7.五十一話目から五十四話
五十一話目。
「ある所に、美しいものが大好きな女王様が居ました。彼女は宝石や色鮮やかに染められた布や色彩の豊かな絵画を集めて、お城の至る所に飾っていました。
だけどある日、盗人が現れました。ケースに入れて飾ってあった宝石が盗まれ、染布や絵画は持ち去られました。女王様は、とっても怒って、疑わしい猫物をつかまえては拷問にかけました。
逆さに吊るして毛皮を剝いだり、目玉を丸ごと抉り取ったり、生きている牙を抜き取ったり、神経と血管が通ってる所まで、爪をバチバチ切ったりしました。
だけど、誰も『私が盗みました。お許しください』とは言えませんでした。何にしろ女王様の拷問は物凄くて、許しを請うている暇がなかったのです。
そして一頻り粛清が終わってしまうと、女王様は拷問した猫物達を新しい『飾り』にしました。毛皮は洗って干して額装して壁に飾り、目玉は色が鮮やかなうちに標本にしました。
牙は指輪や首飾りにして、爪は服のボタンにしました。
そのように、死体を隠蔽してしまってから、女王様は別の『怪しい猫物』を、目をたぎらせて探しました。
ある日、とても美しい瞳をした猫物が、新しいお城の召使いとして雇われました。そして、その猫物は、一週間もしないうちに居なくなりました。
女王様の城では今でも、雇われた召使いは一週間もすると居なくなるそうです。そして女王様のコレクションは増える一方なのだそうです」
五十二話目。
「昔のヒトノホシの、ある宴席で、子豚の丸焼きが提供されました。客人達は、寝椅子に寝転がったまま、肉に手を伸ばして引き裂いて食べました。ところが、その子豚には、骨も内臓も脳も無かったのです。
料理の事を詳しく知らない客人達は、『子豚と言うものは丸ごと肉の塊なのだ』と納得していました。
そしてその家の料理人は、企みが上手く行ったことを喜んでいました。その企みと言うのは、子豚の丸焼きの形の焼き型で、肉塊を焼いて、子豚の丸焼きだと言って食べさせて片づけようと言う企みです。
その肉が、元は何の肉だったのかは、その家の料理人しか知る事は出来ませんでした」
五十三話目。
「真実を映す鏡と言うものがありました。その鏡は何故か薄暗い部屋の一室に飾られていました。何故ならあまりにも真実がはっきり映り過ぎて、誰もその像を見たくなかったからです。
王様は毎日お腹が出っ張って行くのを見たくありませんでした。女王様は皴が出来て髪の毛が段々白くなって行くのを見たくありませんでした。
王子様は自分がチビ助で青白い顔をしているのを見たくありませんでした。お姫様は自分の胸が腫れて来るのを見たくありませんでした。みんな真実なんて見たくありませんでした。
そしてある日、怒った王様は、真実の鏡を割ってしまいました。その途端、その王国に大変な災害が起こりました。巨大な地震が起こって、地面は割れて木々や建物は粉々に破壊されました。
まるで、割れて砕けた鏡に映っているように」
五十四話目。
「ある所にまだうら若い子猫の少年が居りました。彼は何時か近所のボス猫になって、子供をたくさん作ろうと考えていました。しかし、彼は一歳になる頃に、病院に連れて行かれました。
お尻に何かをされて、それっきり、彼はボス猫になる意思がすっかり固まらなくなってしまいました。成長しても、鳴き声は、何時までも子猫のような声のままです。
一体どうしたんだろう、と、少年猫は不安に成りました。そしてある日、彼は身づくろいをしていた時に気づいたのです。お尻にあったはずのまあるい物が無くなっている事に。
これはどう言う事だ? と思って少年は目を見張りました。あのまあるい物は取り外しの出来るものだったのだろうか、と考えました。
自分がボスになる情熱を失ったのは、そのまあるい物を失ったからだと気づきました。そして、何時かまたあのまあるい物は生えてくるのだろうか……と考えました。
少年猫は、今でもお尻を確認して、あのまあるい物が生えて来る事が無いかを待っています」