長い眠り
分からない、淡い記憶。
昔の記憶、夢なのか分からない記憶。
「何故裏切った!」
「我が神に貴様の女を捧げるためだ」
「神……何を馬鹿な事を!」
分からない記憶だ、古い記憶。
「これ以上、語る記憶はない」
「り、リンフィア……逃げてくれ……」
「娘を人質に取れば、あの女も従うだろう。
もう1人は難しいが、この娘なら」
分からない、淡い記憶なんだ。
この時の言葉、リンフィアって名前。
それが、私の名前なのは間違いない。
この人が誰で、ここが何処なのか。
私には分からない……夢の世界だからなのか
少しだけ、より鮮明に……この光景が
「あー、あー」
「ほう、言葉を初めて発したな。
パドルもあと少し生きていれば
死ぬ前に娘の声を聞けただろうに」
「あ、あ」
誰かに首根っ子を掴まれて何処かに連れて行かれる。
そして、今度は女の人が視線に入る。
「リンフィア!」
「分かってるな、ギルティア」
「……ど、どうしろと言うのよ」
「その刃で自らの心の臓を穿て」
「な……」
「我が神は貴様の心臓を欲してるのだ」
「……」
「さもなくば」
ギルティアと呼ばれた女性が刃物を持った。
そして、自らに刃を向けてるのが見える。
見たく無い、私の本能がそう叫んだときだ。
「リンちゃん!」
「あ!」
ナナちゃんの言葉で、私は目を覚ました。
「り、リンちゃん! 良かった! 起きた!」
「え……? どう言う」
「騎士さん! リンちゃん起きたよ!」
「本当か!? 良かった!」
焦った様子で騎士さん達も部屋の中に入ってくる。
明らかに切羽詰まってる様子だった。
「良かった……あぁ、目を覚ましたんだな」
「どうしたの?」
「リンちゃん、お風呂で眠ってから
ぜ、全然起きなくなっちゃったの!
3日間くらい眠ってて、
死んじゃうんじゃ無いかって!」
「3日間……? どうして」
「分からないが……
いや、それよりもお腹は空いてないか?」
「え? お腹……あ」
お腹を意識したとき、デカい音がお腹から聞えた。
「3日間も眠ってたんだ、当然か。
食事をすぐに用意するからそこで待ってて」
「うん……」
少しだけしんどい思いをしながらだけど
私はナナちゃんが泣いてるのを聞きながら
ふかふかのベットで横になったまま待った。
「うぅ、ひっく、リンちゃん、よ、よがっだ……」
「ごめんね、心配掛けちゃって。
今まで寝なかったからなのかな」
「寝なかった? ど、どう言う事だい?」
「……洞窟からでて、私は今まで寝てないの。
あなた達と一緒になっても1度も寝てない」
「眠ってくれとあれほど言ったのに……」
「信じられなかったから、眠ってなかった。
すぐに動けるようにナナちゃんを抱きしめて
ずっと、手元の剣を握ってたの」
「……そうか、私達に会う前も」
「ずっと起きてた、ナナちゃんを守る為に」
「うぅ、わ、私が、私が弱いから、弱いからぁ…」
「何故、起きてられたんだ? そんな事は」
「理由は知らない、眠らないようにしてたら
眠気を全く感じ無かっただけ」
「……確かにそう言う技術はあるな、魔法に近いが」
「魔法?」
「自身に不眠の魔法を掛け続ける技術があるんだ。
だが、反動で眠ったときに何日間も眠りに落ちる」
「……それなの?」
でも、私は魔法なんて使えないと思うけど。
だけど、ナナちゃんの怪我を治したり
自分の怪我を治してたりするし。
あれが魔法なのかも知れない。
「いや、そう言うわけじゃ無いと思うんだけど。
魔法は中々扱うのが難しい筈だから。
いやでも、怪我の回復もしたんだろう?」
「うん、何度もしてきた」
「なら、やはり魔法だとは思うが……」
やっぱりあの剣の効果で眠らなかったんだ。
魔法とか、そう言う技術らしいけど
そう言うのも使える様になるのかも?
「よし、料理だ、食べてくれ」
「あ、う、うん」
「沢山食べてね! た、沢山!」
「うん、沢山食べるよ」
持ってきて貰った美味しそうな料理を私は食べる。
美味しい……色々な味がする。
今までこんなに沢山の味は感じなかった。
味気ないパンとかばかりだったから新鮮だ。
ナナちゃんと一緒に居るときも
動物とかの肉を食べてたけど味が無かった。
だから、色々な味があるのはとても新鮮に感じる。
騎士さん達と合流した後は少し味はあったけど
塩の味ばかりだったから、今の色んな味は新鮮だ。
「美味しい……」
「そうか、それは良かった」
「はい! リンちゃん! はい!」
「ナナちゃん、1人で食べれるから」
「はい! 食べて! 食べてリンちゃん!」
「あ、あむ」
「沢山食べてね! まだ一杯あるもん!」
「う、うん」
「はい! 食べて!」
「ナナちゃん……ひ、1人で食べられ、むぐ!」
「食べて! い、いっぱい食べて!」
「……う、うん」
少し強引に何度かナナちゃんに食べさせられながらも
なんとか出された料理を全部食べる事が出来た。
お、お腹がいっぱい、膨らんでないか不安……
「う、うっぷ、お、お腹いっぱい……」
「もっと食べた方が!」
「も、もう良いよ、うん。ご、ごちそうさまだよ」
動揺してるナナちゃんは結構暴走する気がする。
それだけ心配してくれてたって事なんだと思うけど
もうちょっと、ゆっくりとご飯を食べたかったなぁ。
でも、本当に心配を掛けちゃった。
「それで、長いこと寝てた理由は見当付いたか?
病気なら医者に診て貰った方が」
「見当は付いた、あぁ、驚きだが……
多分、不眠の魔法だ、この子は自分に
不眠の魔法を使ってたんだと思う」
「な……不眠の魔法って、そんな馬鹿な。
いや、でも回復の魔法を使ってたらしいし」
「あぁ、魔法使いの家系なのかも知れないな」
「魔法使いの割には戦いが上手すぎる気がするが…」
「そう思うのか?」
「あぁ、打ち合った時に戦いの練度が凄かった。
本能で相手の弱い部分を狙ってた様に感じた」
「……戦いを学んだりは」
「してるわけ無い」
「そうだよね」
きっと剣の強さなんだ、あの剣はなんなんだろう。
祈りの剣……どう言う武器かサッパリ分からない。
せめて、あの文字が残ってたら良いのに。
「うーん、この剣も不思議には感じるが」
「あ! 返して! 私の剣!」
「ごめんよ、気になって調べてたんだ。
別に奪おうとしてるわけじゃない」
騎士さんから自分の剣を奪い返す。
この剣が奪われたら何も出来ない。
「しかしね、君がその剣を握ってる時
持ち手にある宝石が光ってたのに対し
俺達がその剣を握っても宝石は光らなかった。
剣と言うには、少し小さい気もするしね」
「え? あ、そう言えばそうかも?」
最初は結構大きかった気がするけど
今は私が持ちやすい大きさに感じる。
……気付かないうちに小さくなったの?
どう言う剣なんだろう、この剣……
「でも、君が持つと丁度ピッタリだ」
「うん……ピッタリ」
「拾っただけにしては、
サイズが丁度良すぎるんだよね。
何か心当りとかはある?
実は親から貰った剣とか」
「いや、黒夢の洞窟? だったっけ。
そこで転がってるのを拾っただけだから」
「ふむ」
騎士達が何かを考えてる。
この剣を奪うつもりなのかも知れない。
「色々と不思議なことは多いが、分かる事は1つ。
その剣は、どうやら君しか扱えないらしい。
どう言う理由かは分からないが、それで確定かな」
「きっと祈りの剣という名の通り
持ち主が望んだ効果を得られるんだと思う」
「……きっとそう、わ、渡さない」
「君を守ってくれてる大事な武器だ。
その大事な武器を奪うつもりなんて無いよ。
ただ剣が凄いと言うよりは、君が凄いんだろう。
魔法が剣で使えるはずが無いからね」
「……意味分からない」
「俺達もよく分からないけどね、専門外だし。
ただ剣が凄いだけじゃ無いって事だよ」
よく分からないけど、質問してもきっと意味は無い。
だって、この人達だってよく分かってないはずだもん。
当然、私だってよく分かってない。
なんなんだろう、この剣……特殊な剣なのは分かるけど。
「それじゃあ、そろそろ進もうか」
「あぁ、バナージまであと少しだしね」
「……うん」
とにかく付いていこう。
今はそれしか出来ない。