表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/39

(2)

 

「着いたみたいね」


 あっという間に美家の上空に達し、ホバリングが始まった。


 そして玄関前の広いロータリーに爆音を轟かせて着陸した。


 すると、軽子が血相を変えて家から飛び出してきた。


「よっ」


 澄まし顔でヘリコプターから降りたフランソワが、額につけた肉球を映画俳優のようにキザに動かした。


「フランソワ……」


 軽子が口を大きく開けた。

 鷲に食べられたとばかり思っていたのだろう。

 しかし、すぐに「まさか幽霊じゃないわよね?」とフランソワの鼻を思い切り抓った。


 余りの痛さに飛び上がった。

 鼻は犬の急所なのだ。

 顔をしかめていると、軽子の目つきが変わった。

 その目には〈仕返しができる〉という文字が浮かんでいるように見えた。

 怨念が忘却の彼方から戻ってきたようだった。


「私を突き落とした憎き奴!」 


 叫ぶように発した軽子の犬歯がキラリと光った。


 それを見てフランソワはニヤリと笑った。


「まだまだ未熟者よの~」


 敵意を隠そうともしない軽子を一瞥した。


「能ある犬は牙を隠す!」


「うるさい!」


 憎々しい目になった軽子がフランソワを睨みつけた。


「まあまあ」


 火花を散らすフランソワと軽子の間に玉留が割り込んだ。


「椙子さんにお目にかかりたいのですが」


「えっ、でも、椙子様は……」


 言い淀んだあと、軽子が衝撃的なことを口にした。


「露見呂嗚留様とのハネムーンに出かけられました」


 えっ! 

 ハネムーン? 

 椙子様と呂嗚流が? 

 そんなこと……、


 動揺して視線を玉留に向けると、目が点になっていた。

 そして白目になったと思ったら、崩れるように地面に落ちた。


「しっかりして!」


 助けようとして一歩踏み出したフランソワだったが、足元がおぼつかなかった。

 動揺が足にきていた。

 それが頭に及ぶのに時間はかからなかった。

 目の前が真っ白になって耳から音が消えた。


 *  *


「しめしめ」


 2人を見つめる軽子がほくそ笑んだ。

 しかし、すぐに恐ろしい顔になって、「仕返ししてやる!」と吠えた。


 気絶したフランソワを家に運び込むと、ロープで体をぐるぐる巻きにして、両手で抱きかかえてプールサイドまで行き、ニヤリと笑った。


「お前とは二度と」


 フランソワを右手だけで抱えて、左手で排水溝のハッチを開けるボタンを押した。

 すると直径2メートルのハッチが全開になり、プールの水が音を立てて渦になって吸い込まれていった。


「さようなら」


 永遠の別れを告げた軽子がフランソワを放り投げると、水しぶきを上げてプールの中に落ち、体がくるくる回り出した。

 そして、排水溝に吸い込まれていった。


 渦と共に去りぬ!


 軽子が合掌した。


 * *


 その時、いきなり場面が変わり、

 豪華な部屋で鏡に向き合っている大男が現れた。

 異様な姿をしたそいつは……、



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ