諦め
バナージに戻って、2日の時間が経つ。
あの時の事はまだ忘れられないけど
しばらく考えて決心も付いた。
「よし、今日、朝礼で皆に名前を教える」
「名前?」
「うん、私の本名、私の中にある
家族との唯一の思い出だから
親しく無い人には話してなかった」
「1年も居たのに、僕、親しいと思われてなかったの?
ちょっとショック……」
「勇気が無かっただけ、エディーの事は
親しいと思ってる。
でも、今更恥ずかしかったの」
私の悪い所だ、恥ずかしがり屋で
今更恥ずかしいとか思っちゃう。
「でも、2日で落ち着いてきたから
そろそろ、皆ともっと先に進むために
私の秘密を皆に打ち明けるの」
「そうか、それは楽しみだ」
「皆で頑張るには秘密は隠さない方が良いもんね!」
「うん、後ろめたい気持ちになるから」
これは奴隷時代の教訓だった。
皆と秘密を共有したら何だか凄く
特別な気持ちになれたから。
だから、特別な気持ちになって
騎士達皆と一緒に進むためにお話しよう。
そんか決意を抱いて今日の準備をして
私達はソールティアスさんの屋敷へ向かった。
「今日は朝礼無いのかな?」
朝礼の時にお話するつもりだったけど
中々ソールティアスさんが来ない。
皆の前でお話したいから、今は待とう。
何より、ソールティアスさんにも聞いて欲しいから。
大事なことは私の口から伝えたいしね。
「ソールティアス様が忙しいときは
朝礼が無い場合は多いからね」
そんな会話をしてると、副団長がやってくる。
「よく集まったな、だが、今日の朝礼は無し。
ソールティアス様は今多忙でな。
だが、ある指示が我々には降った」
「ある指示?」
「あぁ……もう、我々はソールティアス様の妹君を
探す必要は無い」
「え!?」
その言葉を聞いて、朝礼に出ていた騎士達が全員
動揺をして、大きな声を上げる。
副団長も非常に心苦しそうな表情を見せてる。
それは、エディーもそうだった。
「な、何故ですか!?」
「もう、諦めたそうだ……
妹の幸せを奪う事も出来ないと」
「……」
理由は分かる……うん、きっと心が折れたんだ。
私が……私がもしかしたら、失った妹かもと
そう思ったのに、私がその期待を裏切ったからだ。
殆ど諦めてたであろう、ソールティアスさんの心を
私はきっと、あの瞬間に完全にへし折ったんだ。
淡い希望を、淡い期待を、もう抱く必要も無いと
もう、抱く気力すら失ってしまったと。
……私、本当に無自覚に酷い事を。
「妹の事は忘れ、自分の役割に専念すると。
我々へ下された指示は、今までの指示を忘れ
自らに出来る事を全うせよという指示。
魔物が多く発生してる状況である以上
民衆を守る事を最優先にせよと」
「……了解です」
騎士達も本当は半ば諦めてたんだろう。
長い時間を掛けても見付からなかった
ソールティアスさんの妹さん。
その妹さんが見付かるとは、きっと思って無かったんだ。
見付けたいと、探したいと思ってたのはそうだろう。
でも、本心では無理だと、そう感じてたんだと思う。
この指示を聞いて、騎士達は辛そうな表情を見せながらも
その指示を受入れる事にしたようだった。
全員がそうだ、全員悲しそうな表情だ。
誰1人として、ようやく終わったと言う表情は見せてない。
きっと誰1人として、いやいや探しては無かったんだ。
ソールティアスさんの為に見付け出したいと
全員がそう思いながら行動してたんだ、きっと。
「僕の行動が……きっと、ソールティアス様の心を……」
「ごめんなさい、私が」
「いや、君は悪くない、悪いのは僕達だ。
早合点してしまった僕とジャッキーが悪いんだ」
「……私、説得してくる!」
「ナナちゃん!?」
「きっと妹さんは見付かるって! 諦めないでって!
私、ソールティアスさんを説得してくる!」
「駄目だ……これ以上、淡い希望を抱いて
辛い思いをして欲しくは無い」
「でも! 探せば見付かるかも知れない!
諦めたら見付からないけど、諦めなければ!
諦めなかったら、きっと見付かるって!」
「……」
エディーはナナちゃんの意見を強く否定しない。
いや、否定できなかったんだ。
ソールティアスさんに申し訳無い気持ちがある。
それなのに、まだ希望を抱いてるナナちゃんを
まだ、あるかも知れない可能性を完全に消す言葉を
ナナちゃんに呼びかけることが出来ないんだ。
「説得してくる!」
「ま、待った! そんな無茶苦茶な事を!」
「いや!」
「うわぁ!」
ナナちゃんを止めようとエディーが手を伸ばす。
でも、ナナちゃんはその場には居なかった。
あれはテレポートだったかな、特殊属性魔法だ。
空特殊属性魔法……だったと思う。
「待て、ナナ! ソールティアス様は今、忙しくて」
「諦めるなんて駄目だよ! 諦めなければきっと!
きっと妹さんも見付かるに違いないんだ!」
「勿論、私もソールティアス様に
妹君を見付ける事を、諦めて欲しくは無いと
そう思っては居る。だが、これはもうすでに
ソールティアス様が決めた事なんだ。
これ以上、辛い思いをしたくないから
自分の心に嘘をつき、我々にこんな命令をしたんだ。
それを理解しろ」
「自分の心に嘘をついても辛いのは変わらない!
きっと見付かる! 頑張れば見付かる筈なんだ!
諦めたら見付からない! 家族は一緒じゃ無いと……
一緒じゃ無いと駄目なの! 駄目なんだから!」
「待て!」
副団長の手も避けて、ナナちゃんは屋敷へ駆ける。
その動きを見て、騎士達も全員が響めいてる。
だけど、誰も不快そうな表情は見せてなかった。
むしろ、ナナちゃんのあの真っ直ぐな態度を見て
少しだけ、頬を緩めてる騎士の方が多い。
全員、本心では諦めたく無かったんだ。
ソールティアスさんに希望を捨てて欲しくなかったんだ。
「真っ直ぐすぎる……羨ましいほどに」
「あぁ、でも……そうだな、俺もそう思う。
ソールティアス様には、まだ諦めて欲しくない。
きっと見付かる、副団長!」
「……」
「我々も諦めたくありません!
ソールティアス様には笑顔で過ごして欲しい!」
「……貴様らがソールティアス様の命に背いたのは
これが、初めてかも知れないな。
ナナの奴め、しっかりと説教しなくてはな!
全員、今は訓練をしておけ!」
「はい!」
「リン、君はどうする?」
「私も行く」
「……分かった、説得に協力してくれ」
その言葉の後、私も副団長と共に屋敷へ入った。
この説得は、どちらに対して言ったんだろう。
ナナちゃんの説得? それともソールティアスさんの説得?
うん、深く考えることは無い、きっとどっちもだ。
どっちを説得するかを私に判断させたんだ。
だから、私が説得するのは……
「ソールティアスさん! ソールティアスさん!」
「この声、ナナ……」
「ソールティアスさん! 諦めないでよ!
きっと妹さんも見付かる! 諦めなかったら見付かる!
私も頑張って探すもん! だから、諦めないで!」
「……その事か、君は本当に真っ直ぐだね。
だけど、私はもう諦める事にしたんだ。
きっとあの子は……そう、」
「ナナちゃん!」
私達が急いでナナちゃんに追いついた。
ナナちゃんはソールティアスさんの部屋の前で
大きな声で叫んでたからすぐに分かる。
「あ、諦めないもん! 見付けてみせるもん!
きっとソールティアスさんの妹さんは見付かる!」
「うん、私もそう思う。だから、一緒に説得しよう」
「う、うん!」
私が選んだのはソールティアスさんの説得だった。
きっと諦めなければ見付かる筈なんだ。
だから、諦めないでって、そう言いたい。
「ソールティアスさん! 諦めないで!」
「リン、君もそう言うのか?
諦めない方が良いと、そう思うのか?」
「うん、自分の心に嘘をついて隠しても良い事は無い。
私はあの時、沢山の人達が家族を失って
辛い思いをしたのを見た。
でも、皆、それを乗り越えて先に進んだ。
それは家族が死んだって受入れて
それでも先を進むことを選んだから。
でも、今のソールティアスさんは違う。
諦めただけなんだ、妹は死んだって
もう見付からないって、諦めただけなんだ。
それは受入れたわけじゃ無い。
だから、今のままだと先に進めない!
だから、自分に出来る全力をまだ尽くして欲しい!」
「……」
部屋の奥で座ってるソールティアスさんが
自分の顔を手で覆った。
そして、その手を伝って落ちていく涙。
常に凜々しいソールティアスさんが今、初めて
私達に弱い部分を見せてくれたように思えた。
「あぁ、そうだ、私はまだ諦めたくは無いんだ。
だが、だが! これ以上、無意味に時間は使えない。
魔物の活性化、これは民衆には由々しき自体なんだ。
それなのに、私が淡い期待を無駄に抱いて
妹を探すことで無駄な時間を割いて
民衆への注意が疎かになり
幸せを失う人々を生む訳にはいかない。
私の様な思いを、シャリーズの人々の様な思いを
これ以上、誰かにさせるわけには行かないんだ。
だから、私は……あの子の事を……」
「ソールティアス様!」
ソールティアスさんが何かを呟こうとした瞬間だ。
鎧を着けた騎士が私達の元へやって来た。
朝礼に参加した騎士じゃ無い、見張りの騎士?
「何だ、今は」
「副団長! 丁度良かった! 火急の事態です!」
「何だ? 何が」
「ギフティーがエルフに襲撃されてます!」
「な!」
エルフ達によるギフティーの襲撃!
な、何で今! ギフティーを攻撃したの!?
「エルフがギフティーを襲撃だと!?」
衝撃的な報告を聞いて
副団長とソールティアスさんが同時に声を荒げる。
「はい! ビレッジの騎士が報告に来ました。
どうも、エルフの襲撃を受けて
即座にビレッジの騎士も対応したそうなのですが
戦力が多く、バナージの救援も欲しいと」
「何故ギフティーが襲撃されて
ビレッジが!? いつからの襲撃なんだ!?」
「ふ、不明です」
「とにかく急がなければ!」
さっきまで涙を流してたソールティアスさんだけど
この報告を受けて、一気に血相を変えていた。
だけど、涙の後がさっきまで泣いてたのを知らせてる。
「ナナちゃん、今回の話は後だ。
今は急いでギフティーを救う」
「どうして、え、エルフが……」
「ピンカーが仲間のエルフに
君の事を伝えたのかも知れない。
だが問題は、あまりにも伝達が速いことだ。
ピンカーがシャリーズから去ったのは
我々が帰還する少し前。
移動時間を考えても、あの後から
1週間も経ってないぞ、いくら何でも速い」
「い、いや、テレパシーかも」
「そうか! いや、だがもしそうなら
襲撃するのが遅すぎる……
いや待て、シャリーズに来てた騎士は
到着から1ヶ月で帰っていた。
もしや、その時から……」
もしかしたら、1ヶ月も前から戦ってたのかも?
なら、相当長い間戦ってたって事になる。
ギフティーはエルフ達と1ヶ月も戦えるの?
いや、エルフ達は本気で滅ぼしに来て無いんじゃ?
本気だったら大規模魔法が使えるはずだし。
わ、分からないけど、とにかく急ぐしか無い!
「とにかく急ごう! 準備を!」
「はい!」
急ぎ私達は再び遠征の準備が始まった。
ギフティーの事を嫌ってた騎士達も
流石に今回みたいな状況で見捨てることは無く
全員が急いで行動をした。
問題は私達だ。
「……問題は君達だな」
準備をしながら、副団長が私達の方を見た。
これは当然だ、問題は私達なのは明白。
「そうだね、エルフの襲撃……
だが、都市はギフティーだ。
エルフ達を抑えるにはナナちゃんが居てくれた方が良いが
ギフティーに君達を連れて行くのは忍びない」
「行くよ! 勿論行く! 辛い思いをしてる人を助けたい!」
だけど、ナナちゃんがすぐに動くのは当然だった。
ソールティアスさんは不安そうな表情を見せ
すぐに私の方にも視線を向ける。
「私も行く」
私の選択だってすぐに決ってたんだ。
そう、ナナちゃんが行くと決めた瞬間に決った。
ナナちゃんが行くというなら、私が行かない理由はない。
私はナナちゃんを守る為に強くなったんだ。
それに、少しでも多くの人を救いたい。
だから、私が行くのは当然なんだ。
「分かった、立て続けに巻き込んでしまって済まない」
「大丈夫! だって私達も騎士だから!」
その言葉を聞いて、騎士達も同じく頷く。
そして、即座に出撃の用意が完了する。
「行くぞ!」
短い間で2回も発生した襲撃事件。
今回は魔物関係では無くエルフの襲撃。
最悪だけど、行くしか無いんだ。
必ず止めてみせる、エルフ達を!




