誰かの限界
私達は出来る限りの事をした。
対して役に立てないと感じながらも
例えしんどくて、立てなくなりそうになっても。
ひたすらに怪我をした人を癒やした。
「リンちゃん、教えて」
「え?」
「回復の魔法を!」
「……う、うん」
回復の魔法をナナちゃんに教える。
どうやってるかとか、理論的には話せない。
主には感覚で、治って欲しいと願えば治る。
祈りの剣の効果で発動してるのかもしれない。
でも、剣で魔法を発動させるのはほぼ無い。
そう言う話を、私は色々な人に教わった。
なら、これはきっと私の力だ。
私が出来るなら、ナナちゃんも出来る筈。
だって、ナナちゃんは魔法を使えるのだから。
純粋な人間ならば魔法は全て扱える。
炎も氷も回復も何もかも扱える筈だ。
「……」
ナナちゃんが意識を集中させて、
小さな子供に手を触れる。
治ってと、癒えて欲しいと、そう願いながら。
ナナちゃんの思いは……そう、届いた。
「治った!」
ナナちゃんが魔法を発動させ、子供の怪我を治す。
ナナちゃんも回復の魔法を扱える様になった。
魔法ってもしかしたら、心が重要なのかも知れない。
治って欲しいと、そう思えば思うほどに。
それか、魔力量ってのがあるらしいから
それが重要なのかって思った。
でも、ナナちゃんが魔法を使ったとしても
大きな回復にはならない、私と同じ位だった。
そうなると、適性レベルが重要なのかも知れない。
私とナナちゃんは人間だから
体特殊属性魔法の適性レベルは5だ。
「ありがとう、ナナお姉ちゃん」
「うん、もっと頑張るね!」
ナナちゃんが体特殊属性魔法が使えるようになった事で
治療の速度がかなり上昇したと言える。
この中で魔法を使えるのは私とナナちゃんだけだ。
ソールティアスさんは魔物の殲滅をしてるから
避難所の人達を癒やせる魔法使いは私達だけ。
今までは私1人だけだったから
すぐに枯渇しちゃったけど、ナナちゃんも
回復の魔法を使えるようになったことで
一気に私への負担が減り、沢山の人を癒やせる。
でも、治せないような致命傷は私達でも無理だった。
2人で魔法を使っても治せない。
同じだけしか治せない、理由は何だろう。
「魔法が効いてない……もしかして
治癒限界みたいなのがあるのかな?」
「治癒限界って何?」
「うん、回復する限界……なんて言うのかな
そう、一定以上は手応えが無い気がして」
「手応え……って?」
「えっと、分からないけど、こう……
何か、効いてないなー見たいな感覚」
「え? うーん」
私には分からないけど
ナナちゃんは何か感じてるようだった。
でも、ナナちゃんの見解通りなら
治癒限界って言うのがあるのかも知れない。
回復の魔法を使っても、
これ以上は回復出来ないという
そんな上限……。
私には分からない手応え。
魔法の事はあまり詳しくない私では
その感覚は分からないけど、
今までの経験からその可能性はあると思う。
「はぁ、はぁ」
「わ、分かったかも……
治せる怪我がバラバラな理由」
「え?」
「うん、教えるね」
沢山の人を治療してナナちゃんは
ある事が分かったらしい。
それは治癒限界が人によってバラバラだと言う事だ。
歳を取った人は治癒限界がすぐに来る。
でも、小さな子供は治癒限界が中々来ない。
30歳の人を10とすれば
40歳は8、50歳は6、60歳は4、70歳からは2だ。
逆に20歳は15、10歳は30、5歳は40だ。
ただ、赤ちゃんの場合は2位。
これが、ナナちゃんが言う回復魔法の限界。
ただ、流石に骨折とかは即座に治せないみたいだ。
例えそれが、子供だったとしても。
だから、小さい子供達には辛い思いをさせてしまう。
「……そんな事があるんだ」
「うん、回復の魔法は万能じゃ無いんだ。
小さい子は沢山治せるけど、大きな人は治せない」
「私も、そんな気がする。」
私には分からなかったけど、ナナちゃんには分かったんだ。
私達の限界、魔法の限界……回復の魔法がもし
全ての人を即座に治せるような魔法だったら……
もし、全ての人が私達と同じ位に回復出来れば……
「治癒限界なんて無ければ……もっと救えたのに」
「……うん」
きっとソールティアスさんは知ってたんだ、治癒限界を。
だから、チカちゃんのお母さんの怪我を見たとき
駄目だって、理解できたに違いない。
「……あ」
「ッ!」
視線を感じ、振り向くとチカちゃんが私達を見てた。
チカちゃんは私の視線に気付くとすぐに身を隠す。
怨んでるんだ、私の事を。
治癒限界だとか、そんなのを知ったところで
納得出来る訳がない。それは当然だ。
そんなの知らないと、そう感じるのは当然だ。
「チカちゃん……ごめんなさい」
聞えるはずが無い、私の小さな声。
だけど、謝罪しなければ気が済まなかった。
私はまだ、私を責めている。
治癒限界があるのだから仕方ないだなんて
そんな風に思えるはずが無かった。
「済みません! 今度はこの子の怪我を!」
「あ、うん、治す」
色々な人達が私達に怪我の治療をお願いしてくる。
私達はそのお願いに答えて、回復をする。
とにかく今は情報だ、情報を共有した方が良い。
「エディー、ナナちゃんが気付いた事を教える」
「ん? なんだい?」
「回復魔法には治癒限界があるみたい。
子供の方が沢山回復出来る。
だから、怪我が酷い大人を先に呼んで欲しい。
酷くなったら治せなくなるかも知れない。
子供なら沢山回復出来るから
少し遅れてもきっと大丈夫」
「治癒限界なんてあるのか、了解、分かったよ。
騎士達全員にこの情報を共有する」
「うん、お願い」
エディーが騎士達に治癒限界のことを教えてくれた。
エディーの話を聞いた騎士達が私達の意図を理解して
怪我が酷い大人を優先的に案内してくれた。
私達は2人で必死にその怪我を治す。
私達にしか出来ない、私達の仕事。
怪我をした人を、1人でも多く助ける。
私達は自分達の無力さを理解した。
でも、理解したから何だって言うんだ。
私達は無力だけど、出来ることは沢山ある。
私達は私達に出来ることを、必死にやるだけだ!
例え、呼吸が辛くなってきても、私は諦めない!
「はぁ、はぁ、はぁ、つ、次の人を……」
「リンちゃん、明らかに顔色が悪い!」
「だ、大丈夫……私は大丈夫!」
「魔法には魔力量があるのは知ってるだろ!?
魔力を全て使えば、最悪死んでしまうかも知れない!」
「でも、私が頑張らなくちゃナナちゃんに負担が掛かる!
それに、私が頑張る事で救える命もある!
だって、私は死んでも良い! 私は!」
「馬鹿言うな! 死んでも良いなんて言うんじゃ無い!」
普段私達には優しいエディーが大きな声で私を怒鳴った。
あまりに不意な事で、少し気が動転してしまう。
すぐにエディーは私の両肩を掴んで、顔を近付けた。
「良いかい! リンちゃん! 死んでも良いなんて!
冗談でも決して言うな!
死んでも良い人なんて1人も居ない!
自らの命を貶む事は全ての命を貶んでるに等しい!」
「な、何で……」
「よく言うだろ? 命は平等だと。
実際は違うのは理解してる、あぁ、理解はしてるさ。
でも、せめて同じ人間の命は平等だと、そう思いたい。
僕達はその覚悟を持って、騎士として戦ってるんだ。
なら、自らの命を貶む行為は他の命を貶む行為に等しい。
平等な命を、何か、等と言うわけには行かない。
例え自分の命だろうとね」
「……」
「それに、君が万が一死んでしまえば
君が救えたはずの命が救えなくなってしまう。
君にしか救えない人を、無責任に放置しないで」
「……ごめんなさい」
私は何で自分の事を軽視するんだろう。
そうだ、私にしか出来ない事はある。
それなのに、私が死んだら……何も出来ない。
忘れるな、私は凄い、そう、私は凄いんだ。
エディーやソールティアスさん
一緒に戦うソールティアス家の騎士達。
そして、ナナちゃん。
皆、私は凄いって、そう教えてくれてた。
それなのに、自分を貶む……それは、駄目だ。
私を褒めてくれる人達を馬鹿にしてるに等しい。
私は凄い、それを理解しないと駄目だ。
「リンちゃん! リンちゃんが休んでる間は
私が頑張るから! だから、リンちゃんは休んで!」
「……うん、ごめんね、ナナちゃん」
「大丈夫! 私も私に出来る事をするんだ!
一緒に頑張ろう、リンちゃん!」
「……うん」
ナナちゃんの笑顔を見て、少しだけ安心した。
私は誰かに必要とされてる、だから
自分の事を貶んだら駄目だ。
今日は休もう……死んだら何も出来ない。
折角生き残ったんだ、出来ることをしっかりと。




