最悪な光景
出来るだけ急いで脚を進めた。
あまり長い時間は掛からないで
私達はシャリーズ付近へ到着する。
だけど、状況は絶望的というものだった。
大量の魔物に都市は完全に包囲されてたから。
「この規模の襲撃が何故!」
「分からないが、デミ・ビースト襲撃もある。
魔物を統括できる、強力な魔物が
生まれてしまった可能性もあるな」
そんな魔物がドンドン生まれてきたら困る。
平和だったのに、その平和が噛み砕かれそうだ。
でも、噛み砕かれないように、私達は努力して来た。
色々な人を救えるように、努力して来た。
ここで止まるわけにはいかない。
「だが、止まるわけにはいかない。
既に都市内部に侵入されてる可能性は大いにある。
故に急いで行動し、あの魔物の群れをぶち抜け!」
「は!」
「進め!」
ソールティアスさんの号令に合わせて
一気に馬で突撃が始まった。
「速いー!」
「ナナちゃんは僕にしっかり捕まって!
リンちゃんは大丈夫かい!?」
「大丈夫! これ位で振り落とされたりはしない!」
「なら安心だ!」
そのままエディーと私達が乗った馬は
全力で魔物の群れへ突撃していった。
私は練習してた弓矢を構えた。
「ん!」
あまり慣れないけど、私は馬上から矢を放つ。
まだアンナ程に上手く狙えないけど
この距離なら当てる事くらいなら出来る!
「ナイスナイス! 流石リンちゃん!」
「練習したから!」
そのまま馬上で矢を撃っての攻撃。
接近されたときは剣を引き抜き両断した。
私の本命は祈りの剣を使った接近戦。
近付かれた程度でやられることはない。
「ふん!」
ソールティアスさんが剣を引き抜きながら
周囲に炎や氷の斬撃を飛ばしてる。
あれがソールティアスさんの戦い方。
魔法を使った、殲滅戦用の立ち回り。
ソールティアスさんは本来、二刀流らしいけど
流石に馬に乗って2本使うのはしんどいみたいだ。
バランスを崩して落ちたら危ないし当然かも知れない。
スピード重視だから、あまり攻撃の必要も無いしね。
「やっぱり強いね、ソールティアス様」
こう言う布陣、本来は兵士が先陣だろうけど
ソールティアスさんは完全に自分が戦闘に居る。
上から見たら、きっと矢印の様になってるだろう。
その矢印の先頭にいるのがソールティアスさん。
圧倒的な殲滅力を持ってるから先陣なんだろう。
私達は外側の中央本体を護る位置にいる。
周囲の兵士は言わば精鋭と言える部隊。
星4の騎士が主にこの位置にいる。
「ナナちゃん、魔法は使える?」
「う、うん! 出来るよ!」
なんとかエディーに引っ付きながらも
ナナちゃんが掌を魔物に向けた。
「えい!」
いつも通りの声が聞えると同時に放たれた火急。
ナナちゃんが放った火球は魔物を焼きながら
地面に着弾すると同時に小規模の爆発を起す。
私の炎の魔法では爆発が起きることはまだない。
そう考えると、魔法の才能は私よりも
ナナちゃんにあるのは間違いないだろう。
「てりゃ! てりゃ!」
今度は掌から炎の鞭みたいなものを出し
中々必死に手をぶんぶんして攻撃してる。
動きだけを見るとあまり強そうではないけど
実際の効果はかなり絶大であり
魔物達があっさりと焼かれていくのが見える。
中にはその鞭で両断されてる魔物だって居た。
動き事態は単純で、強い人と戦う場合では
あっさりと無力化されてしまいそうではあるけど
ただの魔物であれば対処も出来ず
かなりの殲滅力となってる。
「ん!」
私も近付いてくる魔物を攻撃しながら
飛びかかってくる相手も大して動かずに両断する。
弓矢も使って距離がある相手も攻撃出来る。
目の前はソールティアスさんの放った炎の斬撃
氷の道が魔物達をなぎ倒し
側面はナナちゃんの魔法で大地を吹き飛ばしながら
群れてる魔物を吹き飛ばしている。
もし、城壁の上に兵士が居てこの光景を見れば
かなりの大規模戦闘をしてるのが分かるだろう。
至る所が爆発し、1つの矢印となって突撃する馬が
近付く魔物達をなぎ倒しながら進んでる姿。
もしも敵だったら恐怖でしか無いだろうけど
味方であれば、その光景は愉快とすら感じるかも知れない。
「門だ! 城壁はこじ開けられてる! そのまま突撃!」
「はい!」
ようやく見えてきた門はボロボロの状態だった。
城壁の周りには血飛沫が飛び散ってる。
だけど、私達は怯むこと無く突撃して都市内部へ。
「護衛部隊散れ! 本隊! 即時展開!」
「は!」
ソールティアスさんの号令で馬の速度が一気に変わり
周囲の護衛が離れると同時に本隊が一斉に広がり
門を守るように展開し、馬を下りての戦いが始まった。
「本隊の半分はそのまま門の防衛!
魔物をこれ以上、シャリーズに入れさせるな!」
「了解!」
「残りは南門、西門へ急げ!」
「了解!」
「護衛部隊の半分はそれぞれ南門西門へ進んだ
騎士の護衛として着いていき
残りは私と共に都市の統合管理塔へ!
そこに避難用の地下が用意されてる!」
「はい!」
それぞれが一気に展開して行動を開始する。
私達の役目はソールティアスさんと一緒に
避難用の地下がある統合管理塔へ行く事だった。
「ッ!?」
その道中、私達はあまりにも悲惨な光景を見る。
大量の魔物に群がられ、捕食されてる子供。
「この!」
「あ、あ……」
両腕から血を流しながらも
僅かに意識を残してる大人。
「お母さん助けて! いやだ! 助けてお母さん!」
動かなくなってる母親に助けを求めながら
涙を流し、魔物に食べられそうになってる子供。
「駄目!」
急いでその魔物を撃破して
私達はすぐに彼女を保護した。
「君、一緒に来るんだ」
「で、でも! お、お母さんが……」
「……君のお母さんは、もう」
「嫌だ! し、信じない! 嘘だ! 嘘だ!
う、うそ……嘘だよ、お、起きてよ、お母さん……
い、いつも通りのい、悪戯だよね? ね?
お、起きてよ! いつも通り笑って
わ、私の名前を呼んで……チーちゃんって……
そ、そしたら、ち、チーじゃ無くて
チカって……い、言うの、い、いつも通りに……」
「ち、チカちゃん」
「あなたに言われたくない! お母さんに言って貰いたい!」
涙を流しながら、彼女はナナちゃんを怒鳴った。
ナナちゃんも涙を流しながら、彼女に寄り添う。
「ごめんね、もっと早く来てたら……」
「そ、そうだよ、は、早く来てくれたら……
お母さんは、お母さんは……」
「……」
回復の魔法を試そうと、私は彼女のお母さんに手を触れる。
傷が少しだけ……ほんの少しだけ治った。
「……チー……ちゃん」
「お、お母さん!」
僅かに意識を戻したチカちゃんのお母さん。
私は急いで回復をしようともう一度試すけど
私の魔法は殆ど効果がなかった。
「そ、ソールティアスさんなら!」
「……」
ソールティアスさんの魔法なら治せるかもと思い
私はすぐに後ろを振り向いた。
だけど、ソールティアスさんは辛そうな表情のまま
小さく、首を横に振るだけだった。
その姿を見て、理解できた気がする。
治せない、ソールティアスさんでも治せないんだ。
体特殊属性魔法……誰かを回復させる事が出来る筈。
その魔法を私よりも扱える筈のソールティアスさんでも
この傷は治せないと……そう、確信してる。
「チー……ちゃん」
「な、何!? お母さん!」
「あ、あなただけは……い、生きて」
「な、何言ってるの! い、一緒に!」
「……駄目、よ、分かる……わ」
「そ、そんな事無い! そんな事!」
「……元気で……ね、あ、い……し……」
「お母さん!? お母さん!」
チカちゃんに伸ばされてた手が力無く地面に落ちた。
チカちゃんはお母さんの手を握って涙を流してる。
その涙に釣られてか、魔物達が私達の周りに集まる。
「……チカちゃん」
「離して! 離れたくない! お母さんと一緒が!」
「逃げなきゃ! に、逃げなきゃ……
逃げなきゃ……ち、チカちゃんまで死んじゃう」
「死んでも良いもん! お母さんと一緒が!」
「チカちゃんのお母さんは、ち、チカちゃんに
し、死んで欲しくないに、き、決ってる!」
「離して! 離して!」
「いや! 逃げないと……逃げないと!」
「お母さん! お母さん!」
涙を流しながら、ナナちゃんがチカちゃんの手を引く。
鍛えてるナナちゃんの力相手に
ただの子供が勝てるはずも無く、
チカちゃんが抵抗しても全く意味が無かった。
「あ、あ、あぁ……いや、いやだ……」
必死に逃げてる間だ、一部から火の手が上がってる光景。
その光景をチカちゃんは涙を流しながら
ただ、見ることしか出来てない。
ナナちゃんも涙を流しながら、
その光景を目に焼き付けてる。
瓦礫から溢れ出してる真っ赤な血。
小さい子を抱き抱えながら息絶えてる大人。
何かを抱えてるような格好をしてるけど
手には何も抱えてない母親……手元には
原型も無い真っ赤な血の池だけが出来ていた。
他にも市民を庇うように力尽きてる騎士や
背後から剣を突き立てられてる騎士もいた。
でも、異様なことに騎士の殆どは首が無い。
「い、や……な、何で……」
「う、うぅ、う、う、うぅ!」
「……ここまで悲惨な事に……」
「……最悪だ、魔物の襲撃でこの規模」
「赤ちゃんの泣き声!」
赤ちゃんの泣き声が聞えてその方向を見る。
そこには瓦礫に脚を挟まれながら
必死に手を伸ばしてる母親と
小さな赤ん坊を飲み込もうとしてる魔物の姿。
「させるかぁああ!」
アンナの大きな声が聞え、矢が放たれた。
放たれた矢は的確に魔物だけを撃ち抜く。
「急いで救護! リン! 君は」
「うん!」
急いで倒れてる女の人の元へ走る。
他の騎士達は子供を保護した。
「あ、その鎧……ば、バナージの」
「遅れてしまい、申し訳ありません……」
「ありがとう……ございます、でも、私はこの状態」
「問題はありません」
ソールティアスさんはあっさりと瓦礫をどかす。
だけど、脚には瓦礫が突き刺さったからか
動かせるような状態では無かった。
「が、瓦礫をどかしてくださって、
ありがとうございます。
ですが……見ての通り、この怪我……
私の事はもういいです。動けません。
でも、娘を! せめて、ルルだけは!」
「いえ、あなたも助けます。
あなたの怪我なら……まだ、助かります」
「うん……怪我を治す」
私は急いで回復の魔法を発動させた。
あまり大きく回復は出来なかったけど
歩けないほどの怪我から、動けるだけは回復出来た。
致命傷じゃ無ければ、私の魔法でも救える!
「け、怪我が……」
「完治は無理だけど、歩けるくらいにはなる」
「あ、ありがとうございます!」
「どうして……どうして私のお母さんは治して……」
「……ごめんなさい、治せなかった……」
「……う、うわあぁあ!」
起こったチカちゃんが私に殴りかかってくる。
避ける事は出来る、でも、私は避けられなかった。
「リンちゃん!」
「……ごめんね、私が……治せない怪我も治せるような
凄い魔法使いなら……助けられたかも知れないのに。
私が弱いから……少ししか治せなかったから……」
「あ、あ……あ、う、うわぁああ!」
涙を流しながら、チカちゃんが
私をもう一度殴ろうと拳を振り上げる。
だけど、その拳は私を殴る事は無く
そのままチカちゃんは涙を流しながら座った。
「わ、私……私……」
「……」
涙を流す彼女に何も声を掛けることが出来なかった。
でも、魔物は私達を見つけて近付いてきてる。
「くそ、また来た……もう、何だよ!
リトルオーガにゴブリン……
お前ら、仲良くないだろ」
「間違いなくただの襲撃では無いな、危険な魔物か。
とにかく急ごう、奴らの狙いは人の肉。
沢山の人が居る避難所が不安だ」
「うん……」
「チカちゃん……」
「うぅ、う、うぅう!」
「ごめんなさい、今は何も言えない。
でも、ここは危ないから……」
「良い! ほっといて! 死んでも良い!」
「そんな事言わないでよ! チカちゃんのお母さんは
必死にチカちゃんに生きて欲しいって言ってた!
凄く痛いのに、辛い筈なのに……それなのに
チカちゃんの事を……第一に考えてた!」
「……」
「ね、生きよう! 一緒に生きて幸せになろう!
チカちゃんのお母さんの願いを……
大好きなお母さんのお願いを……叶えてあげよう!」
「……う、うわぁあああ!」
チカちゃんがナナちゃんに抱き付いた。
そして、大声で泣きながら、大粒の涙を流してる。
ナナちゃんはそんなチカちゃんを抱きしめてる。
「……急ごう、魔物が来てる」
「……うん」
ソールティアスさんの言葉にチカちゃんが小さく応える。
涙は完全に拭えては無いけど、ナナちゃんが手を繋いで
少し早足で動き出した。
「がが!」
「ひ!」
「させない!」
近付いてくるリトルオーガを私は撃破した。
私は主にナナちゃんとチカちゃんの護衛。
他の救護が必要な民衆は他の騎士達が守ってる。
かなり慎重な防御の布陣を整えながら
私達は急いで避難所へ向っていく。
この、最悪な光景を目に焼き付けながら。




