4.六話から十話
六話目。
「ヒトノホシの猫族は、周辺の猫族同士で集まって、集会をするそうです。ちょうど今、みんながこの体育館に集まっているように。
集まった猫達は、夫々の様子を確認すると、神社の社やお寺のお堂の中に入り込んで、みんなで夜通し踊り明かすのだと言います。
それを見てみようと思って、神社の社の板の隙間から、中を覗いた雌の人間が居りました。そしたらその雌の人間は心臓がびっくりするほど驚いてしまって、足音を消すのも忘れて神社から逃げ出しました。
家に逃げ帰っても、雌の人間は怖くて怖くて物も言えません。すっかり疲れ果てて囲炉裏の側で眠ってしまうと、早朝に帰ってきたその家の猫が、耳元で鳴いたのです。
『見たんでしょう?』と、人間の声で」
七話目。
「ある所に、スイカが好きな猫物が居ました。酢の味のイカではなく、蔓に実がなる方の植物のスイカです。ある日、その猫物は飛び切り美味しいスイカを丸ごと独り占めしました。
緑色の皮以外は、種まで全部食べてしまいました。そしたら、独り占めを不満に思ったその猫物の奥さんが、『へそからスイカが生えて来るよ』と言いました。
その次の日、スイカを独り占めした猫物は事故に遭って死んでしまい、亡骸はお墓に収められました。それから、その猫物のお墓の土を抉って、毎年スイカの蔓が生えるそうです」
八話目。
「夕方に、三角スキップの遊びを六名でやると、何故か影が七つ出来るそうです。そしてその七つの影を見た子猫は、将来頭がおかしくなって、独り言を大声で言うようになるそうです」
九話目。
「昔、ヒトノホシで、人間達がマントを着る生活をしていた頃、とても奇妙な事件が起こりました。
ヒトの子供が三人さらわれて、殺されました。一人は海で見つかって、一人は山で見つかって、一人は線路で見つかりました。
海で見つかった子供は真っ青な顔をしていて、山で見つかった子は真っ白な顔をしていて、線路で見つかった子は身体がバラバラになって血だらけだったそうです。
その事件の犯人ではないかと言われた人物は、血で染めた真っ赤なマントを着ていました。それに、少し気が触れているらしく、刑罰に掛けられませんでした。
子供達の親は、その人物を捕まえて殺してしまえと言って、赤いマントの男を私刑にかけて、殺してしまいました。
それから、ヒトノホシの、ある国では、真っ赤なマントを着た男が現れると、子供が三人死ぬそうです。真っ青な顔と、真っ白な顔と、真っ赤な死体に成って」
十話目。
「犬と三十回唱えると、犬が居なくなるそうです。『犬』が『居ぬ』になるからです。この話を笑うと、夜道を歩いている時に野良犬の襲撃に遭うそうです」
十話目が「いかにも適当に聞きかじった噂」であったことに、猫又博士は困った微笑みを隠せませんでした。
それでも、一生懸命……集めたか、考えた物語なのだろうと察しをつけて、一つの話が終わるごとに、テープレコーダーの録音を停めると、拡声器でお礼を言いました。
そして、「い・六」から「い・十」までの生徒の名前の所にレ点をつけました。
一つ目のグループの怖い噂話は終わりました。
残り九十の怖い噂話に、その場に集まった猫達は、猫又博士と同じく耳をそばだてました。