8.五十五話目から六十話目
五十五話目。
「肉と三十回唱えると、国に連れて行かれます。そして猫達は其処で、猫フライにされるのです。猫の肉は脂身が多いので、フライに最適なのだと言います。そしてフライにされたら、三百円で売られるのです」
五十六話目。
「猫族がツキノウラに来る方法は、みなさん分かっているでしょう。ですが、犬族や鳥族やもっと他の種族がツキノウラに来るには、とても厳しい試験が必要なんだそうです。
その試験のために犬族も鳥族も他の種族も、みんな揃って勉強をします。ですが、どれだけ勉強をして優秀な成績を修めても、互いを食べ物だと思ってしまう種族はツキノウラに来れないそうです。
例えば、獅子族とかでも、安易に他の種族を食べない事を誓わなければなりません。その誓いを立てた獅子族は、ステーキでは無くて、キャットフードを食べます。
その事を、獅子族は猫に堕ちたと言って嘆いているそうです。でも、キャットフードの売れ行きは間違いないのです。
想像して下さい。もし、ツキノウラにキャットフードがなかったら、獅子族がどんな暴虐を働いていたかを」
五十七話目。
「ジラフ族は草食動物ですか。とても気性が荒いのです。そうでなくてはヒトノホシのサバンナで生きていられなかったからです。その思考回路を受け継いでいるジラフ達は何かあると蹴飛ばします。
物でも植物でも他の種族でも、自分の子供でもです。自分の子供を蹴飛ばしてから『ああん。ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの』と唱えます。
ジラフ達はどんなつもりで子供を蹴飛ばすのでしょうか。一番に考えられるのは『お前は私に危害を加えたんだ』と言う、サバンナでの思考の名残でしょう。
こうしてジラフの子供達の、幼少期の骨折数は上がって行くのです」
五十八話目。
「お月様は手鏡のように真ん丸だと信じられていた時代に。ヒトタチがツキノオモテに来たことがあります。彼等はラップシートを重ねて銀色に塗った船で月に着地しました。
そして自分達の国の国旗を月に立てて記念撮影をして、ツキノオモテは自分達の領土だと主張しました。
そう言わけでツキノオモテに行くと恐ろしい支配欲に染まったヒトタチによって、ヒトノホシのレーダーで捉えられてレーザーで焼き殺されるのだそうです」
五十九話目。
「ヒトタチの間で肉体を鍛える事は、昔から良い事だと思われていました。だけど、昔の運動には、関節に負荷をかけるだけで、筋肉の成長には全く関係ない動作もありました。
そう言う動作は『辛さ』を味わう事で、精神性が鍛えられるのだと信じていたのです。だけど、彼等の膝と腰はガクガクになるほど傷めつけられ、折角の試合では散々な有様だったと言います
その合理的でない運動を、『うさぎ跳び』と言うそうです」
六十話目。
「現代のヒトタチの寿命は、長くて九十年から百年ですが。自分が何時か復活する事を願って、死んだ直後の脳を冷凍保存するヒトタチも居ます。液体窒素に付けて凍らせるんだそうです。
そのカチコチの脳をどの様に解凍するかはまだ決まって居ません。何故なら、脳が適合するための体は、まだ一揃いも作られて居ないからです。カチコチの脳はどんな夢を見ているんでしょうね」
そこまで聞き終えて、猫又博士は「ほ・五」から「ほ・十」までのグループが話し終わったのを確認し、帳面の夫々の個所にレ点を打ちました。
体育館の温度は少しずつ下がって来ていて、猫又博士が隠している温度計の中では、冷房も付けていないのに二十五℃を示していました。
話される物語は、どんどん「普通の噂話」になって来ていますが、重要なのは百の物語を語る事なのだと、猫又博士は狙いをつけていました。