絶望の洞窟
「う、うぅ」
何処かに連れて行かれた後に私は目を覚ます。
暗い中だろうと、私は周囲がよく見えた。
祈りの剣が何処にも無いのに、不思議に感じた。
当然、自分の服も見える。鎧は脱がされてるし
両腕は枷で掴まってる。
でも、手枷から伸びてる鎖がある。
「うぅ! この、この!」
「無駄だ、鉄製だからな」
「きゃう!」
必死に壊そうとしたけど、強く鎖を引かれ
バランスを崩してバランスが崩れた。
それで冷静になったからなのか、周囲を見回すと
何人かの騎士とビレッジの領主。
名前は確かビクトール・バジルラード!
「何で私を!」
「貴様の姉の心臓を奪うためだ」
「心臓!?」
「あぁ、貴様の心臓でも良いがな」
ビクトールが刃物を私の胸に当てる。
少し力を入れて来て、私の皮膚が少し裂かれた。
「う、ぅ」
「だが、貴様は覚醒してないようだからなぁ。
バラドーザ様は覚醒したヒューマンビーストの
心臓を欲しているのだから」
その言葉の後、周囲の騎士達が私を連れて行く。
その間、騎士達は何か良く分からない呪文を唱える。
魔法を使うのに呪文は必要無いんだから
魔法と言う訳では無いのは明確だ。
そして、この場所。
私に取って、地獄の様なトラウマの場所。
金の盃、友達が殺され捧げられてたおぞましい盃。
その場所には既に生贄とされた子達は居ない。
「おい、開けろ」
「了解です、教祖様」
騎士は自分の手首を両断して盃に血を溜める。
少しして、扉が開きバラドーザが先に進んだ。
手首を切った騎士は、そのまま息絶える。
「こ、子供の血じゃ」
「あぁ、バラドーザ様は幼子の血肉を欲してる」
「ここの盃とかはもしかして」
「全て、私が配置したまでの事。
願いが叶う宝石も、私の狂言だ。
ふふ、あいつが欲望に忠実で助かったよ」
レングラースは全て騙されてたんだ。
願いが叶う宝石も出任せだったはず。
でも、私は確かに祈りの剣を手にした。
「い、祈りの剣は……あなたの」
「貴様の剣か、ほう、ここで手にしたのか」
「そうだ、ここで……」
「その剣の事を、私は知らない。
ただそれっぽい剣だっただけだろう」
あの剣は何の関係も無かったの?
願いが叶う宝石とは一切の関連性も無い。
ただ偶然、ここにあったと言うだけなの?
じゃ、じゃあ、あの剣は
「おい」
「はい」
バラドーザの一言で一切の躊躇いも無く
護衛の様な騎士は手首を両断していく。
こんなの異常だ、あ、あまりにも異常だ。
自分の命を、た、躊躇いなく捧げるなんて!
まだ、何かを守る為とかなら分かる。
きっとバナージの騎士達だって
民衆を救うためなら命だって投げ捨てるだろう。
でも、こいつらは違う、こいつらは全然!
ただの一言、何かの意思もなく奴隷の様に
ビクトールの一言で自らの命を捧げてる!
「ふふ、お前達。救いの時だ」
「あぁ、ついに……我々も」
最後の門、前に見たときは生贄を
3人捧げろと、そう書かれてた場所だ。
騎士達が一斉にその盃の前にまで歩み
天に手を合せた後に、お互い同時に
自らの首を刺して、盃を血で満たした。
あ、あぁ、こ、こんな馬鹿な事があっても良いの?
こ、こんなにも……
まるで人の命が虫の様に潰えていく。
エディーは言ってた、
せめて、人の命だけは平等であって欲しいと。
でも、あの人達は当たり前の様に命を捧げた。
あの時の私とは違う、辛い表情も無くて
むしろ、嬉しそうにあの人達は死んでいった。
死ぬ事で喜ぶなんて異常だ、異常すぎる!
「ッ!?」
そんな動揺が完全に収まるよりも前に
目の前の大きな門が開いた。
そして、巨大な体の黒い毛が生えてる
むくじゃらの狼が姿を見せる。
姿はデミ・ビーストに似ているけど
威圧感や大きさは全くの別物だった。
「おぉ、バラドーザ様!」
「ビクトールよ、今日の生贄は何だ?
そこのゴミとは言うまいな」
「いえ、その様なゴミを
あなた様の贄にする筈もありません。
今宵の贄は、ヒューマンビーストの心臓です」
「ほぅ!」
その言葉を聞いたバラドーザが嬉しそうに反応した。
そして、私の方を向く。
いや、それよりもバラドーザ……
バラドーザって、聞いたことがある。
ユーランス王国の英雄……だった筈だ!
「バラドーザ……そ、そんな訳無い!
ば、バラドーザはユーランス王国の英雄で!
お、お前みたいなクズな訳」
「ほぅ、随分と良い匂いがする娘だな」
「ひ!」
毛むくじゃらが私の方に近付いてきて
私の匂いを嗅いできた。
あまりにも異質で、あまりにも異様で
私はつい、恐怖の声が溢れてきた。
「この娘はオルフィアの妹だとか」
「オルフィアか、貴様が仕留め損ねた」
「申し訳ありません、しかし今回は必ずや。
必ずやこの場で、オルフィアの心臓を穿ち
あなた様にその心臓を捧げて見せましょう」
「今度こそ成功させるんだろうな?
貴様は今まで、2度も失敗している。
1度は奴の母であるギルティアを仕留め損ね
2度目はオルフィアの心臓を奪い損ねた」
「申し訳ありません、申し訳ありません」
ギルティア……そ、それは、私がたまに見る
あの悪夢で聞いた名前だった。
「今回こそは、この娘を人質にして
オルフィアの心臓を必ず」
「1度失敗した手をもう一度するのか?」
「す、すみません」
「まぁ良い、必ず成功させるのだ。
3度目は無いぞ、ビクトール」
「はい、必ず、必ずや!」
そんな会話を怯えてる私の横でしてる。
そして、バラドーザと呼ばれてた獣が
私の方に再び歩み寄ってきた。
「ひぅ!」
そして、私の胴体を片手で鷲掴みにして
簡単に私を持ち上げてしまう。
残った騎士達が持ってた鎖は邪魔だったのか
私を掴むと同時に破壊していた。
「くく、最悪はこの肉でも構わない」
「あ、いや!」
その巨体は私を下半身から飲み込もうとする。
このままだと食べられる! 食べられちゃう!
いやまって、この状態なら抵抗できる!
あいつは大口を開けてるんだ、今なら!
「うらぁああ!」
自分に出来る全力の魔法を放った。
鉄製の手枷は破壊できなかったけど
私の放った炎の魔法はバラドーザの口の中で
大きく爆発をした。
バラドーザは私を離し、
そのまま私は地面に落ちた。
「き、貴様! バラドーザ様に!」
「くく、くはは! 活きの良い小娘だ」
「う、嘘」
あいつの体内で私は全力の魔法を放ったはずだ。
なのに、バラドーザは口から煙を吐きながらも
余裕そうな態度のままだった。
効いてない、弱い所を攻撃したはずなのに
バラドーザには全く効果がなかったんだ!
「だが、一目で分かっただろう?
貴様程度の実力では何の意味もなさない。
この私には、一切傷を負わせることも叶わない。
抵抗は諦めろ」
涙が溢れ出してきた、本能的に理解できたからだ。
勝てない、私じゃこいつには勝てない。
きっとソールティアスさんでも勝てない。
今まで出会ってきた相手の中で確実に1番強い。
「リンフィア!」
そんな絶望の中、大きな声が聞えてくる。
だが、その声は同時に私に新しい絶望を運んだ。
私はまた……大事な人を私のせいで殺す事になる。
それを、理解してしまったような気がしたから。




