奇跡の出会い
温かい誰かに包まれて意識を失う。
その間に、私は色々な記憶を見た。
走馬燈……私が生きてきた一生。
なんて惨めな一生だっただろう。
誰かを殺し、奴隷として生きて
奴隷の友達を見殺しにして
そして、幸せを掴んでも僅か1年で
その全てを失った。
私は惨めだ、でも、だから諦めたく無い。
私はもっと沢山幸せで生きていきたい。
幸せに笑いたい、堂々と生き続けたい。
お姉ちゃんのように、後悔を背負いながらも
大事な人達の為に、必死に戦う。
そんな格好いい背中を追いかけ続けたい。
そしていつか……一緒に……
「……目を覚ましましたね」
「え?」
ゆっくりとまぶたを開け、目の前を見た。
そこには白い毛が沢山生えてる獣が居る。
触ってみたいと思って手を伸ばして
即座に自分の手枷が無くなってることにも気付く。
「白い……」
少し動揺しながらも、
改めてその姿を最初に見た。
最初に思い出したのはバラドーザ。
だけど、バラドーザは黒かった。
でも、目の前の毛むくじゃらは白い。
「えぇ、白いからね、私は」
「バラドーザみたい……でも、違う」
バラドーザと違って、嫌な感じは全くない。
むしろ、優しい感覚を感じる。
包み込まれるような、優しい匂い。
懐かしいような、そんな匂い。
「優しい匂い……あ、あなたは」
「私はバラドーザ、君の先祖だ」
「バラドーザ!? で、でも、上に!
上に黒い奴が、黒い奴がバラドーザって!」
「いや、奴は違う。奴は魔王の僕である
サイラーズという魔物だ」
「サイラーズ?」
そんな奴を私は全く知らない。
「奴は魔王の僕、三帝の中で最も狡猾な魔物。
封印していたはずなのに、逆に私が封じられてしまった」
「何で?」
「奴が自力で封印を抜け出し、歴史を捏造した。
あそこまで狡猾とは、私も思わなかった。
結果、子孫達はその偽りの歴史を信じてしまい
私の指示を忘れ、奴を崇めるようになったんだ」
子孫って言うのは、一体何の事だろう。
この人は私の事を子孫とか言ってたけど
「わ、分からない事が多いんだけど……
その、黒いのが悪い奴で
本物のバラドーザじゃないのは分かった。
じゃあ、その……子孫って言うのは?」
「あぁ、私は全てのヒューマンビーストの始祖なんだ。
私は昔、デミ・ビーストとして生を受け、
生まれてすぐに人に育てられた。
大きな愛を人間の母から学び、私は人々を
必ず守り抜きたいと、そう誓った。
結果、私は仲間達と出会い、魔王を封じた。
その後、人間との間に3人の子供を残した。
その3人の子供達がヒューマンビーストの始まり」
でも、歴史ではヒューマンビーストって話だった。
だけど、実際はデミ・ビースト……どうして?
「でも、英雄はヒューマンビーストって……」
「ユーランス王国の初代国王は
私を人間として扱ってくれたんだ。
だが、獣の姿では人とは言えないだろう?
だから、初代国王リックは
私もヒューマンビーストとして扱ってくれたんだ。
子供達と同じ種族として受入れてくれたことを
私は今でも感謝している」
ヒューマンビーストの先祖……でも、待って。
「で、でも、私はヒューマンビーストじゃ」
「いや、君はヒューマンビーストだ、間違いない」
「でも、耳と尻尾も生えてない」
「あぁ、君は特別な個体だからね
才能があっても、中々開花しないんだろう」
そう言って、バラドーザは私の頭を撫でてくれた。
「特別な個体?」
「あぁ、始祖返りという特性が
ヒューマンビーストにはあるんだ。
非常に高い才能を持ち、私に近い
あるいは、私以上の才能を持つ個体が生まれる。
祈りの剣を使えば分かるんだけどね」
「祈りの剣って……」
「あぁ、私が昔、子孫達を守る為に作った剣だ」
祈りの剣が、バラドーザが作ってくれた剣……
私は、その剣を手にしたことで力を手にした。
「ヒューマンビーストは感情で大きく成長する。
祈りの剣は、その感情の力をより多く引き出す為に
遙か昔、仲間である錬金術師が、
私の素材を用いて作ってくれたんだ」
「錬金術師って、一体……」
「純人間の中でたまに生まれる
与特殊属性魔法に高い適性を持つ魔法使いが
その技術を用いて生み出した技術だ。
しかし、私は教わっても出来なくてね。
恐らく純人間の種族特性なのだろう。
魔法を用いて強力な道具を生み出せるのは」
そんな話を、確か言ってた。
人間はたまに与特殊属性魔法に
高い適性が発生する事があるって。
そう言う人が錬金術って言うのを生み出したんだ。
無機物に魔力を宿らせる魔法。
もしかして、それを使って生み出したのが祈りの剣。
「祈りの剣は、その仲間の最高傑作。
その剣を作って、少しして彼は死んでしまった」
「……」
「純粋な人間と元魔物である私では寿命が違う。
別れは何度も経験したよ」
「そうなんだ……」
デミ・ビーストと人間は寿命が違うんだ。
それは分かる、確かエルフも長寿だと言ってた。
種族によって、寿命は全く違うんだ。
「話を戻そう。祈りの剣はその仲間が作ってくれた
ヒューマンビーストの才能を引き出す剣。
宝石が4つ付いていて、その宝石は
持ち主の才能に反応して光り輝くんだ」
「才能?」
「あぁ、宝石が全て光れば始祖返りの個体。
つまり、私の力に近い才能を持つ人物。
宝石が2つの場合は高い才能の持ち主。
1つであればヒューマンビーストではあるが
そこまで高い才能を持たない個体と言える。
勿論、重要なのは努力だけどね」
お姉ちゃんは1つしか光らなかった。
でも、あんなにも強い……
きっと努力を怠らなかったんだ。
だって、お姉ちゃんは
最強のヒューマンビーストって聞いたんだ。
才能が無かったはずなのにその領域に至った。
それは間違いなく、努力の賜だ。
「宝石が点滅すれば才能を
引き出す準備が出来たと言うサインとなり
その時に持ち主が願った力を引き出す事が出来る。
魔法を欲すれば魔法を。
力が欲しければ身体能力を。
料理とかにも効果があるらしくてね。
勿論、才能を引き出すだけであり
その人物が出来ない事までは不可能だ」
だから、祈りの剣は色々な事が出来たんだ。
そして、ヒューマンビーストにしか反応しない。
だから、ナナちゃんが握っても反応しなくて
エディー達が握っても反応しなかった。
同じヒューマンビーストであるお姉ちゃんと私は
祈りの剣を握って光ったんだ。
「祈りの剣は門の外にある祭壇に刺している。
ヒューマンビーストでしか抜く事が出来ない様に
私の友人が細工をしてくれたらしい」
「壊れてた、祭壇」
「そ、そうなのか!?」
ずっとここに居たからか、気付かなかったみたいだ。
バラドーザは祭壇を見て、驚いてる。
「あぁ、流石に300年以上も放置すれば壊れるか……」
「300年以上って……そ、そんなに生きてるの?」
「あぁ、私は長寿だからね」
こ、これがデミ・ビースト……何か、凄い。
いや、バラドーザさんはヒューマンビーストだ。
初代の国王はそう考えた。
なら、私もそう思わないと。私のご先祖様らしいし。
「だが、正確な月日はもう覚えてないけどね。
少なくとも300年は生きた」
「……そうなんだ」
昔を懐かしむような表情をバラドーザさんは見せた。
そして、少しして私の方を向いた。
「リンフィア、君はこれからどうする?」
「え? 名前を……」
「あぁ、君の心は読めるからね」
「そ、そんな事が出来るの!?」
「長い時を生きていれば、自然と身につく。
君の心は綺麗だ、自分を卑下して暗い部分はある。
だが、その根本は美しく、
君は間違いなく素晴らしい子になるだろう」
「……」
そんな事を言われても、あまり実感が湧かない。
私は素晴らしい子なんかじゃない。
「そして、君が姉を救いたいと思ってるのも分かる」
「お姉ちゃんは逃げたはずだ」
「君も理解してるはずだ……君の姉が
逃げるはずが無いと言うことくらいは」
……そう、私は分かってた。
私が自らの命を投げ捨てたとしても
お姉ちゃんは戦うだろうって……でも、私は身を投げた。
足を引っ張りたくなかったから、私は死ぬつもりだった。
誰の救いにもなれない自分を怨みながら。
「……君のお姉さんはきっと負けるだろう。
オルフィアが強くてもサイラーズには敵わない。
腐っても奴は三帝の1人。
まだ強くなりきれてない君のお姉さんでは勝てない
君達を助けてあげたい気持ちは勿論あるが
今の衰えてる私では、とても無理だ」
「じゃ、じゃあ! どうすれば良いの!?」
「……君が力を覚醒させるしか無い」
「ど、どうすれば」
「とても辛いし、危険な事だ。
リスクが多くて、非常に危ない賭けになる。
だが、短期間で覚醒するにはこれしか無い」
「それは、一体……」
「君のトラウマを呼び起こす。
そして、そのトラウマを乗り越えるんだ」
「トラウマ……」
「あぁ、君が体験してきた辛い思いと
君のお姉さんが体験した辛い思いを
私の力で一気に引き出すんだ」
「……」
私には沢山のトラウマがある。
奴隷だった日々とあの襲撃の悲劇。
思い出したくないけど、思い出して乗り越える。
でも、不思議なのはお姉ちゃんの記憶だ。
何故か、お姉ちゃんの記憶も体験させるという。
それは何故か、理由が分からなかった。
「乗り越える事が出来れば、
ヒューマンビーストの力を解放出来る筈だ。
そうすれば、サイラーズとも戦える筈だ」
「ねぇ、お姉ちゃんの辛い思いを
私に体験させるのはどうして?」
「君により大きな覚悟をさせるためだ」
「……分かった、お願いします」
「良いかい? これから君には一瞬の間に
色々な思い出や過去を呼び起こさせる。
当然、地獄の様な体験になるだろう。
痛みも引き出すんだ、とても辛い。
それでも……やるかい?」
「やる、それでお姉ちゃんを救えるなら!」
「最悪、廃人のようになってしまうかも知れない。
心が壊れてしまうかも知れない。
本来、ヒューマンビーストの覚醒には
長い鍛錬と大きな怒りと悲しみも必要なんだ。
だが、今回は無理矢理覚醒させる形だ。
リスクは本当に高い、それでもやるかい?」
「うん! 今更恐れない!
このまま何もしない方が嫌だ!」
「……分かった、本気のようだね」
「うん!」
このまま何もしないで指を咥えて待つのはごめんだ。
折角、私とお姉ちゃんが家族だって分かったのに
幸せを掴み取る前に、奪われてたまるか!
例え辛くても、私は前に進む、進んでみせる!
「よし、ではこっちに」
バラドーザさんに歩み寄った。
バラドーザさんは私の頭に手を乗せる。
一瞬で、私の意識が宙に浮いたような気がした。
……私の、私達のトラウマ……乗り越えてみせる、必ず!




