強敵
「はぁ、はぁ、はぁ」
「リンちゃん、大丈夫?」
「う、うん」
移動の道中も魔物が襲ってくる。
その度に返り討ちにした。
男の人達と戦ってから私は妙に強くなった。
戦う度に不意に点滅する宝石だけど
今は、全ての宝石に白い色が増えていた。
「……ごめんね」
「え?」
「私、何も出来なくて……」
ナナちゃんが辛そうな表情を見せる。
「そんな気にしないで」
「私、ずっとリンちゃんに助けられてばかりで…
夜も私は寝てるのに、リンちゃんは寝てないし…」
「私は今、暗くてもよく見えるから」
あの洞窟以外でも、私は暗闇がよく見えた。
暗くなったときに、意識すれば明るくなる。
意識しなければ暗いままだけど
周りを見るために集中すると明るく見えるんだ。
理由は分からないけど、お陰で夜もよく見える。
それに、夜も私は寝なくても動けるんだ。
これも理由は分からなかった。
剣の宝石が光ったとき、眠ったら駄目だって
必死に思ってたら、眠気が何処かに行った。
その時も、やっぱり剣が光った。
この剣の効果なんだろうね、凄い。
「……料理も出来ないし」
「大丈夫、きっとこの剣の力で」
「でも、私が持っても……意味なかったもん」
「……何でだろう」
ナナちゃんがこのままだと嫌だと感じて
私の剣を使わせて欲しいと言ってくれたとき。
私は剣をナナちゃんに渡したけど
剣をナナちゃんに渡すと同時に宝石から光りが消えた。
何をしても光りが再び灯ることはなく
私が持ったら、宝石が光った。
「その剣はリンちゃんしか使えないんだ」
「そんなはずは……」
でも、そうとしか考えられないのは間違いない。
だって、私が持ったら宝石が光るのに
ナナちゃんが持っても宝石は光らない。
もしかしたら、あの台座にあった言葉に
理由とかが書いてあったのかも知れないけど
私には殆ど読めなかったし、
もう、あの場所に戻りたくない。
「私が……もっと色々出来たら……」
「大丈夫、私が沢山の事をする。
この剣の力があるんだ、絶対に支えるから。
だから、一緒に居てくれるだけで良いの。
私、1人だったら絶対に頑張れないから」
「ごめんね……リンちゃん」
励まそうとしても、ナナちゃんは落ち込んだままだ。
でも、私だってナナちゃんが居なかったら
絶対にこんなに頑張れてない……
ナナちゃんが一緒に居てくれるから頑張れるんだ。
「だから、ね? 一緒に行こう」
「……うん、ごめんね」
「謝らないで、一緒に居てくれて私は嬉しい」
「……私もきっと強く、何でも出来るようになりたい」
「うん、一緒に強くなろう」
「うん」
あまり嬉しそうな返事じゃなかった。
何かを言ったわけではないけど
何を言いたいかは、何となくだけど分かった。
いや、正確には分かってない。
私がナナちゃんの立場だったらそう思うってだけ。
そう、あなたは十分強いのに
一緒なんて言って欲しくない。
弱い自分の気持ちなんて分からないくせに
分かった風に口にしないで欲しい。
きっと私なら、そう思うんだ。
……いや、うん、そんな訳無い。
ナナちゃんは私じゃないんだ、私なんかじゃない。
ナナちゃんはそんな風に思わない。
きっと……私の足を引っ張りたくない。
すぐにでも強くなりたいって、思うはずだ。
私なんかと違ってナナちゃんは心が強い。
心が弱い私は相手に嫉妬するかも知れないけど
ナナちゃんはきっと、嫉妬なんてしないと思う。
頑張りたい、支えたいって思うはずだ。
「リンちゃん! 後ろ!」
「え!? うわ!」
不安な事を考えていると不意に背後から
首のない騎士みたいな魔物が出て来た!
「何!?」
「く、首がないよ! 魔物!? 人!?」
「魔物だよ! 人は首がないと動けない!」
「……」
「うぅ!」
い、一撃が重い! 今までの中で1番強い魔物!
動きが速いし一撃が重たいし攻撃が速い!
ナナちゃんを守りながら戦える自信が無い!
「なら!」
守る自信がないなら攻めるしか無い!
攻めて攻めて! 攻撃の隙を与えない!
攻撃が重いなら攻撃をさせないように攻撃する!
「はぁ!」
最初と比べて軽く感じる様になった剣を
大きく振り回しながらその首無しに攻撃する。
魔物は私の攻撃に反応し、防いでくるし
即座に反撃も狙ってきてる!
「でも! 剣はお互い1本だけ!」
魔物の剣は私の攻撃を防いで動かせない!
だから、反撃もどうせ拳しかあり得ない!
拳に対する防御、そう、グーに対してはパー!
「でりゃぁ!」
魔物の攻撃を掌で受け止めて、そのまま体勢を変え
魔物のお腹に全力の蹴りを叩き込んだ。
大きく怯んだ魔物! このまま押し切りたいけど
この状態で剣で攻撃を受けたら不味い!
そのままお腹を蹴り飛ばしながら
バク転して距離を取ることを選んだ。
「っと!」
私の判断はきっと正しかった。
あの魔物はすぐにバランスを立て直して剣を構えたから。
あのまま攻めてたら反撃を食らってたかもしれない!
でも、お互いに体勢を立て直してる今なら!
移動速度なら、私の方が速いはず!
「はぁ!」
攻撃をさせないように近付いて魔物を攻撃。
魔物は私の攻撃を避けた!
こ、このままだと反撃を食らう!
全体重を掛けてる攻撃だから避けられたら
体勢を立て直すのが難しい! でも!
このまま剣を地面に突き刺して
体重を上手く動かして前に体を動かせば!
「出来た!」
そのまま剣を軸に縦に1回転できた。
魔物は私に攻撃をしようとしてたみたいで
あのままだったら私が居たであろう場所に
素早く剣を振ってるのが上下逆さまで見えた。
「っしょ、はぁ!」
剣を離して少し飛んで着地した後に
すぐに魔物に近付いて蹴り飛ばした。
魔物は今度は結構な勢いで吹き飛んで
近場の木に全力で叩き付けられた。
その間に急いで剣を引き抜き、構える。
「間髪入れず!」
すぐに体勢を立て直す前の魔物に近付いた。
動けないんだと、そう考えて一気に仕掛ける為に。
「な!」
でも、やっぱり私はまだ戦いなれてないんだ。
見誤った、まだ、あの魔物は動ける!
このままだと当る! 魔物の剣が当る!
お腹を引き裂かれて、し、死ぬ!
「ッ!」
反射だった、恐怖を感じて考えて動く前に
私はその魔物の剣に向って
全力で剣を振り下ろし、魔物の剣を破壊した。
だけど、動揺してる私に対して魔物は冷静だ。
そのまま近付いてきて、私を殴り飛ばした。
「きゃぅ!」
い、痛いけど、体勢は立て直せる!
吹き飛ばされる力に対抗して勝ち
そのまま一気に近付いて今度こそ!
「これで終り!」
私は魔物を斜めに両断した。
魔物が背にしてた木も一緒に斜めに両断され
魔物と同じ様にずり落ち、大きな音と一緒に倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……い、いてて」
お腹の痛みを感じながらも、なんとか勝てた。
「リンちゃん! 大丈夫!?」
「うん、大した事無いから」
「ふむ……大きな音が聞えたが」
「誰!?」
男の人の声が聞えて、私はナナちゃんを抱き寄せ
その声の方に剣先を向けた。
「ま、待ってくれ! 敵意は無いんだ!」
「よ、鎧……傭兵! こ、殺す!」
「待て! 落ち着いてくれ!」
連れ戻しに来たんだ! こ、殺してでも!
絶対に帰るもんか! 絶対に逃げ切るんだ!
「く! お、落ち着くんだ! 敵意は無い!」
「うあぁあああ!」
「待て! 待て待て! 落ち着け!」
「どうした!」
「仲間! すぐ殺して次も殺す!」
「おいよせ! 止めろ!」
つ、強い! この人強い! あの男の人達よりも
全然強い! 防がれる! 全力で攻撃してるのに!
さっきの魔物よりも強い! なんでこんなに!
「う、うぅ! ま、負けるもんか! 負けるもんか!
ナナちゃんは私が守るんだ! 私が守るんだ!
あんな場所に連れ戻されたくない! 殺す!」
「落ち着け!」
「あ!」
け、剣が弾き飛ばされた! こんな事って!
「これで」
「うわぁああ!」
「ま、ぶふぁ!」
でも、剣が弾かれたって関係無い! 殴れば良い!
当った! 顔に当った! 急いで剣を拾って!
「落ち着け!」
「は、離して!」
別の傭兵に掴まった! いや、連れ戻される!
「やだ! 離して!」
「り、リンちゃんを返せぇ!」
ナナちゃんが飛ばされた剣を拾って助けようと!
「落ち着きなさい」
「あ!」
だけど、ナナちゃんはあっさりと制圧されて
剣を地面に落とした!
「あ、い、いやだ……帰りたくない……
折角自由になったのに、こ、こんなのやだ……」
「ナナちゃんを離せぇ!」
「こら! あばれ、ぐふぁ!」
「ナナちゃん!」
すぐに剣を拾ってあの傭兵を殺さないと!
「待てって!」
「あ、は、離せぇ!」
「落ち着きなさい! 別に君達に害は加えない!」
「嘘だ! 傭兵なんて信じない! 私達を離せ!」
「ほら!」
あ、あれ? あっさり離された。
ナナちゃんもあっさり解放された。
でも! 剣は拾わないと!
「うぅ!」
「よせって、俺達はソールティアス家の騎士だ」
「知らない! どうせあなた達も
私達を奴隷にしようとしてるんでしょ!?」
「奴隷なんてとんでもない!
ソールティアス様に誓って
俺達はそんな非人道的なことはしない!」
「……」
「り、リンちゃん……」
「ほら、落ち着いて剣を仕舞ってくれ」
「剣を仕舞ったら襲ってくるに決ってる!」
「……なら、これでどうだ?」
そう言って、傭兵達は剣を全て捨てた。
……こ、攻撃すれば倒せる。
私が構えてるのに……
「俺達は君と戦うための武器を捨てた。
まだ信じられないなら、鎧も脱ぎ捨てる」
「……」
「な? だから信じてくれ」
「……わ、分かった」
冷静になって来たからなのか
この人達から敵意のような物が無いのが分かった。
不安だけど、私は剣を鞘に戻した。
「ありがとう、信じてくれて」
「……奴隷にしようとしたら殺す」
「大丈夫だ、そんな事はしないさ」
傭兵達が小さくため息をする。
そして、私達と視線を合わせるように屈んでくれた。
「君、名前は?」
「言う必要は無い」
「でも、教えて貰わないと
君をどう呼べば良いか分からない」
「……リンって呼んで」
「よし分かった、リンちゃんだね。
もう1人の君は?」
「な、名前は無くて……でも、ナナって呼ばれてる」
「ナナちゃんね、よろしく頼むよ
ナナちゃん、リンちゃん」
不安だけど……信じる事にしよう。
それしか無いから。