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9話 墳進弾

 B-29が飛行場にこしらえた爆弾により、滑走路と誘導路に大穴が開けられ、二時間もの間空に上がることができなくなった。

 その間はゆきのロッテしか空中におらず、相手の跳梁を許してしまうだろう。


「どうにかして離陸できないか? 滑走路が全部使えなくても、離陸滑走距離の短い零戦なら離陸できるかもしれない」

『そんな無茶だ! 奴ら滑走路を切るようにして爆撃しやがった。一番距離が取れるところでも四百メートルもないぞ!』


 無風状態で零戦が浮き上がるまでに必要な距離は約二百メートル。しかし、翼下に対空ロケットをぶら下げている状況では、更に離陸に必要な距離は伸びるだろう。


『飛行場整備班の連中には、大急ぎで一つの穴を埋めるように伝えてある。それが埋まったら離陸できるはずだ』


 土煙が未だ薄っすらと残っている滑走路上には、既に飛行場整備班が作業を開始しているのが見えた。

 リアカーや猫車をフルに使って作業しているが、ここから破片の除去、爆弾穴の埋め立て、転圧としなければならないので、まだまだ時間はかかるだろう。


 バラッバラッバララババババラバババババババ


 突如、飛行場内にエンジンが始動する音が響き渡る。

 音の出所では、P-51マスタングがエンジンを唸らせ、タキシングを開始していた。


「なんだ? 滑走路は使えないのに、何をする気なんだ?」


 生じた俺の疑問は、すぐに晴れることになった。


 バラッバララババババラババババババ


 駐機場に並んでいた、バッテリーからの電力でエンジン始動可能な他の機もエンジンを始動させ、それぞれ地上を移動していく。


 最後の一機が移動を終えると、駐機場に一本のまっすぐな道ができていた。

 この飛行場に集まっていたプレイヤー達が、自分の飛行機をわざわざ移動させ、俺たちの為に道を開けてくれたのだ。

 離着陸に使う想定はしていない場所なので、路面の凹凸はあるが、離陸できない程ではない。


「三号爆弾の搭載完了しました!」


 なんともタイミングのいいことに、ロケットの装備も同時に終わったようだ。


「ありがとう。せっかく装備してもらった三号爆弾、きっちり当ててくるぞ」

「ええ、飛行場を穴ぼこにした連中に、目に物見せてやってください!」


 キャノピーを閉じると、整備員が翼から飛び降りた。

 駐機場に切り開かれた滑走路に正対する。


「つばきも装備終わったな? さぁ、行くぞ!」

『了解!』


 トルクで機体が左右に逸れないように、ゆっくりエンジンの回転数を上げて離陸滑走を開始する。

 尾輪式で機首が上がって真っ正面が見えないので、横の景色を見て真っすぐ走らせるのだが、横にはこちらに手を振るパイロット達が並んでいた。


 翼の発生する揚力が機体重量に勝り、俺の零戦は自然と宙に浮かび上がった。

 左旋回をして飛行場上空を旋回すると、つばきも離陸を開始し、危なげなく大空に舞い上がる。


「ゆき、こちらつるぎ、離陸した。相手の位置を教えてくれ」

『飛行場の南西十五マイル、高度五千、二百ノットで飛行場を中心に大きく時計回りに周回してる』

「了解、先回りしてインターセプトする。襲撃するときは一緒にかかるぞ」


 太ももに装着したニーボードという板に挟んでいる地図を見て、どの方向に飛べば先回りできるのか計算する。

 ええと半径十五マイルの円で旋回してるんだから…… こちらも二百ノットで少し西寄りの南方向に飛んでいけば会敵できるな。

 巡航速度を無視してかっ飛ばす。


 三分ほど真っすぐ飛行したところで、左前に複数の機影が見えた。

 大きな四つの機影と、その上に小さな二つの機影がある。下がB-29の野郎だな。


「一気に仕掛けるぞ。ゆき、あの銃座相手でも避けられるか?」

『十秒間だけなら避けれる』

「それだけあれば十分だ、頼むぞ。まず、俺とつばきが正面上方からロケットで仕掛ける。敵の編隊が崩れたら、ゆきに敵の銃座の気を引いてもらう。その間に、三人で全方位から攻撃するぞ」


 翼を左右に振り、後ろについてきているつばきに合図を送る。

 B-29の正面上方の位置から、背面になって急降下を開始する。


「ロケットは距離感が難しい、発射のタイミングはこちらで合図する!」

『わかった! いつでも発射できるよ!』


 ファァァァアアアアアアンン


 風切り音がサイレンのような甲高い音を奏でる。

 眼前に映るB-29の形は急速に大きくなっていくが、サイズが桁違いに大きいので、距離感が掴みにくい。


「このままこのまま…… いいよ、もう少し…… まだだ、まだまだ……」


 翼下に懸架された三式六番二七号爆弾が、発射の時を今か今かと待っている。


「てぇぇぇぇぇぇ!!」


 シュゥ


 左右から同時に、ロケットが白い尾を引きながら飛翔していく。


 ボオォン


 B-29の正面上方で炸裂して、中に搭載された子弾がタコの足のように白い煙を引き、散らばってB-29の編隊に襲い掛かる。

 エンジンが子弾を吸い込んだ二機のB-29が、エンジンから大爆発を起こして墜落していった。


 三式六番二七号爆弾がばら撒く子弾は、金属と化学反応で発火するように作られている。

 これをエンジンが吸い込むと、途端に燃料に着火して大爆発を起こすのだ。


「二機やった! このまま一気に攻め立てる! やれ、ゆき!」

『任せられた』


 上空で待機していたゆきの零戦が、一気に急降下してB-29に近接する。


「相手の注意はゆきに向くはずだ。上下から挟んで攻撃するぞ。俺は下、つばきとさばせが上からかかれ!」


 急降下で得た勢いをそのままに、下方から突き上げるようにして機体前方に照準をつける。

 狙いは操縦席だ。

 どれだけ堅牢な機体であろうとも、操縦しているのは生身のパイロット。そこを潰してしまえば、コントロールを失った機体は墜落するだけ。


 ダダダダダダダダダダダダダダダッ


 随分と大きな的だ、射撃訓練に使ってた吹き流しよりも大きいな。こんなの外す方が難しい。

 同時に上からも二機の射撃が加えられ、滅多打ちにされたB-29は錐揉みに陥って落下していった。


『やった落ちた! あとひとつ!』

「一気に三機も落とされて、敵はよほどの混乱に陥っているはずだ。一気に車懸かりに攻め立てるぞ!」


 残ったB-29の上方に抜け、失速しないギリギリで反転する。

 次は上から降りかかるが、胴体上部に搭載された銃塔が俺に向いた。


「次の目標は俺か」


 攻撃を中止して、回避に専念する。

 火器管制装置付きのB-29の銃塔相手に真っすぐ逃げてもやられるだけなので、不規則に左右の捻りを入れて針路の予測を困難にさせる。


 シュシュシュシュシュシュ


 五十口径の弾が風切り音を立てて、俺のすぐそこを通り過ぎる。

 その間に三人が攻撃を加えてエンジンに火を吹かせたが、自動消火装置によって鎮火されてしまった。


『……私がやる』


 つばきと共同で攻撃を加えた後離脱していたさばせが、B-29の真後ろから攻撃を加えようとしている。

 真後ろからなら弱点を狙撃できるが…… あのままだとまずいな、後部銃座に撃たれちまう。


 B-29の真後ろに射撃する後部銃座は垂直尾翼付け根にあり、銃手は六十ミリの防弾ガラスで保護されている。

 この防弾ガラスは、零戦二一型の二十ミリの徹甲弾でも貫通できるかは微妙であり、真後ろから撃っても銃座を黙らせられるかは怪しい。


 だが、俺はさばせの攻撃を援護する為に、あの銃座を黙らせなければならない。


 ダダダダダダダダダダダダダッ


 いくら防弾ガラスで防御されているとはいえ、全周を防御できるわけではない。

 防弾の配置されていない、斜め前から撃ちこんでやった。

 すれ違いざまに後部銃座の様子を見たが、見事に内部で炸裂して銃座はミンチになっていた。


 防御砲火を受ける心配のなくなったさばせが射撃する。

 どうやら機体後部の昇降舵を狙っているようで、何発も撃ちこんで舵を二枚とも吹き飛ばしてしまった。


『……よし、撃破』


 動翼を吹き飛ばして、それ以上の攻撃は不要と判断したのか離脱していった。

 片翼をもぎ取った相手に全ての二十ミリを叩きこんで、オーバーキルをしていた頃と比べてずいぶんと成長したもんだ。


「あれではもう戦えないだろう。俺たちの勝ちだな」

『ああ…… 一つも落とせなかった』


 ゆきが残念そうな声で戦果なしを嘆いている。

 囮になって貰ってたからな…… 次は手柄を立ててやりたいが。


『よし、これであと一つだね!』

『……決勝戦』


 士気は十分。訓練を怠らなければ、決勝戦もきっと勝てるはずだ。

 レッドタイの名に懸けて、絶対に優勝に導いてやるぞ。

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