
「この庭で亡くなられていたのですね」
晴臣の問いに、番頭はしばし言い淀み、うなずいた。