第4章 かたかた魔導コンピュータ
リリスは、寮の自室で机に突っ伏していた。目の前には自作の測定器と分厚いノートが広がっているが、彼女の表情はどこか憔悴している。
「はぁ……結局、門前払いかぁ」
ぽつりとつぶやいた声は、誰にも届かない。セス・ヴェルナーの無情な態度を思い返すたびに、心の中にわずかな苛立ちと、少しの自己嫌悪が混ざり合う。
──まぁ、元のリリスが嫌われてたんだし、仕方なし。
そう自分に言い聞かせて、気持ちを切り替えようとする。目の前のノートを見つめながら、リリスは一度深呼吸をした。
「……でも、この結果自体は悪くないどころではないのだよな」
彼女の実験では、オリハルコンとミスリルを使った魔磁石の挙動が明確に記録されていた。フレミングの左手の法則に似た動きを確認し、魔力にも力学的な規則性があることを示せたのだ。ニヤつく頬を抑えて、リリスは独り言ちる。
「異世界転生!すごい技術の導入!ババーンって、ノーフォーク農法とかガラスペンとか日本食とかがおおかった印象…果たしてマクスウェル方程式を持ってきたヒロインっているのかな?」
満足感にリリスはニヤニヤを隠しきれない。しかし.......、精密な測定器がなければ、これ以上の進展は難しいことも事実だった。
「うーん、次はどうするかなぁ……」
リリスはペンをくるくる回しながら、考え込む。すると、ふと頭の中にひらめきが訪れた。
「待って、魔力が電流みたいに流れるなら……コンピュータ作れる!?」
自分の言葉に驚きながらも、興奮がこみ上げてくる。魔力で動くコンピュータなんて、考えただけで夢が広がる。
「ミスリル線で回路を組むのもいいけど……いや、魔法陣を回路に使ったら、絶対スマートでエレガントでしょ!サイコー!」
彼女は立ち上がり、机の上に散らばった道具を慌ただしくかき集めた。次々とアイデアが浮かんでくる。魔法陣で効率的に回路を描く。適切に抵抗、コンデンサ、半導体の役割を組み込めば、魔導コンピュータは現実のものになるはずだ。
「でも……真空管的なものはできても大きすぎるし、効率も悪そう。うーん、やっぱり魔法陣用のインクを改良して半導体としての役割を持たせるのが理想……!」
彼女はひとりでブツブツとつぶやきながら、ノートに勢いよくスケッチを描き込む。その手は止まらない。しかし、次の瞬間、現実が彼女を冷たく引き戻した。
「……って、待って。お金が足りぬ!」
その場でガックリと肩を落とす。魔導工学科の基本的な道具や素材は学園で借りられるが、新たなインクの開発となると話は別だ。正直魔電気学に消費する魔石の量も、バカにならなくなってきた。必要な資金をどうやって工面するか、まるで見当もつかない。リリスのちょっとしたアルバイトでは賄えないのは明らかだった。
「はぁ……金蔓、金蔓探さないと……」
そうして、リリスの挑戦は新たな一歩を踏み出した。未来を切り拓くための、金蔓探しの旅から。




