表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/39

プロローグ

 

 私はいつも寝る時に本を読むの。


 昨日読んだのは、世界一美しい女の人のお話よ。


 名前は(うつくし)椙子(すぎこ)さん。


 肌にはシミひとつなくて真っ白で、艶々としたキメ細かな肌で、赤ちゃんのお尻のようなプルンとした肌なの。


 それに、細い眉と二重の(まぶた)につぶらな瞳で、鼻筋はすっと伸びていて、頬は丸みを帯びているんだけど顎はシャープなの。


 おまけにスタイル抜群で、その上、語学も完璧なの。

 英語はもちろん、フランス語もドイツ語もイタリア語もスペイン語もポルトガル語もペラペラだし、韓国語と中国語とアラビア語も日常会話程度ならOKなの。

 だから自動翻訳機なんて必要ないの。


 でも、それだけではないの。

 ピアノの腕前も凄いの。

 ヤマハのグランドピアノを弾いているんだけど、ベートーベンの『ピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15』を誰よりも上手に弾きこなせるの。


 そうそう、こんなことが書いてあったわ。

 椙子さんがベートーベンとお話ししているの。


「あ~、ベートーベン、あなたの音に包まれているこの瞬間がわたしの至福の時。

 あ~、ベートーベン、わたしはあなたの虜よ。

 だけど、ベートーベン、何故あなたはわたしの時代に居ないの? 

 何故わたしの目の前にいないの? 

 何故わたしに教えて下さらないの? 

 でも、わたしにはわかるの。あなたが導いて下さっていることを。

 あなたが見守っていて下さることを。

 あ~、ベートーベン、いつまでもわたしの傍に」


 それからね、「今日も最高の演奏ができたわ。わたし以上にこの曲を弾きこなせる人はいないの。完璧という言葉はわたしのためにあるのよ」って言うの。

 笑っちゃったけど、ここまで言い切るのって凄いと思わない?


 でもね、それで終わりではないの。

 バイオリンも上手なの。『カノン』とか『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』とかを目を瞑っても演奏できるの。


 それに、ドラム演奏も凄くて、ローリングを始めたら圧倒されるほどなの。


 羨ましいわよね。

 お金持ちのお嬢さんで、何でもできちゃうんだから向かうところ敵なしよね。


 因みにピアノは2,000万円なんだけど、「フェラーリ一台よりも安いからね」ってパパがカード1回払いで買ってくれるの。


 読んでてため息が出ちゃった。

 だから、本を閉じた時に「いいな~、私も椙子さんみたいになりたいな~」って思ったの。

 そのせいか、本を枕元に置いて寝たら、夢の中に美椙子さんと私が出てきたの。


 メッチャきれいだったわよ。

 信じられないくらいきれい。

 それでも心配なのか、鏡に向かって毎日質問するの。

「鏡よ鏡、この世でわたしより美しい女性がいたら教えて?」って。


 するとね、「椙子様、この世で最も美しい女性は、あなた様です」って鏡が答えるの。

 するとにっこり笑って、「当然よね」って言うの。

 私もそんなこと言ってみたい。


 そうそう、ダンスも凄いのよ。

 椙子さん専用のダンススタジオがあってね、そこで1時間くらい踊るんだけど、まったく息が上がらないの。

 それに、スピンはまったく軸がぶれなくて、思わず見惚れちゃった。


 それが終わるとね、おっきなプライベート・プールで泳ぐのよ。

 これも凄いの。

 クロールもバタフライも背泳ぎも平泳ぎも完璧なの。

 速いだけではなくてフォームがメッチャきれいなの。

 天は椙子さんに何物(なんぶつ)与えているんだろうって、嫉妬しちゃった。


 私はプールサイドで爪を噛みながら見てたんだけど、椙子さんがプールから上がると小さな犬が近寄ってきたの。

 白くてかわいいホワイトテリアで、名前はフランソワ。


 私が抱き上げてスリスリしたらとっても喜んで、甘えた声を出して遊びたそうにしたの。

 だから離してやると、ぴょんぴょん飛び跳ねて、追いかけっこしようって誘ってくるの。

 だから待って~って走り出したんだけど、その時びっくりするようなことが起こったの。

 急に空が暗くなったと思ったら竜巻がやってきて、フランソワを巻き上げたの。

 お空に昇って行ったのよ。


 突然のことにあんぐりしちゃったけど、横を見たら椙子さんが「竜巻と共に去りぬ」って言って、手を振っていたの。

 だから私も振ろうとしたんだけど、そこで目が覚めたの。

 夢が終わっちゃったのよ。

 もう一度目を瞑ったけどダメだった。


 だから、今夜はフランソワの夢を見るの。

 あのあとどうなったのか知りたいからなんとしてでも見るの。

 もしかしたらもう一度椙子さんも出てくれるかもしれないし、そうなったら嬉しいでしょう。

 でも、それって欲張り過ぎかな? 


 だけど、「一生懸命お願いしたら思いは叶うのよ」ってママがいつも言ってるから、それを信じて本を枕元に置いて目を瞑るね。


 おやすみなさい。


 * *


 するとすぐに夢が始まり、鏡が現れた。

 しかし、そこに写っているのは椙子ではなかった。

 鏡の前にいたのは……、



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ