1.蝙蝠ボイル君の証言
夏休みに入るちょっと前の事です。掲示板に、面白そうな催しの企画が貼られていました。
夏休みのある日に、体育館に集まって、怖い噂話だけで一名一話、百の物語を語るって言う企画で、無事に百名語り終わる事が出来たら、チユウルを一名五本もらえるって言うんです。
企画者は、猫又博士って呼ばれている教授で、面白い実験や体験なんかを実際に受講中にやってくれる、気の利いた講師だって言われていた猫です。
この猫の企画した催し物なら間違いないって言って、僕は四名の同期生を連れて、合計五名でその催しに参加しました。
一緒に参加した奴の名前ですか?
えーっと、ベルゼ・ブブって言う歩き回るのが好きな奴と、ノトル・ダームって言う世話好きの奴と、ニュース・トンって言う太った奴と、ガリガリ・レオレイって言ういつも何か食ってる奴です。
みんな、チユウルが目当てで参加しました。ついでに、夏休みの間にアルバイトの予定を入れていない奴って言うのが、そいつ等しかいなかったんです。
あ。ノトル・ダームだけは、夏休みの間に病院で実習をやって実績をもらわなきゃならなかったらしいんですけど、「実習の日を、企画と被らないようにしてもらう」って言っていました。
それで、僕達は事前の申し込みのために、猫又博士の居室に行ったんです。
猫又博士は、僕達を歓迎してくれました。中々猫数が集まらなくて困ってたけど、僕達で丁度百名になったって言って、浮かれているって言うか……楽しそうではありました。
それで、僕達の名前を名簿に書いて、当日必要になるって言うリストバンド式のチケットをくれたんです。
「これを無くすと、体育館に入場もできないし、チユウルももらえなくなるから、気を付けたまえ」って、猫又博士は言っていました。
僕達は、参加を決めてから、それぞれ期日までに怖くて面白い噂話は無いかを探しました。え? なんで、先に噂話を用意していなかったかって?
だって、誰かに話すための面白い話なんて、そんなに転がってるもんじゃないし、大学でみんなが話してる噂なんて、大体誰でも知っていますから。
家族や親戚や、住んでる場所の近所の人や、中には街頭インタビューをしてまで「噂話」を集めている奴も居ました。
僕は、一件だけ、夏の夜に話すには丁度良い噂話を知っていました。だから、慌てて話を用意する事も無く、ゆっくり催し物の日を待ちました。
僕が他の仲間に、「噂話、用意できた?」と聞くと、催し物の一週間前には、みんな夫々噂話を用意していました。
いよいよ当日に成りました。
その日はとてもよく晴れて居て、夜になっても天気は崩れる事も無くて、手首にリストバンドをした奴等が、体育館が開くまで、手持ち花火をしたり、焚火で串焼きめざしを焼いて食べたりしていました。
冷やしたラムネードを一本五十円で売ってる奴もいて、こいつは商売上手だなと思いました。僕達も、そのラムネードを一本ずつ買って、ビー玉の栓を開けました。
レオレイの奴は、持参したドライフードの袋から、せっせと口の中に食べ物を詰めて、それをラムネードで喉に流して居ました。
心地好い夜風が吹いていて、遠くでは、ねずみ花火にじゃれてる奴も居たりして、なんだか、其処だけ切り取ると、お祭りの日の一日みたいに思い出せます。
だからこそ、猫又博士の思惑なんて気にしてなかったし、まさか、その後、自分達が怖い目に遭うなんて、想像もしていませんでした。
僕のした話ですか? それは、猫又教授の記録に残っていると思います。
実際に此処で話しても良いんだったら話しますけど。
細かい所は、記録とは少し違うと思います。だって、耳で聞いた話を口頭で伝えるんですから、ちょっとは誤差が出ますよね。