嫌いな大人達
男の傭兵達に囲まれてる。
1人相手にも勝てなかったのに
周りには3人くらいの傭兵達……
この人達が私達を奴隷にしようとしたら
絶対に勝てない……
剣の宝石も今は光ってないから
不意に強くなって勝つのは無理だ。
「怯えないでくれ、なにもしないから」
「……」
勝てるはずがないと分かってるからなのか
私は無意識に怯えが出て来てる。
それも、この人達に気付かれるレベルで。
「しかしどうする? この子達」
「ソールティアス様にお伝えするしかないだろう」
「実際、あの人なら元奴隷を育ててはくれるか。
それに、リンちゃんの実力は非常に高い。
この齢であの実力は将来有望だ」
「だが、幼い子供に戦って欲しくはないな」
傭兵達が話をしてるのが聞える。
私はナナちゃんの近くで警戒しながら付いていく。
もし攻撃をしてきたら対処しないと駄目だ。
でも、勝てる気はしない。
「しかし、あの強さだ、恐らくこの子が1人で
デュラハンを倒したのは確定だからな。
俺も最悪本当に斬られそうだった。
この才能を無駄にするのは勿体ないが」
私の事を話ししてるのは分かる。
将来有望だとか実力が高いだとか
そう言う、気休めの言葉を言ってる。
私の強さはこの剣ありきで強くはない。
この剣を奪われたら、どうしようも出来ない。
この祈りの剣が強いだけで、私は強くない。
「ねぇ君達、聞きたいことがあるんだが」
「……」
「君達、着替えは他にあるかい?」
「無い、前の人はこの布切れしかくれなかった」
「うん……ずっとこの服だけで」
「そうか、なら都市に着いたら服を買ってあげよう」
「……」
「ほ、本当?」
「あぁ、そんな服だと可哀想だしね。
ん? その服、よく見たら血が付いてるようだが
何処かで怪我でも?」
「こ、この血はリンちゃんの血が掛かって…」
「え? 君、怪我をしたのかい?」
「……お腹を刺されたし、何度も斬られた。
背中も骨に斬られたし、お腹を何度も蹴られた。
怪我は何度もしてる」
「な! だが、傷口は何処にも!」
「お祈りしたら治った」
「……」
私の言葉を聞いた傭兵が動揺する。
実際、自分でも良く分かって無い力だ。
祈りの剣の効果なのかも知れないけど
この力がないと、私は絶対に死んでた。
「君、親が魔法を使えたり」
「親なんて知らない」
「そうか、ごめんね、馬鹿な事を聞いた」
「……私達は気付いたら奴隷だった。
昔の事なんて覚えてない、薄らとしか」
「そうか、でも名前は覚えてたんだね」
「私は……ナナちゃんは名前も覚えてない」
「うん、7番としか言われた記憶がないの。
だから、私はナナなの」
「そうか……ごめんね、辛い思いをさせて」
「だから、私は大人が嫌いだ」
「……」
「特にお前達みたいな鎧を着た大人は嫌いだ」
「そ、そうか」
戦う事を止めたとしても、憎悪はそのままだった。
この大人達と一緒に居るのは嫌だ。
あの時の記憶が出て来て、どうしても嫌だ。
何度も痛めつけられたりしてきたんだ。
メイドみたいな人にゴミを食べさせられたり
鎧を着た奴らにボコボコに殴られたり
偉そうな格好をしてる奴に何度も何度も……
自分の言うとおりにしろって、動けと
死ぬほど働けと、蹴られて殴られて叩かれて
ネズミの死体を食えと言われた事もあるし
ミミズを口の中に押し込まれたことだってある。
だから、大人は嫌いだ、大人は大っ嫌いだ。
でも、私よりもナナちゃんの方が
そう言う目に多くあってた。
虐められてる他の子を庇って代わりに虐められてた。
私が心が折れそうになってもナナちゃんだけは
ずっと反発して、その度に殴られてた。
けど、絶対に折れなかったナナちゃんを見て
私も折れずにここまで……
「何度も酷い目に遭わされたんだ、怪我もさせられた。
殴られた、特に奴隷の中で怪我の治りが早かった
私とナナちゃんは徹底的に痛めつけられてきたんだ。
お腹を殴られて吐いたこともあるし
血を吐いたことだってあるんだ。
針で腕を刺されて笑われたこともあるんだ。
顔だけはなにもなかったけど」
顔だけは可愛らしいと言われてた。
18が楽しみだとも言われてた。
嫌な思い出しかない……
「特にお前達みたいな鎧の連中に
私達は何度も何度も!」
「済まない、代わりに謝罪する」
「リンちゃん、この人達に怒っても…意味ないよ」
「……分かってる、でも、大人は嫌いだ」
自由になったからなのか、憎悪が溢れてくる。
憎いって、大人が憎いって、嫌だって、嫌いだって。
でも……やっぱり私がその怒りに支配されないのは。
「信じようよ、この人達はなにもしてこないもん。
だから、きっと大丈夫。だから、恐い顔しないで?」
「……」
「折角自由になれたんだから……一緒に笑いたい。
今まで笑えなかった分、一緒に笑いたいの。
殺されちゃった他の子達の分まで、笑顔で居たい」
「仇を取りたい、私は皆の仇を」
「私も、でも、この人達は仇なんかじゃ無いもん。
だって、私達になにもしてないんだよ?」
「……そうだね」
ナナちゃんが側に居てくれるからだ。
心が怒りに支配されそうになっても
ナナちゃんは私に寄り添ってくれる。
とても優しい心、温かい心。
私よりも酷い目にあっても決して光りを失わない。
そんなナナちゃんの目を見てると……救われる。
「仲が良いね、君達」
「うん、だって……もう、唯一の友達だもん」
「……うん」
「もう、と言う事は……君達の他の友達は」
「死んだ、あいつの命令で洞窟に探索して
その時に死んだ、生贄に……されて」
「……黒夢の洞窟か」
「願いを叶える宝石が眠るとされる
あのおぞましい洞窟。
奥地まで辿り着いた者は居ないらしいが」
「そこがどうなってるかは」
「思い出したくない」
「そうだよね、うん、悪い事を聞いた」
あの場所で起こったことを、私は思い出したくない。
ナナちゃんだってそうに決ってる。
「じゃあ、バナージへ向おうか。
そこなら、君達もきっと幸せになれる筈」
「お金無い」
「そこは俺達が面倒を見てあげるさ。
そう言えば、リンちゃん、その立派な剣は?」
「洞窟で拾った剣、祈りの剣って書いてた」
「洞窟、黒夢の洞窟か……その剣」
「渡さない」
「うん、そうだよね」
剣を奪われたら戦う手段がなくなる。
それだけは絶対に嫌だ。
「まぁ良いか、重要な事じゃないしね」
「重要だと思うが……無理強いは駄目だよな」
「あぁ、大人に嫌悪感があるんだからな。
戦う武器を奪われるのは当然嫌がるさ」
「それに、俺達に取って重要なのは彼女達だ。
この子達の幸せのため、尽力しよう。
俺達は弱者を守る盾であり剣だからな」
「あぁ、ソールティアス様に誓った心得だ」
ソールティアス……冷静に思い返すと
あの傭兵も言ってた名前だった気がする。
追い出されたとか言ってた……けど。
「さ、案内するか」
「あぁ、ここは危ないしな、移動しよう」
「周辺警戒は任せてくれ」
「頼んだぞ、ギル」
不安は拭えないけど、付いていくしか無い。
きっと逃げる事も出来ないだろうから。