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短編 お勧め順

友人の公爵令嬢ナターシャはいい子だけどちょっと変~平民富豪の娘は身分違いの友人の勘違いの理由を知っている~

作者: 紀伊章

幼いことの表現として、平仮名を多用した部分がありますが、平仮名だと分かりにくいと思った単語は漢字のままにしています。表現に揺らぎがありますが、ご容赦ください。


 わたしは、オルガ。王都の商会の娘。

 お父さんの商会は富裕だけど、平民だから、商会名はスミルノフでも、名字はない。


 わたしには、なんと、公爵令嬢の友人がいる。

 友人に使うのはあまり聞かないけど、身分違いと言っていいと思う。

 

 出会いは、今から十年くらい前。

 ロフスカヤ公爵様のタウンハウスに、両親に連れられて行った時が最初。


 スミルノフ商会は、ロフスカヤ公爵家が数代前に立ち上げた商会。ロフスカヤ公爵領の名産品などを扱ったり、ロフスカヤ公爵家に商品を納めたり、他に独自の商売も許してもらっている。

 今代の公爵様は、積極的に商売に携わっていらっしゃっていて、共同事業者でもある。


 タウンハウスに連れて行ってもらえると聞いた時、幼かったわたしは、はしゃいでいたけど、両親は困惑していた。

「オルガがナターシャお嬢様とちょうど同い年だから、ご友人にと仰るんだよ……」

 当時は分からなかったが、今なら両親の困惑が分かる。

 平民としては富裕層だけど所詮平民の娘を、王族でもある公爵令嬢の友人にって……


「失礼にならないようにするのよ」ずっと言い続ける両親に連れられて行ったタウンハウスで、

「ダニエル様、ナターシャ様、危ないですから、お降り下さい」

ナターシャは兄のダニエル様に引っ張ってもらいながら、お二人で塀をよじ登っていらっしゃった。

 何を言っているのか分からねぇと思われるかもしれないが、当時のわたしたちも分からなかった。


「こら、お前たち。ナターシャの友人が来るから、今日こそは屋敷でおとなしくしてなさい、と言っておいただろう」

「こ、これは公爵閣下!本日もご機嫌うるわしゅう……」

「そんなに畏まらなくても良いといつも言っているだろう。親戚同士なんだから」

 今でもそんなことをおっしゃるのだけど、商会設立当時の代表はロフスカヤ公爵家の遠縁の方だったらしくても、今なお親戚認定するのは無理があると思います、公爵様。


「大体、何故お前たちはいつも塀に上るんだ?」

「脱走と言ったら、塀を越えるものです。父上」

「脱走ごっこにひっすなんです」

「……脱走ごっこを止めなさい。それで何処に行こうとしていたんだ?」


「隣の屋敷の庭に、面白そうな子がいたので、迎えに行って、その子も一緒に遊ぼうと思います」

「いっしょに遊ぶんです」

 この頃のナターシャは大層なお兄ちゃん子で、ダニエル様もナターシャを可愛がって、常に連れまわしてたと思う。


「隣の屋敷、オフトロスキー侯爵家のタウンハウスか。お前たちと年の合うような子が居たかな?」

「旦那様、恐らく五男の黒目黒髪の方かと……」

「……いいだろう。オフトロスキー侯爵家に使いを出し、当日に招待する非礼は詫びて、その子を連れてきてくれ。儂の名を使ってもな」

「かしこまりました。早速、行ってまいります」


 そうして、渋々塀から降りてきた二人とわたしは別室で遊ぶことになったんだけど……

「私はダニエルだ。よろしくな」

「わたくしはナターシャ。あなたは?」

「オルガともうします。よろしくおねがいします。ダニエルさま、ナターシャさま」

「わたくし、ナターシャ。よろしくね、オルガ」

「?よ、よろしくおねがいします。ナターシャさま」

「わたくし、ナターシャ。よろしくね、オルガ」

「???」


「フフフ。戸惑っているようだな。説明しよう!私の可愛いナターシャは普段はわがままなど言わないのだが、このようにどうしても気に入らないことには、決して聞き分けたりしないのだよ!さぁ、敬語をやめて、呼び捨てしたまえ。私のこともダニエルで良いぞ」

「……ダ、ダニエル、ナターシャ……よ、よろしくね」

「うん!よろしく!」

「そうそう、その調子だ」


「失礼いたします。オフトロスキー侯爵家のマキシム様をお連れしました」

「……マキシム・オフトロスキーです。本日はお招きいただきありがとうございます」


 びっくりして声が出そうになったのを、とっさに手で口をふさいだ。でなければ、言ってしまいそうだったから。

「魔王!魔王の色だわ!」

 え、言っちゃうの?わたし、なんとか、こらえたのに。


「どうだい!ナターシャ、私の言った通りだろう」

 知ってて呼んだの!?

 魔王がいたことはないんだけど、すごくめずらしい闇属性の人がこう呼ばれる。


 めずらしくても時々いる光属性の人が、治癒魔法の使い手と知られている一方で、闇属性の魔法は知られていなくて、人の心をあやつるとか、呪いができるとか言われている。そしてなぜか、濃紺の髪と目をしているそうだ。

 ただの黒目黒髪なら、平民などにも、ときどきいるけど、彼らの目と髪が、よく見ると濃いこげ茶色なのに、闇属性の人は、一見、黒目黒髪に見えるけど、よく見ると青いんだそうだ。目ならともかく、髪が青い人は、ふつういない。


「いいなあ、いいなあ、きれいー」

 ふつうはナターシャたちの、金髪金目がうらやましいとおもう。

「うんうん、確かに珍しくて美しい色だ。しかし、時間も限りがある。遊び始めようではないか!」

「うん、なにして遊ぶの?」

「そうだな。魔王役に適した役者がいることだし、魔王と勇者ごっこにしよう!」


 色をきれいと褒められて、やっとこわばりが、とけつつあったマキシムさまのお顔は、今度こそ完全に凍ってしまった。


「では、僭越ながら、私が勇者をやろう」

「……お兄様、似合わない」

「し、仕方ないではないか。他にはいないのだし」

「アダムがいいと思う」

「お断りします」

 それまで、壁ぎわにいた、たぶん、二人を守る役の人がすっと出てきて、一言いうと、すっと下がった。

 ぜったいにやりたくない、という、つよい、いしをかんじました……

「……お兄様でいいです」

「……では、他の配役を決めようか」

「わたくし、まほうつかいがいいー」

「では、オルガが聖女で良いかな?」

「ハイ、ナンデモイイデス」


 そうしてはじまった、魔王と勇者ごっこは、


「うわぁぁ。勇者たるこの私が負けてしまうとはー!人類の未来はどうなってしまうのかー!」

「オーホホホホホ。これで世界は、この魔王様のものよー」

 

 魔法使いの裏切りにより、魔王の勝利に終わっていた……


「うわぁぁ。まさか妹に裏切られるとはー」

「オーホホ……、お兄様、ここからどうするの?」

「え、あぁ、そうだな。……甚大な被害が出ているからな、復興計画が必要だ」

「魔王様による、ふっこうけいかくですね。……どうするの?」

「そうだな。せっかく魔王によるものなんだし、魔族と人類の融和政策を……」


 魔王が滅ぼした世界を、魔王によみがえらせようとする二人。勇者は魔王によってリッチにされて、魔王軍の幹部になってるし。

「……変な兄妹」

「……フフッ、ク、アハハッ、ハハッ。アハハハハハハハハハハハハ」

「「「え?」」」

「アハハ、ハハッ。君ら、変。アハハハハハハハ」

「え~、別に変じゃないよ~」

「フフフ」


 ナターシャは、まぁ、天然なんだろうね。

 ダニエル様は、自分が変てわかってるから、ふつう。……まって、変てわかっててやって、人に変と言われて喜ぶ、人はそれをへんたいと……

「フフッ?」

 見、見つかった?ヤバい、目が笑ってない。

 ダニエル様はふつう、ダニエル様はふつうです。


 それからは、この四人で遊ぶことが恒例になってしまった。

 あ、あの、誰か、高位貴族に平民が一人混ざっていることの違和感に気付いてくれませんかね……


 今日も公爵様に感謝されてしまう。

「ありがとう。オルガ君のお陰で、あの二人も、大分、大人しく過ごしてくれるようになったよ。あの二人は誰に似たんだか、何だか変わっていてねぇ。でも、悪い子たちではないから、これからも仲良くしてやってくれないか?」

「滅相もございません。わたしのような者でも良ければ喜んで」

「いやいや、君はうちの親戚なんだから。気軽に遊びに来なさい」

 ……気さくな公爵様とか、走るのが速い亀、位の違和感があると思ってる。


 四人のごっこ遊びから始まった交流は、五つ上のダニエル様が抜けがちになり、三つ上のマキシム様が少し疎遠になってしまってからも続いている。


 ところで、ナターシャの天然は、公爵様ゆずりだと思うんだよね。

「聞いてオルガ!土魔法ってすごいのよ!畑を耕せるの!」

「?!畑を?耕したの?」

「そう。お父様に連れられて、領地の開墾したばかりの土地をいっぱい耕してきたわ!」

 公爵様ェ。だから、ナターシャの常識が貴族から離れていくんだよぉ。

 

 ナターシャがある程度大きくなってきてから、公爵様は、公爵様が始めた商売に必要な平民とのやり取りに、ナターシャを連れて行ったりするようになった。基本的には、横で見ているだけらしいが、人数が多い場合、会合の昼食会の手配などはナターシャの仕事らしい。

 商会の娘のわたしもやっているけど、公爵家でもそんなことを?と思って両親に聞いたが、

「そんなわけないだろう。ロフスカヤ公爵様だけだ」

「普通の貴族は、平民を呼び出して命令するだけですよ」

 ……そんな気はしてた。


 貴族家は、それぞれの家に特徴的な属性魔法を受け継ぎ、誇りとしている。

 しかし、余程の有事でもない限り、平民のためにその力を振るったりはしない。


 ロフスカヤ公爵家は、貴族の間では、土魔法の強力な使い手の家系として有名だが、平民に有名なのが、土木工事現場に現れて力を振るう公爵家の直系の方々の姿だ。


 今の側妃様が、嫁入り前に庶民派という言葉を創り出したが、本当に庶民派なのは、ロフスカヤ公爵家の方々なんじゃないかなぁ?


 側妃様は嫁入りが決まるまでは、平民に喜ばれるような事業を多くされていたそうだが、最近はそうでもない。

 ロフスカヤ公爵夫人によると、伯爵家でも最低位だったご実家なのに、側妃に選ばれたのは、民衆心理操作の手腕を買われてのことだそうだ。

 最近は、お産みになった第一王子殿下のご評判と合わせて、評価が下がっているらしい。


 そう、第一王子殿下。ナターシャの今の婚約者である。

 

 ナターシャも公爵令嬢なので、政略的婚約の話は、色々あったらしい。

 その度に、公爵様がナターシャ本人に聞いて、ナターシャがマキシム様を希望されて、保留になりを繰り返していた。内輪の認識では、マキシム様が内定の婚約者、外から見ると、ナターシャは婚約者なし、だった。

 そこに側妃様が第一王子殿下の婚約者にねじ込んできたらしい。


「こんなことなるなら、正式にマキシム君をナターシャの婚約者にしておくんだった……」

 公爵様はそう言って、肩を落としていた。

「自分で身を立ててから、ナターシャ様に求婚しに来ます」

 そう言っていたマキシム様のことを待っていたそうだ。

 確かに、王家以外の縁談なら断れるからね。

「マキシム君が無位無爵のままだった時、平民になったナターシャがやっていけるか心配で……」

 うん、ナターシャも公爵令嬢だからね……うん?畑を耕しながら、生き生きと平民生活を楽しんでいるナターシャしか浮かばなかったけど、わたしの想像力の限界か?


 三年前に第一王子殿下との婚約が決まったナターシャは見ていられなかった。

「もう、わたくしの人生に、良いことは、これから一つも起こらないんだわ」

 死んだ魚のような眼をして、自室の床に転がっていた。

「……床に寝るのは止めよう?」

 侍女さんとソファまで連れて行って、でも慰めようもなくて……

「あの王子、性格最悪だった……」

 マキシム様に宮廷魔術師の話が持ち上がり、念願叶いそうだったのに。


 ダニエル様の婚約者の方が流行り病で急逝されて、側妃様からの打診を上手く躱していた公爵夫人とダニエル様が手一杯になった隙に、正式な王家の書状を持ってこられてしまったそうだ。


「わたくしは間が悪い……」

 そんなことを言い出すようになったのも、あの頃からだ。

 

 それまでも、ちょっと変わったところはあった。

 ダニエル様命名、脱出ごっこ・その二(塀を登らない、護衛の言うことを聞く、の街歩き)で、ナターシャが見ていると、ちょうど食べようとしていたものを落とす、せっかく最後の卵なんかが買えたのにダメにしてしまう人が多かった。


 でも、見ていたナターシャが、何かしら代わりの物を手配するので、むしろ、相手からは逆にナターシャは間が良いみたいに思われてたと思う。

 

 学園で『昼飯の女神』なんてあだ名がついてしまったのもそのせい。

 ナターシャが困った人に融通しているのは、食べ物だけじゃないんだけど、王都民と違って、地方の平民には昼ご飯の習慣がないらしい。

 そのせいで、お弁当をあげる機会が激増しちゃったんだよね。


 ナターシャが普段連れてる侍女と侍従は、公爵様が、就職先がなくて困っているところを連れて来た下位貴族の方たち。学園に連れて来るためには別途申請が必要で、要は特権なんだけど、ナターシャが予備のお弁当や教材なんかを持たせているせいで、第一王子殿下の侍従とは大分雰囲気が違う。ナターシャは自分の教材は、自分で持ってるからね。

 侍従の人が「本当は護衛と兼任なのに、いざって時にこの荷物どうしよう……」と、ぼやいているのを聞いてしまったことがある。侍女の人も荷物一杯だしね。


 学園。そう、わたし頑張った。

 ナターシャを励ます唯一の方法として、ナターシャが通う学園に奨学生として、なんとか滑り込んだ。

 

 学園は、王族はじめ、貴族の子女が通うことになるほか、貴族の子女の半分くらいの数の平民が奨学生として通う。

 学園全体としては少なくない人数の奨学生だが、非常に狭き門だ。

 奨学生になるには、まず、その地方の領主の推薦が必要になる。

 奨学生になった後は、学費は国から出るが、生活費が推薦した領主持ちになるから、そんな簡単にもらえるものではない。

 それに、推薦があっても、入試を受けるから、その成績が悪いと、推薦した領主が恥をかくことになる。

 推薦を手に入れる手段は、それぞれの地方で様々らしいが、大体は王領と同じく、学園の入試水準に合わせて筆記試験が行われる。

 わたしは、家が裕福で王都住まいだったから、この選抜の、生活費を自分で賄う組で枠を勝ち取ることができたのだった。


 ナターシャがすごく喜んでくれて、やっと少し気力を取り戻してくれたみたいだったから、正直死ぬかと思うほどしんどかったが、頑張って良かったと思う。


 とは言え、学園では思ったほどナターシャには会えなかった。


 学園の教室は、王族から子爵家の子女までの教室、男爵家と平民の奨学生の教室に分かれている。

 ちなみに、子爵家は、本人と家の希望で、男爵家と同じ教室に振り分けられることも可能。学費が大分安くすむらしい。


 厳しい試練を乗り越えてやってきた平民を、貴族の横暴から守るために色々配慮されてて、王族と貴族にのみ適用される校則もある。

 

 学園に通う貴族(王族含む、以下、貴族の表現には王族を含む)は、学園に通う平民に命令しない。

 貴族は、平民に暴力を振るわない。

 貴族は、平民から物品をもらわない。

 休憩の時間では、原則、貴族は、貴族専用の区画を使用する。


 大まかにはこんな感じ。

 つまり、ナターシャとは、原則的には、お昼を一緒にできない。


 それでも、会えないわけじゃなかったし、学園の許可が必要で、いつも出来るわけじゃないけど、時々はお昼を一緒にしたり、こうして一緒の馬車で帰ったりできる。

 あ、生活費が領主持ちの生徒は、学園の寮に住んでいるので、外出許可が必要だよ。


「ただいま帰りました」

「お邪魔いたします」

「お帰りなさい、ナターシャ。いらっしゃいオルガちゃん」

「お帰りなさい二人とも、お邪魔してます」


 マキシム様だ。

 学園を卒業後、宮廷魔術師として働き始めた。

 闇属性と言われていたものが、実は全属性のことで、そのあまりに強い魔力が青い色となって、髪や瞳に滲み出していた、という研究結果を発表し、世界に衝撃を与えた。

 宮廷魔術師の一人ではあるが、王家ですら、一目置かざるを得ない人物になっている


 あと、実家から冷遇疑惑があったけど、違ったらしい。

 わたしたちに会うもっと前は、黒目黒髪だけど、まだ青くなかったんだって。

 それで、あげられる爵位のない五男で、どうせ平民になるなら、貴族に珍しい黒目黒髪で苦労するよりも、最初から、領地の平民に近いところで育った方がいいってことで、領地にいたらしい。

 ところが、だんだん、髪も目も青っぽくなってきちゃって、魔王の迷信の強い地方にはおいておけなくて、タウンハウスに連れてこられたんだそうな。


 こうして時々は、ナターシャに会いに来ている。

 いいのか?と思わなくもないが、家族や使用人以外の外部の人間も立ち会っている、ロフスカヤ公爵家に用事があった、という条件を満たした上で来ているとの事。

 無理矢理婚約しておいて、婚約者の義務を一切果たしてこない第一王子殿下側に文句を言われる筋合いはないって感じらしい。

 それに、婚約自体、側妃様の勇み足だったのか、妃教育に関する話が王家から来ていないらしい。

 

 ナターシャに言って、ぬか喜びさせるのは可哀そうだから、言ってないけど、公爵夫人とダニエル様、そして当のマキシム様は、まだ諦めていない。



 それから数か月後、えっらい事件が起きた。


 こないだ、平民の奨学生で、光属性でピンクブロンドのミラーナちゃんが、ナターシャにお弁当もらって、感極まって泣き出したことがあったんだけど、それが、第一王子殿下には、何だか間違った感じで届いちゃったらしい。


 いきなり平民がいる教室にやって来て、ミラーナちゃんを、ゾッとするほどいやらしい目で見た後、「お前がミラーナか?」と言って確認すると、「来い」と言って、ミラーナちゃんの腕を掴んで立ち去って行ってしまった。


「学園の教師の方に知らせないと……」

 こちらの教室にいるたった一人の子爵家の人が立ち上がったのを見て、咄嗟に

「わたしが行きます。教師の方は、平民にも丁寧にしてくださいますから、平民のわたしでも平気です」というと、言外の意味が伝わったらしく、蒼白な顔になってしまったが

「では、私は王子殿下を追います」と言ってくれた。 

 男爵家の人が「皆で行きましょう」と言っているのを聞きながら、教師の待機室に急いだ。


 教師を連れて、騒動の場所にやってくると(王子がどこ行ったか分かんなかったから、来るのに時間かかっちゃった)貴族の上級生の方たちが王子を押さえつけていた。

 最上級生の侯爵令息が、すっと進み出てきて

「先ほど、ミハイル第一王子殿下が、ナターシャ・ロフスカヤ公爵令嬢に婚約撤回を求められました。ナターシャ・ロフスカヤ公爵令嬢がこれを了承されまして、求められた手続きのため早退されました。

 ミハイル第一王子殿下はそちらの平民の方に、暴力を振るっておられましたので、それ以上の暴力を防ぐために、拘束させていただいております」


 ……なんか色々もう終わってるなぁ。

 わたし、肝心な場面に居損ねたかも。


 後から聞いたところによると、ミラーナちゃんを引きずって中庭に着いた王子は、あらかじめ呼び出していたナターシャが来るなり、平民を泣かせたとして、婚約破棄を突き付けたらしい。

 あの王子、頭悪かったんだな。

 婚約の白紙撤回として了承し、手続きのため早退しようとするナターシャを追いかけようとしたらしいが、結局全員で追って来た教室の皆が、間に割って入って、かなりな騒動になっていたところを、高位貴族の方々がいらして、事態の収拾にあたってくれていたとの事。

 

 王子が婚約の白紙撤回を求めてくれたということで、ロフスカヤ公爵家では、嬉々として、婚約撤回、ナターシャとマキシム様との正式婚約が行われた。

 一日もかけずに手続き終了までもっていったらしく、翌日、大喜びのナターシャが、わたしに抱き着きながら報告してくれた。

 間に割って入っていた平民の皆を心配していたので、今日だけならいいかなと思って、教室に連れて行った。ミラーナちゃんとも仲良くなっていた。……うん、そう、ナターシャはちょっと変わってるんだ。


 王子はあれから、学園に来ていない。

 学園からは注意のみの処分と聞いたが、社会的地位が死んだからね。


 でも、このまま大人しくしてるのが身のためだと思う。


 公爵様とナターシャは底抜けのお人好しだから、何もしないと思うけど、公爵夫人とダニエル様、そしてマキシム様は違う。

 あの三人の誰か一人でも敵に回しただけで詰んでると思うけど、ナターシャに危害を加えようとするなら、一度死ぬくらいじゃ許してもらえないと思う。

 まぁ、そうなっても同情出来ないけど。



 後日、ダメだった、としか……。

読んで下さってありがとうございます。


最も望まれているであろう、ナターシャとマキシムの恋模様や、ざまぁがパセリ扱いで、申し訳ございません。


もともと、前作は、続きなどを全く考えていなかった作品でした。

学園の設定と兄が変人ぽいくらいしか、書いてないことは無いよね~と思いながら、何かひねり出そうとしたら、オルガが出てきました。

最初に思いついたオルガが、学園の入試に落ちていたので、ナターシャが可哀そうすぎて、拾いましたが、肝心のシーンに遅刻することになりました。


少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


マキシム視点を作成中です。

オルガはのほほんとした平民なので、オルガ視点は100%真実とは限らない設定になっています。

具体的には「大丈夫だったよ」と言われたら、「そうなんだ!」とオルガは思ってるけど、

「(大丈夫じゃないこところもあるけど)大丈夫だったよ(と言っておこう)」みたいなこともありますよ、という感じです。

あと、大雑把なところもあるので、ナターシャ達が金髪金目→ナターシャとダニエルのことじゃなくて、ナターシャとナターシャ父のこと、だったり、みたいなところがあります。

すみません。

マキシム視点では、そういう甘いところは無くなってる予定です。


マキシム視点を投稿しました。


よろしければ、読んでみて下さい。

https://ncode.syosetu.com/n0039ic/

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