暗闇の洞窟へ
今回は女主人公です。
幸せを奪われた少女が
偶然を手にして確実に強くなっていくお話しです。
最初は弱いですが、ドンドン強くなっていきます。
彼女の成長を是非ご覧ください。
淡い記憶、遠い記憶。
私は昔、誰かに愛されてた気がする。
「さっさと歩け!」
「は、はい……」
誰だったか覚えてない、誰だったかな?
私を大事にしてくれた人達。
「リンちゃん…だ、大丈夫?」
「う、うん」
「私語を慎め!」
「きゃ!」
痛い思いをする度に、こんな事を思う。
私の中にある、淡い淡い記憶。
でも、きっと本物なんだ。
だって、私は名前を覚えてるから。
「ナナちゃん……」
私と同じ奴隷、ナナちゃん。
この子は名前を覚えてないから
皆から番号である、ナナから取って
ナナちゃんと呼ばれてた。
私の事を気にしてくれてる。
私は8番目の奴隷、でも、名前を覚えてた。
だから、皆は私の事をリンと呼ぶ。
私の名前、リンフィアと言う名前から
リンと呼んでくれてる。
「全く、レングラーズ様は何を考えてるんだか。
こんな役にも立たない奴隷の小娘をよこすとは。
願いを叶える宝石が欲しいと言ってたが
実はただの戯れなんじゃないか?
ま、噂じゃ生贄が居るとかなんとか。
眉唾だが、情報ねぇしなぁ」
ご主人様に雇われた兵士さん達が呟いてる。
傭兵とか言う兵士さんだって聞いた。
「うし、ほら行け」
「うぁ!」
傭兵に背中を蹴られ、洞窟へ押し込められた。
逃げる事は出来ないんだって分かる。
暗闇の中、渡された小さな剣を持って
ゆっくりと洞窟の中に入った。
だって、命令に背いたら痛い事をされる。
「……はぁ、はぁ」
魔物……危ない奴って言うのは知ってる。
この洞窟にはその魔物がいる。
恐い、手が震える……恐い。
で、でも、進まないと……進まないと殺される!
「……く、暗い」
「こりゃ落ちたら死ぬなぁ」
洞窟の中には深い崖みたいなのがある。
したが見えなくて恐い……足が竦む…
こっちは駄目だ、道を歩こう。
「扉が……ある」
奥には不自然な明かりがあった。
扉があるけど、空けそうな場所はない。
代わりに金色のお酒を呑む盃みたいな
ちょっと赤い物がこびりついてる
嫌な場所があった。
「はぁ、これが噂に聞いた生贄の祭壇か」
「い、生贄……」
「ふーん、10未満のガキの血を捧げろねぇ。
なる程、それでガキの奴隷が居る訳か」
「へ!?」
「な、ナナちゃん!」
ナナちゃんが兵士に捕まって盃へ投げられた。
「おい、緑髪のガキ」
「え?」
「お前だよお前」
「わ、私……」
「あぁ、殺せ」
「え?」
「その剣でこのガキを殺せ」
「な、ナナちゃんを……」
て、手が震える……こ、殺せって。
な、ナナちゃんを、ナナちゃんを殺せって…
「殺さねぇなら、お前が死ぬ」
「……」
「り、リンちゃん……だ、大丈夫だよ、わ、私は……」
「な、ナナちゃん……」
「リンちゃんが元気なら、わ、私は!」
「やらなければ徹底的に痛めつけた後に殺してやる」
「……はぁ、はぁ」
い、痛い思いはしたくない……したくない。
ナナちゃんを殺せば、私は痛い思いをしないで済む。
死にたく無い、痛い思いもしたくない
でも、ナナちゃんを殺したくない……殺したくない。
で、でも、こ、殺さないと痛い思いをする事に。
「どうする? おい!」
「あぐ!」
思いっきり蹴られた、い、痛い……
「どうするかって聞いてんだよ、ほら」
「いぎゅ!」
「リンちゃん!」
「後10回蹴るまでに決めろ」
「ひぎ!」
「やり過ぎだろ、何だ? 怨みでもあんのか?」
「俺はガキは嫌いなんだよ」
い、痛い……凄く痛い、痛い、痛いよ。
「そもそも、奴隷なんざどうだって良いだろ」
「あぎ!」
「どうせこのダンジョンで死ぬんだ」
「ひぐ!」
「ほら、どうする? 後に2回だ」
……決めた、もう痛い思いをしたくない。
「……」
「リンちゃん」
「お、やる気出したな、へ、所詮ガキだ」
「お前マジで趣味悪いな、そんなんだから
ソールティアス家から追っ払われるんだよ」
「け、ヒューマンビーストの
クソ女が当主の家なんざこっちから願い下げだ。
まだレングラーズ家の方が良いさ、好き放題出来る。
奴隷をどれだけ痛めつけようと何も言われねぇしな」
「そりゃ、あの人はそう言う人だからな」
……深呼吸して、深呼吸して。
「ほら、やれよ」
傭兵さん達が私を押して盃の方へ近付ける。
目の前には目を瞑ってるナナちゃん。
……決めた、決めたんだ、私は!
「う、うわぁああ!」
「お!」
一気に振り返って兵士を刺そうとした。
「ケ! 奴隷のガキが!」
「ひぎゅ!」
だけど、即座に対処されて蹴り飛ばされる。
「リンちゃん! どうして!」
「じゃ、お前だな」
「あ、あぁあああ!」
お、お腹が熱い! お、お腹が! ち、血が!
私の血が……ナナちゃんに掛かってる。
「リンちゃん! リンちゃん!」
「あ、あぁ、は、はぅ……」
「お、扉が開いたな、趣味の悪い仕掛けだ」
「あ……」
「リンちゃん!」
朦朧とする意識の中、妙な浮遊感を感じる。
何処へ行ってるのか分からない。
ただ、何度か打ち付けられるような痛みを感じる。
「リンちゃん! しっかりして! リンちゃん!」
「仲良しゴッコすんな」
「あぃ」
強く蹴られた様な感覚の後
再び妙な浮遊感を感じる。
「リンちゃん!」
「あ、おいガキ!」
「絶対助ける! 助けるから!」
「おい! あのガキも飛んだぞ!」
「仲の良いことだ、まぁ他の奴隷も居る。
2匹死んだ所で何でもねぇ」
よく分からない会話、それを最後に私は意識を失った。
死んだのかも知れない、私は死んじゃったのかも。
あぁ、私は……結局あの淡い記憶が……
何だったのか、わ、分からなかった……
今回の作品は短期的な連載にする予定です。
ゴールデンウィーク中に終わる勢いで
投稿していきますので
気軽に読んで頂ければ幸いです。