5.古狸と出会う
追っ手に追わせているのに見つからないのか?
ミユキ殿の顔は見慣れてないかもしれないが、供に連れて行かせたイーゼルの顔はわかるだろう?
なんで見つからないんだ?
私は皇太子としては失格かもしれないが机をドンッと拳で叩いた。机に積まれていた書類が床にバラバラ散らばった。
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「この街は私達が整形する瞬間を見てるから、次の街で治療院を開業しようかなぁ」
「それがいいですね」
私達にはぞろぞろとついてくる男女がいる。ストーカーというかなんというか…
「砂漠を越えようか?」
と、イーゼルは言う。このストーカー(?)を切り離すのが目的だろう。
「そうだねぇ」
お金かかるから避けたいな。というのが本音。治療院の開業資金……。
イーゼルの言葉だけでストーカー軍団が切り離された。治療院の開業資金が守られた。
「さて、計画通り次の街で開業しようか?」
「開業するのになんか必要なものある?突然、店やりま~すってダメでしょう?」
こっちにはこっちのルールがあるんだろうからなぁ。私には生きにくい。はぁ。
「いや、突然治療院やります!でいいはず。必要なものか?その土地の領主様の許可かなぁ?」
難関現る。どうやって領主様に許可を頂けばいいんだ?そして、誰?
「次の街はその街に領主様がいるからラッキーだよね。場合によっては領主様が遠方にいるってことも……」
なんて恐ろしい……。
私達は次の街まで乗り合い馬車で移動。出費が痛い。
「あんちゃん達は新婚かい?美男美女だなぁ?」
「ちょっと違います。彼は私の護衛なんですよ~」
「俺としたことが…勘は外さないんだけどなぁ。あんちゃん、顔赤いぜ?初心だなぁ。」
「からかわないであげてください。可哀そうだし」
「嬢ちゃんみたいな美人に頼まれちゃ、おじさん何でも言う事聞いちゃう!」
と、のん気な乗り合い馬車で次の街まで移動した。
街の名前は“リンドバーグ”
飛行機?でも発明するんだろうか?
それはそうと、領主様に許可を頂きに行く。
リンドバーグ子爵邸。子爵様は平民などに会ってくださるだろうか?
「本日は街に治療院を開業したく、子爵様の許可を貰いに来ました」
会ってくれた。
「街にはすでに治療院があるんだよねぇ」
「治療対象は?」
「主に貴族かな?治療費が高額で、平民は支払えないから」
「私が開く治療院は貴賤の区別なく、治療したいと考えています。もちろん、治療費として高貴な方からは多く頂きます。貧困層の方はできる限りでかまいません。そのような治療院をと考えています」
「コストはどのように?」
私はイーゼルに「実際に見せた方がいいかな?」と耳打ちしたら首肯で応えてくれた。
「怪我をしている方、病気の方はいらっしゃいますか?」
子爵家の執事の方が腰痛だと申告してくれた。
「では、近くに来ていただけますか?」
私は執事の腰の辺りに手を当てて、「よくなれ」と心の中で祈った。
「旦那様、腰痛がすっかりよくなりました!あと50年は働き続けることが可能ですぞ!ハッハッハッ!」
「このように、私には全くコストがかからないのでできるのです」
「治療魔法か?ステータスを見せてもらっても?」
『聖女』だという事がバレてしまう。
「それは勘弁してください。治療魔法ではないので、魔力は使いません」
「うーむ、わかった。開業を許可する」
この子爵、私が『聖女』だって事にうすうす気づいているかもしれない。その上で、街が潤えば……という算段では?と思ってしまう。なかなかの狸だ。