9.ノトル・ダーム君の証言
別の猫の話を聞いてる間、僕はその話が自分の噂話と被っていない事を確認していました。
それから、遂に九十話目が語られました。いよいよ、僕達五名を含んだグループが話す番になりました。
僕達は最後に登録された猫だったので、別の五名が先に話をしました。
その後、ベルゼ・ブブ君と、蝙蝠ボイル君と、ガリガリ・レオレイ君と、ニュース・トン君が話しました。ようやく僕の番になって、僕はこう話したんです。
「ずっと以前に、非常階段の出入り口で、明野ルキフェル君が殺害される事件がありましたよね。その時に捕まった、ウェン・ディーネ君と、火車ダンテ教授は、実は共謀していたんだと言う話です。
明野ルキフェル君はナイフで刺されていましたが、それを自分では引っこ抜いて無いと言うのです。ウェン・ディーネ君が刺して、火車ダンテ教授が抜き取ったのだと、明野君は言うのです。
何故、死んでしまった明野君の言葉が分かるのか、それは、彼が僕の夢枕に出てきたからです。右のお腹を押さえて、其処からだくだくと血を流しながら」
話を終えると、猫又博士は拡声器を持って、「実に興味深い」と言いました。
「何故君は、明野君が刺されたのが、右のお腹だと分かったのかね? そして……何故君は今日、黒い革のジャケットを選んだのかね?」
僕は確かに、その日に黒い革のジャケットを選んで着ていました。
その次に、猫又博士はこう言ったのです。
「君の毛色は茶のトラ柄だね。まるで、此処から見ていると、あの日の明野ルキフェル君のようだ。それは百物語を盛り上げるためのジョークかい? それとも、本当に……」
そう言った猫又博士は、大きく息を吸って吐いてから、こう続けました。
「明野ルキフェル君に、憑りつかれているのかい?」
その言葉と同時に、猫又博士の手元でついていた、唯一の明かりがふっと消えました。
そして、大きな竜巻でも起こったように、体育館中を風が吹き荒れました。学生達は、みんな、逃げ出したり、その場に縮こまったりしていました。
その場にとどまっていた僕は、拡声器を置いた猫又博士の言葉が、ちらりと聞こえました。
「やったぞ!」と、猫又博士は、風が唸る中で叫んだのです。
空中に大きな穴が開いて、星のように輝く何かが見えました。
そして、猫又博士は続けて叫んだのです。
「雷桜殿! ワタクシはやり遂げました!」と。
猫又博士は、心が急き立てられているような様子で、星の光る渦に向かって走り出しました。
その時まで気付きませんでしたが、僕は何か生温かい物に包まれていました。それが体から離れると、急激に風の冷たさを感じました。
猫又博士が大渦の手前まで来ると、大きな猫の手が、黒い空間から伸びて来て、猫又博士の背を掴んだのが見えました。続けて、猫又博士が、その大きな手に捕まれたまま風の渦の中に連れ込まれるのも見ました。
それからは、一切が真っ暗に成りました。風の音も止んで、その場に残っていた生徒達で、猫又博士の立っていた講釈台の明かりをつけ、それから体育館全体の明かりをつけました。
逃げ出した猫達も、体育館に明かりがついた事に気づいて、ぞろぞろと戻ってきました。
だけど、猫又博士の姿は、それっきり見た事はありません。
これは予感ですけど、猫又博士は、ずっと「ツキノウラからのあの世の入り口」を見つけ出すことを望んでいたんじゃないでしょうか。
ヒトノホシから導かれた様々な種族が、何故ツキノウラで永遠に近い年月を過ごすのかを知るために。