止まらない怒り
いつもそうだ、私はいつも惨めだ。
どんな時も、私は誰かに救われてきた。
誰かを救おうと努力をしたところで
私はいつも、何も救えない。
「クソ、あの小娘……まさか身を投げるとは!」
目の前で再び、私は大事な誰かを失った。
私の不甲斐なさで、私は再び……妹を失った。
「……」
2回だ、私は2回も大事な妹を殺してしまった。
自らの愚かさにより、私は2度も妹を……失った。
何度も何度も、避けられたはずなのに……
私は、その愚かさ故に2度も妹を……
「私は……何故、こんなにも……」
自分自身への怒りで、自らを殺したくなった。
リンフィアと同じ様に、この崖から飛び降りたい。
そして、自らの生を捨てて、死にたいと感じた。
不甲斐ない、不甲斐ない……情け無い、情け無い!
憎い、憎い! 私は私が憎い! 何度も何度も
私は私を呪う、過去の私を何度も何度も何度も!
自らへの怒りで胸が張り裂けそうだ。
吐き気すら感じて、生きる事を放棄したくなる!
だが……だが、それは、出来ない!
「……」
自らへの怒りで歯を食いしばり続けた。
一瞬でも死を選ぼうとした自分自身に対し
更に怒りを感じながら、歯を食いしばる。
口から血が滴り落ちてるのが分かる。
怒りで叫びだしそうな感情を抑えながら
私は自らの腰に刺している剣を強く握った。
「……殺す」
「む?」
「ここで……今度こそ、殺す!」
剣を引き抜き、斬りかかってきた
ビクトールを斬り裂いた。
刃は一瞬でビクトールを両断する。
血飛沫が壁を汚し、私の剣を血で穢す。
「ぐ、ぁ……」
「愚かな奴だ、不意を突けると思ったのか?
ふん、所詮は下銭な男だな。
今の奴は貴様程度では不意を突けぬよ」
「今度は貴様だ、獣!」
「くく、貴様も身の程を知らぬな、小娘」
何を言おうと、私の怒りが止まることは無かった。
私は全力を持って、奴の元へ駆ける。
自分でも異常と感じる程の速度で私は接近できた。
炎を纏わせ、その毛皮ごと焼き殺してやる!
「くく、無駄だ」
「ぐ!」
私の剣が何も無い空間に阻まれる!
防御魔法だと!? 魔物の分際で!
「魔物の分際で魔法だと!? 舐めやがって!」
「くはは! 冷静さを欠くな、小娘。
貴様程度の技量で、この俺に勝てると思うのか?」
「当然だ! ズタズタに引き裂いて殺してやる!」
「はは! 愚か!」
「く!」
今まで遭遇したことの無い速度!
母の斬撃でも、ここまでは速くなかった!
だが、今の私であれば対処は可能だ!
「この程度!」
「ほぅ、直撃は避けたか、だが」
「な、うぐ!」
攻撃を避けたはずが、不意に大きな衝撃波が放たれる。
この感覚は何だ!? 魔法か!? 風属性の魔法!?
こんな滅茶苦茶な使い方には初めて遭遇した!
「怒りに身を任せ、妹の犠牲を無駄にするつもりか?
所詮はまだ幼き子供だ。
その齢で、中々の実力であることは認めよう。
だが、まだまだ未熟、貴様程度では私は倒せない」
「舐めるな!」
「ソールティアス様! ここは一時撤退をした方が!」
「黙れ!」
「あの子の意思を無駄にしないでください!」
「黙れぇ!」
殺してやる! あの獣を殺してやる!
リンフィアの仇を、必ず討ってやる! 必ず!
「くく! 貴様は愚かだな! 部下の方が聡明か。
まぁ貴様は若い、本来は当主の器では無いだろうなぁ?
感情に支配され、部下の言葉に耳を貸さず
自らが取るべき行動すら忘れて行動するとはな。
貴様のために死んだ貴様の妹も悲しんでるだろう」
「貴様を討てば! リンフィアも報われる!」
「そう思うか? 貴様の妹が
この私を貴様が討つことを望んでいると?
そんなはずも無かろう、
貴様の妹は貴様程に野蛮でもあるまい」
「リンフィアを貴様が語るな!」
必ずここで倒してやる! ここで殺してやる!
ここで、こいつを! そして、リンフィアに誇れる姉になる!
「ふん」
「ッ!?」
獣が不意に指を鳴らし、同時に背後から大きな音が響く。
咄嗟に背後を見て気付いた、逃げ道を塞いだのか!?
「ソールティアス様!」
「何だと!?」
「これで完全に逃げ道は消えた、オルフィアだったか。
これで、確実に貴様の心臓を奪える。
同時に貴様の妹の死が無駄死にだったと確定した」
「貴様! リンフィアが無駄死にだと!? ふざけるな!」
「忘れるな、あの小娘の死を無駄にしたのは他でもない
貴様自身だ、逃げ切れるチャンスを貴様は無下にした。
貴様の妹が自らの命を投げ捨ててでも
貴様に逃げて欲しいと願って死を選んだというのに
愚かな行動により、その死は無駄となったのだ。
人間は愚かだな、感情に振り回され
身の程も知れない愚行を取るなどと」
「貴様を殺した後に瓦礫を破壊すれば良いだけの話だ!」
「貴様だけではどう足掻いても俺は殺せない」
その言葉の直後、一瞬で接近してくる獣!
やはり速い! カイザーオーガの比では無い!
今まで遭遇してきたどの魔物よりも速い!
だが、この程度ならまだ対処が出来る!
「ふん!」
「ほぅ」
攻撃を避け、奴の胴を裂いた……だが
「良い攻撃だが、無駄な事よ」
「傷が瞬時に……」
「私にどれ程攻撃を当てた所で
大したダメージにならない。
瞬時に癒えるからな、無駄な足掻きだ」
「ふん! 血が出るなら回復出来なくなるまでに
貴様を斬り裂き続ければ良いだけの話だ!」
「やってみろよ、小娘」
あまりに愚直な攻撃、何度も何度も攻撃した。
だが、何度斬り裂いても傷が癒えていく!
炎の魔法を使い燃やしたところで意味すら無い!
「クソ、これだけ攻撃してるのに!」
「言っただろう? 無駄だと。
さて、貴様の攻撃をわざと受けてやるのも飽きた。
そろそろ攻撃してやろう」
「負け惜しみだ!」
「それはどうかな?」
再び攻撃しようと接近した瞬間に感じた気配。
死を意識するような異様な違和感を感じた。
攻撃を踏みとどまり、後方に下がると同時に放たれた
強力な拳による一撃で大地が砕かれる。
見えなかった、あまりにも一瞬過ぎる攻撃!
「やはり勘が鋭いが」
「な!」
攻撃の直後に近付いてきた獣!
あの大規模な攻撃の直後にここまで動けるのか!?
だが、まだ対処は出来る!
「うぐ!」
「ほぅ!」
ギリギリその攻撃に反応し、上に流した。
獣の攻撃は壁に当り、壁を一瞬で崩落させた。
あの攻撃を直接防いでいれば確実に死んでいた!
「この!」
上に流し、勢いに押されながらも体勢を低くして
あの獣の足を攻撃したが、刃が通らない!
「なん!」
「今まで通ってたのに、何故今通らないか」
「くは!」
攻撃を受け止められてる隙に放たれた蹴り。
その攻撃を何とかギリギリで避けるが、風圧で吹き飛ばされた。
何度も大地を転がりながらも、勢いを消していき
崖ギリギリで何とか体勢を立て直したが
その時、既にあの獣は私の眼前に立っていた!
「理由は簡単だ、今まで、手加減をしてたからだ」
「ッ!?」
私に出来ることは、もはや防ぐ事だった。
剣を構え、あの獣の攻撃を受け止める。
だが、こ、この攻撃力!
か、片手なのに、私が両手で剣を支えて
辛うじて防げる程度の攻撃力だと!
「くはは! 誇れ小娘!
この俺の拳を受けて一瞬でも耐えられた。
それは誇らしいことだぞ! まさに英雄!」
「う、ぐぅう!」
「だが、貴様は死ぬ!」
「ぐふぁ!」
強力な蹴りを受け、私は門の方へ吹き飛ばされた。
まるで誰が過ごしていた場所……
そこには多数の骸が転がっていた。
「ケホ! ケホ!」
直撃を受けたことで、私は吐血して自らの危機を悟る。
意識が朦朧としてきている、い、一撃だけで……
この攻撃力、い、今まで受けてきたあらゆる攻撃の中で
最も強力な攻撃だったのは間違いない。
「ほぅ、まだ立ち上がるのか、流石だな」
このままだとやられる……だが、逃げない。
自らの剣をもう1本引き抜き
炎と氷を纏わせる。
「これで……どうだぁ!」
自分の身体能力を強化して放った攻撃。
炎と氷を纏わせ、強く剣を振り抜く事で
纏わせた炎と氷の破壊力を増加させて放つ合わせ技。
「魔法を3つも複合させて放つ大技か。
くく、普通は1つが精々なのに見事だな。
だが、力の差が違いすぎる」
私が扱う複合攻撃は本来、何度が高い技だ。
魔力を3つ別けて変質させる技術。
魔法は本来、1つの魔法を集中して扱うが
長い鍛錬の末にこうやって、
複合して扱う事が出来るようになった。
私の努力の粋、その全力と言える攻撃だが
私の攻撃は、あの獣が掌を掲げるだけで一瞬で防がれた。
私の魔法では火力が足りない、それは分かってた事!
「ふん、所詮は無駄な攻撃、む!?」
「死ね! 獣!」
魔法と同時に一気に接近しての攻撃。
魔法で視界を塞がれた所を狙った一撃。
私の剣は確実に奴の首を捉えていた。
「な……」
だが、私の攻撃は奴の首を斬り裂くどころか
きづを付けることすら出来ずに両方とも破壊された。
「無駄だ」
「あぐ!」
驚く余裕も無く、私は奴に首を掴まれる。
く、クソ……こんな程度、て、抵抗して……
「う、うぐぅう!」
「抵抗は無駄だ、さぁいただこうか貴様の心臓を」
逃げ出せない……私はここで死ぬのか……?
く、そ、自分の愚かさを唐突に思い出し涙が溢れ出す。
逃げていれば……リンフィアが自らの命を捨ててまで
私を救ってくれようとしたのに……私は……
「死ね、オルフィア・ソールティアス!
自らの愚かさを悔いながら!」
「す、まない……リンフィア……」
死を覚悟した、もはや手の打ちようも無い。
私は……このまま死ぬ。
「私のお姉ちゃんから手を離せ! 偽物!」
「な!?」
不意に聞えた声と同時に私の視界を横切る
真っ赤な炎により、あの獣の腕が両断された。
そして、私の前に立つ小さな影が暗い洞窟の中で見えた。
緑色の獣の耳と緑色の獣の尻尾。
私と全く同じその容姿を見て、
涙を堪えることが出来なかった。
「久し振りだね、お姉ちゃん」
「り、リンフィア……」
一瞬で私の視界は霞み、
私は不甲斐なく涙を流すことしか出来なくなった。
あぁ、なんて……なんて、情け無い……




