表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死刑執行人少女

死刑執行人少女 ~女子高生ひとりに負け殺された12人の男たち~

作者: E.C.ユーキ

 日差(ひざ)しも(かたむ)いてきた裏通(うらどお)りに、女子高生(じょしこうせい)()()った。

 (ひと)子一人(こひとり)いない晩秋(ばんしゅう)のシャッター(がい)()て、(はい)倉庫(そうこ)引戸(ひきど)(しき)大門(だいもん)()びきり、(ひと)一人(ひとり)(ぶん)ほど()いたままの隙間(すきま)から、(くろ)(かみ)がなびく(こん)ブレザーの少女(しょうじょ)(はい)っていく。(はい)倉庫(そうこ)(ない)、ほこりを(かぶ)った機械(きかい)(なら)(なか)()()じと(ある)きながら、たったひとりの少女(しょうじょ)(しず)かに(くち)(ひら)いた。

「あのう……ここに、(こま)っているおばあさんがいらっしゃるのですか?」

 ――少女(しょうじょ)(おとこ)たちに()れられていた。

 (まえ)一人(ひとり)(うし)ろに二人(ふたり)金髪(きんぱつ)やら茶髪(ちゃぱつ)やらのチャラチャラとした3(にん)(わか)(おとこ)たちは、少女(しょうじょ)()いに『まぁまぁ』とやんわり返答(へんとう)しながら、(おく)(おく)へと(あし)(すす)める。(おとこ)3(にん)女子高生(じょしこうせい)ひとり、4(にん)少女(しょうじょ)(なに)()(かえ)せないまま(ある)いているうちに、いよいよ目的(もくてき)()到着(とうちゃく)した。

 (はい)倉庫(そうこ)最奥(さいおう)()(はい)るなり、少女(しょうじょ)はきょとんと(おどろ)いた。

「え……?」



 少女(しょうじょ)出迎(でむか)えたのは――ダブルベッドだった。



 (はい)倉庫(そうこ)(おく)一角(いっかく)、わりかし(ととの)えられた空間(くうかん)中央(ちゅうおう)には、()ばんだ(しろ)のダブルベッドが()かれていた。そして、あちこちに山積(やまづ)みの廃棄(はいき)荷物(にもつ)(かげ)からは――ひとり、またひとりと、非行者(ひこうしゃ)(ぜん)とした(おとこ)たちが次々(つぎつぎ)(あらわ)れる。わらわらと(あつ)まってくる(おとこ)たち、少女(しょうじょ)(しき)りに(あた)りを見回(みまわ)すが、《(こま)っているおばあさん》などどこにもいないのは明白(めいはく)だった。

 ()がつけば少女(しょうじょ)は――12(にん)(おとこ)たちに(かこ)まれていた。

「そんな……。(わたし)をだましたのですか……?」

 (こえ)(ふる)わす少女(しょうじょ)(かた)に、(うし)ろから(おとこ)が、にたりと()()ばす。

「きゃっ! さわらないで!」

 か(ぼそ)悲鳴(ひめい)子犬(こいぬ)のように()をひねって()(はら)少女(しょうじょ)に、(おとこ)たちの下劣(げれつ)歓声(かんせい)()がった。少女(しょうじょ)はもう一度(いちど)ベッドを()ると、(まわ)りには一眼(いちがん)レフカメラに三脚(さんきゃく)()きのスマートフォン、レフ(ばん)などが(なら)んでいることに()がついた。

 少女(しょうじょ)は、ようやく理解(りかい)した。

(わたし)の……身体(からだ)目的(もくてき)だったのですね……」

 せせら(わら)(おとこ)たちの(なか)で、うつむき、ただ()()くすばかりの少女(しょうじょ)身体(からだ)を、ぎとぎとした視線(しせん)()(まわ)す。



 ――女子高生(じょしこうせい)の、ぷりぷりの女体(にょたい)を、視姦(しかん)する。



 あどけない顔立(かおだ)ち、サラサラと(なが)れた(くろ)(なが)つや(かみ)

 名門校(めいもんこう)校章(こうしょう)(ひか)る、小皺(こじわ)ひとつない紺色(こんいろ)ブレザー。

 角襟(かくえり)(しろ)ブラウスはしっかり第一(だいいち)ボタンまで()めて。

 ()()大房(おおふさ)なリボンが(むね)(かざ)り、その(した)では――

 ――ふっくらと、メロン(だい)ふたつを制服(せいふく)(おお)(かく)す。

 赤茶(あかちゃ)チェックのスカートは、膝上(ひざうえ)10㎝のややミニ(たけ)

 その(なか)から、生脚(なまあし)のふとももをむっちりと(のぞ)かせて。

 ふくらはぎは、紺色(こんいろ)のハイソックスが、ぴっちりと。

 (ちい)さな(あし)には、つや(びか)黒革(くろかわ)のローファーを()いて。

 (おな)じく黒革(くろかわ)のスクールバッグを、片肘(かたひじ)(みやび)()けて。



 ――青春(せいしゅん)憧憬(しょうけい)(はかな)げに()一輪花(いちりんか)のような女子高生(じょしこうせい)。それを(おとこ)たちは()って(たか)って包囲(ほうい)して、ねっとりと、隅々(すみずみ)まで()(なぶ)る。四方八方(しほうはっぽう)からの下劣(げれつ)視線(しせん)(かこ)まれる(なか)で、少女(しょうじょ)はただ()()くすばかりだった。うつむき、胸元(むなもと)()えられた()(にぎ)られ、小刻(こきざ)みに(ふる)えていた。

 しかし、少女(しょうじょ)(ふる)える(かた)へと、一人(ひとり)(おとこ)()()ばした瞬間(しゅんかん)だった。

 《一本背負投(いっぽんぜおいなげ)》。――少女(しょうじょ)が、(おとこ)()げたのだ。

 見事(みごと)早技(はやわざ)だった。少女(しょうじょ)はバッグを(はな)すと同時(どうじ)(おとこ)片腕(かたうで)をとり、(おとこ)(ふところ)()から(はい)()むと、赤茶(あかちゃ)チェックのスカートのお(しり)をぷりっと()()し、背負(せお)()かせた。(おとこ)のもがく両足(りょうあし)(たか)らかに(てん)通過(つうか)していき、そのままコンクリートの(ゆか)にビタンと背中(せなか)から(たた)きつけられ、さらには(おとこ)(むね)少女(しょうじょ)(たお)()んで()て、(おとこ)少女(しょうじょ)(ゆか)にサンドイッチにされた。

 (おも)わぬ余興(よきょう)開幕(かいまく)に、倉庫(そうこ)(ない)悪辣(あくらつ)歓声(かんせい)()()つ。女子高生(じょしこうせい)にくるりと背負(せお)()げられた(おとこ)は、(いま)なお少女(しょうじょ)上体(じょうたい)下敷(したじ)きにされたまま、(はい)空気(くうき)をすべて(うしな)ったみじんこのようなむせ(こえ)()げている。自分(じぶん)よりも身体(からだ)(ちい)さな少女(しょうじょ)にまんまと醜態(しゅうたい)(さら)された(おろ)(もの)に、(まわ)りの(おとこ)たちは()(たた)いて嘲笑(ちょうしょう)歓声(かんせい)(おく)った。

 歓声(かんせい)(なか)突如(とつじょ)――(にぶ)(おと)がひとつ、不気味(ぶきみ)(ひび)く。

 一転(いってん)して(はい)倉庫(そうこ)(ない)(しず)まり(かえ)った。()()れない不審(ふしん)(おん)一同(いちどう)視線(しせん)は、(うえ)(かぶ)さった少女(しょうじょ)下敷(したじ)きの(おとこ)へと(あつ)まる。少女(しょうじょ)(なん)なく()()がったが、(おとこ)仰向(あおむ)けに(たお)れたまま()()がらない。むせ(ごえ)()まった。不穏(ふおん)空気(くうき)(ただよ)(なか)一同(いちどう)(おとこ)凝視(ぎょうし)した。



 ――(おとこ)(くび)が、真後(まうし)ろにまで()がっている。



 ()がり()ない角度(かくど)まで(くび)()がった状態(じょうたい)で、(おとこ)仰向(あおむ)けに(たお)れていた。――少女(しょうじょ)仕業(しわざ)だ。一本背負投(いっぽんぜおいなげ)(かたち)二人(ふたり)ごと(たお)()んだ(あと)歓声(かんせい)()がったと同時(どうじ)に、少女(しょうじょ)(なが)れるように(おとこ)(あたま)小脇(こわき)(かか)()み、一瞬(いっしゅん)体重(たいじゅう)をかけて()()ったのだ。

 (くび)()られた(おとこ)は、()見開(みひら)き、手足(てあし)痙攣(けいれん)させ、(あわ)()き、(しり)(した)にみずたまりを(ひろ)げながら、だんだんと(うご)かなくなっていき――ついに、こと()れた。それを少女(しょうじょ)()ったまま、(あわ)れむような表情(ひょうじょう)見下(みお)ろしていた。

 (まわ)りの(おとこ)たちは、一斉(いっせい)身構(みがま)えた。

 一気(いっき)(はい)倉庫(そうこ)(ない)緊迫(きんぱく)する。(おとこ)たち12(にん)一人(ひとり)がやられて完全(かんぜん)戦闘(せんとう)態勢(たいせい)の11(にん)が、仲間(なかま)(かたき)包囲(ほうい)する。()()めた空気(くうき)一帯(いったい)沈黙(ちんもく)(やぶ)ったのは少女(しょうじょ)だった。猛烈(もうれつ)敵意(てきい)(かこ)われる(なか)少女(しょうじょ)(かお)をうつむけたまま、(かな)しい表情(ひょうじょう)でつぶやいた。

(ほか)(おんな)()たちのためにも、やむを()ません……」

 少女(しょうじょ)(かお)()げると、かわいらしい(かお)凛々(りり)しく()()め、真摯(しんし)眼差(まなざ)しで(おとこ)たちを見据(みす)える。そして、やわらかな(こえ)で、しかしどこまでも(つめ)たい声色(こわいろ)で、少女(しょうじょ)(おとこ)たちに()(はな)った。




「あなたたちを――断罪(だんざい)します」




 女子高生(じょしこうせい)ひとりと、(おとこ)12人組(にんぐみ)との戦闘(せんとう)(はじ)まった。

 斜陽(しゃよう)()(はい)倉庫(そうこ)鈍色(にびいろ)戦場(せんじょう)支配(しはい)したのは――女子高生(じょしこうせい)だった。

 《女子高生(じょしこうせい)のハイキック乱舞(らんぶ)》。次々(つぎつぎ)(おそ)いかかってくる(おとこ)たちを、少女(しょうじょ)(みずか)らの(あし)(たか)()げて、()(まわ)し、()()ばし、()(かえ)す。ときには片足(かたあし)完全(かんぜん)真上(まうえ)まで()げて、両脚(りょうあし)縦一本(たていっぽん)Ⅰ字(あいじ)(えが)くほどの自在(じざい)(あし)さばきを()せ、縦横無尽(じゅうおうむじん)戦場(せんじょう)()(おど)る。

 (おとこ)たちは少女(しょうじょ)()められない。(つづ)(ざま)()()(おとこ)たちの(こぶし)は、少女(しょうじょ)にひらりと()をひねってかわされ、一発(いっぱつ)()たらない。それどころか、お(かえ)しの()りで――(むち)のようにスナップの()いたハイキックで、次々(つぎつぎ)(おとこ)たちは(はな)(つぶ)される。

 強烈(きょうれつ)なハイキックだ。赤茶(あかちゃ)チェックのスカートの(なか)から()()げられる、肉付(にくづ)きたっぷりのふともも、その(おも)みを存分(ぞんぶん)()せた()りは、(だい)(おとこ)をもとんぼ(がえ)りに()()ばす。スクールローファーがもろに側頭(そくとう)(はい)ったときには、(きた)()げた身体(からだ)(おとこ)ですら千鳥足(ちどりあし)によろけさせる。そうして(おとこ)(あたま)()がったところを、少女(しょうじょ)細腕(ほそうで)でしなやかに()()めて――

 ――ブレザーの小脇(こわき)のギロチンで、処刑(しょけい)する。

 《女子高生(じょしこうせい)による死刑(しけい)執行(しっこう)》。ハイキックに()(つぶ)された(おとこ)を、少女(しょうじょ)(たが)いの身体(からだ)対面(たいめん)したまま、(おとこ)()がった後頭部(こうとうぶ)片脇(かたわき)(した)(はさ)()み、両腕(りょううで)をハイエルボーギロチンの(かたち)()()げる。(はさ)()んだ(ほう)(うで)()()いた()でつかみ、手首(てくび)(おとこ)顎下(あごした)圧迫(あっぱく)しながら、(ひじ)(たか)()げるようにしてギロチンを()むのだ。

 少女(しょうじょ)のギロチンにはめられてしまったら、もう()()せない。少女(しょうじょ)手首(てくび)顎下(あごした)()()み、あわあわと(もだ)えることしかできない(おとこ)を、少女(しょうじょ)躊躇(ちゅうちょ)なく(うわ)(ひじ)()()げて――(くび)()()る。少女(しょうじょ)細腕(ほそうで)であっても、てこを()かせればなんてことはない。(おとこ)(ふと)ましい(くび)が、まるで小枝(こえだ)のように()れてしまった。

 当然(とうぜん)(ほか)(おとこ)たちは間髪(かんぱつ)()れずに(なぐ)りかかった。しかし少女(しょうじょ)のあまりもの手際(てぎわ)()執行(しっこう)に、()()わなかった。(ぎゃく)に、(つぎ)(くび)()られるだけだった。

 少女(しょうじょ)足元(あしもと)には、(はじ)めの一人(ひとり)(ほか)に、(はや)くも追加(ついか)二人(ふたり)(ころ)がった。

 (おとこ)3(にん)死体(したい)足元(あしもと)に、少女(しょうじょ)毅然(きぜん)()(はな)つ。

「さあ、(つぎ)はどなたですか?」

 (おとこ)たちの攻撃(こうげき)()まっていた。包囲(ほうい)する(おとこ)たちは(みな)、ますます身構(みがま)えるばかりで、(うご)かなくなっていた。

 膠着(こうちゃく)状態(じょうたい)(なか)(おとこ)たちは仲間(なかま)同士(どうし)視線(しせん)(おく)()うと、ようやく行動(こうどう)(うつ)した。4(にん)(おとこ)(あゆ)()て、少女(しょうじょ)四方(しほう)(ふさ)()む。その様子(ようす)少女(しょうじょ)は、はぁ、とひとつため(いき)をついた。

一人(ひとり)では(かな)いませんか? いいですよ。まとめていらっしゃい」

 ――少女(しょうじょ)(いきお)いは()まらない。

 4(たい)1、数的(すうてき)不利(ふり)などものともせず、少女(しょうじょ)(おとこ)たちを翻弄(ほんろう)する。同時(どうじ)攻撃(こうげき)仕掛(しか)けようとする(おとこ)たちに(たい)して、少女(しょうじょ)はそのうちの一人(ひとり)へと距離(きょり)()めて、(かなら)ず1(たい)1の状況(じょうきょう)(つく)るのだ。左右(さゆう)(あし)存分(ぞんぶん)()(まわ)しては、(うで)をとって一本背負投(いっぽんぜおいなげ)と、(おとこ)たちは次々(つぎつぎ)(かえ)()ちにされる。そして一瞬(いっしゅん)でも(おとこ)たちが攻撃(こうげき)途切(とぎ)れさせたら――手近(てぢか)(もの)からギロチンに(しょ)される。4(にん)同時(どうじ)(おそ)いかかっても、少女(しょうじょ)(ゆび)ひとつ()れられなかった。

 4(にん)(おとこ)は、(またた)()全滅(ぜんめつ)させられてしまった。

 4(にん)のうち3(にん)がギロチンに(しょ)され、最後(さいご)一人(ひとり)もハイキックをもろに顔面(がんめん)()らい、意識朦朧(いしきもうろう)(ひざ)から(くず)()ちる。しかし身体(からだ)(たお)れずに()んだ。



 ――少女(しょうじょ)が、(おとこ)前髪(まえがみ)をつかんだからだ。



 少女(しょうじょ)包囲(ほうい)する(おとこ)たちに()けて、(ちい)さな()(かみ)(にぎ)られた仲間(なかま)姿(すがた)が、まじまじと()せつけられる。(はな)(つぶ)れて()がり、()(なが)し、()焦点(しょうてん)()っておらず、(かみ)(にぎ)った少女(しょうじょ)()(うご)きに()わせて、(こえ)にならないうめき(こえ)()げるばかりである。少女(しょうじょ)(たて)にされる仲間(なかま)(まえ)にして、(のこ)りの(おとこ)たちは(かた)まってしまった。少女(しょうじょ)はそんな(おとこ)たちに()かって、(むね)()り、淡々(たんたん)()いかける。

「どうしたのですか? (おんな)()ひとりが、(こわ)いのですか?」

 (おとこ)たちは、()ぎしりをするばかりで(うご)かない。そうこうしているうちも、少女(しょうじょ)()らえた(おとこ)(かみ)をきゅっと(にぎ)()め、()っぱり(まわ)して(たて)にし、全方位(ぜんほうい)警戒(けいかい)する。仲間(なかま)()だらけの(かお)が、自分(じぶん)たちの未来(みらい)とばかりに()せつけられる(なか)(おとこ)たちは(たが)いに()合図(あいず)(おく)()い、やっとのことで行動(こうどう)()た。

 (おとこ)たちは一斉(いっせい)に――少女(しょうじょ)()()け、(はし)()した。

 少女(しょうじょ)()らわれた仲間(なかま)見捨(みす)て、個々人(ここじん)一目散(いちもくさん)別々(べつべつ)裏口(うらぐち)へと()かう。そんな(おとこ)たちを()ながら、少女(しょうじょ)はまたひとつ、ため(いき)をついた。そして、右手(みぎて)はくびれた(こし)悠々(ゆうゆう)(こう)をあてて、左手(ひだりて)意識朦朧(いしきもうろう)(おとこ)(かみ)一段(いちだん)(たか)くにつかみ()げる。

 猫背(ねこぜ)()けて(はし)(おとこ)たちに、少女(しょうじょ)朗々(ろうろう)()(はな)った。



()げるのですか? (おとこ)(ひと)が? たったひとりの(おんな)()相手(あいて)に? ――そうですよね。そうやってこれまで()きてこられたのですものね。()けそうになったら()げて、失敗(しっぱい)しそうになったら()げて。(いや)なことからも()げて、社会(しゃかい)からも()げて。()げて()げて、()(つづ)けて()人生(じんせい)ですものね。――あなたたち、(おとこ)()でしょう? おちんちんついているのでしょう? たまには根性(こんじょう)()せたらいかがですか? 今度(こんど)(おんな)()からも()げるのですか? (すこ)(つよ)そうだと(おも)ったら()げるのですか? どうやら(おお)きいのは身体(からだ)だけのようですね。――いいですよ。お()げなさい。()(いぬ)さん。()(いぬ)なら()(いぬ)らしく、きゃんとないてごらんなさいな。たったひとりの(おんな)()相手(あいて)に、こんなに(おお)きな身体(からだ)男性(だんせい)何人(なんにん)()って(たか)って、なのにかんたんに(かえ)()ちにされて。その(うえ)しっぽを()いて()げるなんて……あなたたち、いったい(なに)ならできるの? (おんな)()にすら()かされて()げたあなたたちを、いったい(だれ)必要(ひつよう)とするの? (いま)(わたし)からは()()びたところで、このことを綺麗(きれい)さっぱり(わす)れられるのですか? (おも)()はあなたたちを、どこまでも()いかけ(まわ)すのですよ? それでもいいというのなら、どうぞお()げなさい。(だれ)にも()えないまま、(なに)()()せないまま、今日(きょう)出来事(できごと)一生(いっしょう)()やみながら、社会(しゃかい)(すみ)っこで()(つづ)けなさい」



 逃走(とうそう)する(おとこ)たちは、(みな)(あし)()めていた。

 少女(しょうじょ)(りん)とした論説(ろんぜつ)は、(はい)倉庫(そうこ)(ない)だけにとどまらず、(おとこ)たちの(しん)にまで(ひび)(わた)った。

 ()()せて()()した5(にん)(おとこ)たちが(みな)少女(しょうじょ)(まわ)りへと、(あふ)()闘志(とうし)()()げて(もど)っていく。少女(しょうじょ)(かみ)(つか)まれていた(おとこ)も、ようやく意識(いしき)(もど)りはじめる。少女(しょうじょ)(にぎ)(こぶし)を、気迫(きはく)(みずか)(かみ)()()いて()りほどき、戦線(せんせん)復帰(ふっき)した。

 12(にん)いた(おとこ)たちは、(すで)半数(はんすう)の6(にん)となった。6(にん)死体(したい)(ころ)がる(なか)に、ひとり()少女(しょうじょ)、さらにその(まわ)りを6(にん)(おとこ)たちが、(ふたた)完全(かんぜん)包囲(ほうい)した。



 ――女子高生(じょしこうせい)の、(はな)らかな独壇場(どくだんじょう)(はじ)まる。



 (はい)倉庫(そうこ)灰色(はいいろ)にふわりと()いた、少女(しょうじょ)一輪花(いちりんか)(こん)ブレザーの女子高生(じょしこうせい)が、()()げて、(あし)()げて、縦横無尽(じゅうおうむじん)躍動(やくどう)する。バレリーナのようにくるくると(まわ)っては、赤茶(あかちゃ)チェックのスカートのひだを目一杯(めいっぱい)(ひろ)げて。(ちい)さな両手(りょうて)でたおたおとバランスを()っては、(くろ)(なが)御髪(みぐし)をサラサラとおどらせて。ひらひらと。ゆらゆらと。少女(しょうじょ)(なが)れるように()(おど)りながら――

 ――(おとこ)たちを、()(なぶ)る。

 むちむちのふとももから()()される、強烈(きょうれつ)()りの数々(かずかず)が、(おとこ)たちを蹂躙(じゅうりん)する。たっぷりと贅肉(ぜいにく)()ったふとももが、スクールローファーの()りに(おも)みを(あた)え、(おとこ)たちをとんぼ(がえ)りに()()ばす。

 (おとこ)たちの攻撃(こうげき)は、まったく少女(しょうじょ)()たらない。(さき)の6(にん)以上(いじょう)大振(おおぶ)りで力任(ちからまか)せな(こぶし)は、ひらりひらりと少女(しょうじょ)にかわされ、(ぎゃく)()りのフルコースを()()われる。

 ――たちまち少女(しょうじょ)に、サンドバッグにされる。

 少女(しょうじょ)()()多彩(たさい)()り、そのすべてが(おとこ)身体(からだ)へクリーンヒットする。必死(ひっし)にガードを(かた)めても意味(いみ)がない。(あたま)へ、脇腹(わきばら)へ、(あし)へ、(あご)へ――少女(しょうじょ)()りは変幻(へんげん)自在(じざい)だ。(おとこ)たちを(もてあそ)ぶように軌道(きどう)()えて、いとも簡単(かんたん)にガードをすり()ける。(あし)()るがせ、五臓(ごぞう)()さぶり、(のう)()るがし、なおも少女(しょうじょ)生脚(なまあし)(なぶ)(つづ)ける。まるでサンドバッグへ()()けるような、ズドン、ズドンと打撃(だげき)(おん)()(つづ)けに(ひび)く。(むち)のようにしなる()りの、(はな)らかな(あらし)、それを全身(ぜんしん)をもって堪能(たんのう)させられる。そしていよいよ()めくくりには――

 ――ぷりぷりの(ちち)のとなりへ、ギロチン(だい)へとはめ()まれる。

 少女(しょうじょ)(まえ)()(まる)くしたら最後(さいご)()がった頭部(とうぶ)をブレザーの小脇(こわき)(かか)()まれる。当然(とうぜん)(おとこ)()物狂(ものぐる)いで(あば)れるが、ギロチン(だい)にはめ()まれてしまってからではもう(おそ)い。(うで)っぷしに自信(じしん)のある(おとこ)であっても、()りのフルコースを堪能(たんのう)させられた(あと)では、赤子(あかご)同然(どうぜん)である。五臓六腑(ごぞうろっぷ)()()まれ、(くび)関節(かんせつ)まで()められたら、もう(うご)けない。少女(しょうじょ)細腕(ほそうで)なのに()りほどけない。さらには、(ほお)()()てられたブレザー()しの(むね)が、メロン(だい)乳房(ちぶさ)までもが、むにっと変形(へんけい)し、頭部(とうぶ)隙間(すきま)なくホールドしてくる。そして――

 (ほお)(ちち)圧迫(あっぱく)されたまま、(けい)執行(しっこう)されるのだ。

 あわあわともがくばかりの(おとこ)(くび)が、少女(しょうじょ)細腕(ほそうで)乳房(ちぶさ)によって、()がらない方向(ほうこう)無理矢理(むりやり)()げられる。すると(おとこ)は、四肢(しし)感覚(かんかく)途絶(とだ)えるのはもちろん、呼吸(こきゅう)すらもできなくなって、だんだんと意識(いしき)(とお)のいていく。やがてコンクリートの(つめ)たい(ゆか)糞尿(ふんにょう)をまき()らしながら、(ほお)(のこ)ったやわらかな(ぬく)もりを(こい)しがりつつ――(なが)(ねむ)りにつかされる。

 それでも(おとこ)たちは、少女(しょうじょ)()()かう。

 ()られても、()げられても、(あきら)めない。(はな)(つぶ)されても、()(うえ)(あお)コブを(つく)られても、()()がる。(うで)(ほね)()られても、()(まえ)仲間(なかま)(くび)()()られても、()()かい(つづ)ける。

 当初(とうしょ)目的(もくてき)などどうでもいい。これまでに(つちか)ってきた(おとこ)たちの(しん)を、(おとこ)(おとこ)であるための最後(さいご)(とりで)を、この少女(しょうじょ)()みにじったのだ。そして(いま)なお、飄々(ひょうひょう)()みにじり(つづ)けているのだ。そんな(おんな)を、(めす)を、このままにしてはおけない。(おとこ)たちは、(おとこ)(てき)に、共通(きょうつう)(てき)()()かう。しかし――

 また一人(ひとり)、また一人(ひとり)と、(おとこ)たちは少女(しょうじょ)(ころ)されていく。



 ――ぷりぷりと、女肉(にょにく)に、(なぶ)(ごろ)されていく。



 鈍色(にびいろ)(はい)倉庫(そうこ)()(ひろ)げられる、女肉(にょにく)おどる殺戮(さつりく)(げき)。バチン、バチンと強打(きょうだ)(おん)(ひび)かせながら、少女(しょうじょ)(おとこ)たちを(あし)()りにし、サンドバッグにする。(くろ)(びか)るスクールローファーを(あたま)(うえ)にまで()げて、赤茶(あかちゃ)チェックのスカートの(すそ)をめくれ()がらせて、二本(にほん)(あし)をぶるんぶるんと大振(おおぶ)りに()(まわ)す。()(しろ)(はだ)のふともも、(まる)みを()びた輪郭(りんかく)滋養(じよう)たっぷりに肉付(にくづ)いた少女(しょうじょ)生脚(なまあし)。それで(むち)のようにスナップの()いた()りを()()すものだから、一打(いちだ)(たび)に――ぷりんぷりんと、ふとももの(にく)(なみ)()つ。

 女肉(にょにく)はふとももだけではない。首元(くびもと)(あか)リボンの(した)では、(こん)ブレザーをはち()らんとばかりに――メロン(だい)乳房(ちぶさ)、ふたつの肉玉(にくだま)(あば)(まわ)る。厚手(あつで)のブレザーであっても(かく)()れない、乳房(ちぶさ)のわんぱく。ふたつはそれぞれが独立(どくりつ)(あば)(まわ)って、ブレザーの()められた(まえ)ボタン(ふた)つが()()びかねない。たぷん、たぷんと重量感(じゅうりょうかん)のある躍動(やくどう)に、少女(しょうじょ)のか(ぼそ)(どう)()()られて、(ぎゃく)()(まわ)されていた。

 なのに少女(しょうじょ)は、体勢(たいせい)(くず)さない。(あば)(まわ)(ちち)(うご)きを(たく)みに(なが)しながら、いっそう(なが)されながら、(むち)のようにしなる()りで(おとこ)たちを()(なぶ)る。ぷりぷりと、ぷりぷりと。(ちち)がふとももが躍動(やくどう)()めない。女肉(にょにく)唯一(ゆいいつ)大人(おとな)しくなるのは――ギロチン執行(しっこう)のときだけだった。

 6(にん)()、7(にん)()、8(にん)()が、少女(しょうじょ)細腕(ほそうで)(つか)まり、(くび)()られる。9(にん)()が、10(にん)()が、ブレザーの小脇(こわき)のギロチン(だい)に、()えていく。そして11(にん)()も、少女(しょうじょ)散々(さんざん)にサンドバッグにされて、少女(しょうじょ)(ちち)(わき)(あたま)(はさ)まれ、言葉(ことば)にならない(わめ)(ごえ)()げながら――少女(しょうじょ)細腕(ほそうで)(ひね)()げられた。

 ――(のこ)(おとこ)一人(ひとり)のみだ。

 勝敗(しょうはい)はすでに(けっ)していた。たった一人(ひとり)だけ()(のこ)った(おとこ)は、11(にん)仲間(なかま)最期(さいご)()()たりにした結果(けっか)(あし)(ふる)えて()まらず、()てなくなってしまったのだ。

 そんな(おとこ)のもとに――スクールローファーがゆっくりと、コツン、コツンと()(せま)る。(おとこ)(しり)もちをついたまま後退(あとずさ)るも、たちまち背中(せなか)(かべ)()った。L字(えるじ)(かど)(すみ)絶体絶命(ぜったいぜつめい)だ。

 (おとこ)は、少女(しょうじょ)懇願(こんがん)した。

 L字(えるじ)(かど)(すみ)子犬(こいぬ)のように(ちぢ)こまりながら、(せま)()女子高生(じょしこうせい)(ゆる)しを()うた。『すまなかった』『もう二()としない』『(ゆる)してくれ』……。(おも)いつく言葉(ことば)手当(てあ)たり次第(しだい)(なら)べて、懇願(こんがん)した。

 すると少女(しょうじょ)は、(さと)すかのように(おとこ)(たず)ねた。

「あなたたちは、(おんな)()にそう()われたとき、()()れてきたのですか?」

 (おとこ)は、(なに)()えなかった。



 女子高生(じょしこうせい)足元(あしもと)に、(おとこ)が――ひれ()す。



 (じゅう)二十(にじゅう)(とし)(はな)れた少女(しょうじょ)(まえ)で、(すな)ぼこりの(ゆか)(ひたい)をつけて懇願(こんがん)する。『お(ねが)いだ』『(たす)けてくれ』……。(こえ)身体(からだ)(ふる)わせて、(なみだ)(なが)し、(こころ)(そこ)から(ふる)()がりながら、土下座(どげざ)して少女(しょうじょ)(ゆる)しを()う。すると(てん)から(こえ)がかかった。

 少女(しょうじょ)(こえ)は、(おだ)やかだった。

「もういいですよ。(かお)()げてください」

 (おも)いがけない(やさ)しい声色(こわいろ)返答(へんとう)に、(おとこ)(おそ)(おそ)(かお)()げた。

 ――少女(しょうじょ)は、I字(あいじ)バランスの姿勢(しせい)をとっていた。

 片足(かたあし)完全(かんぜん)(あたま)(うえ)まで()げて、180()開脚(かいきゃく)、きれいな一本(いっぽん)垂直(すいちょく)(せん)両脚(りょうあし)(えが)きながら、少女(しょうじょ)(おとこ)一歩(いっぽ)すぐ(まえ)()っていた。あまりにも唐突(とうとつ)()ぎるI字(あいじ)バランス、これがいったい(なに)意味(いみ)するのか、(おとこ)には皆目(かいもく)見当(けんとう)がつかない。しかし、そんなことはどうでもよい。(おとこ)視線(しせん)(すで)に、釘付(くぎづ)けだった。

 ――()(しろ)、ぷりぷりなふとももに。

 上下(じょうげ)開脚(かいきゃく)した少女(しょうじょ)(あし)は、当然(とうぜん)スカートをめくれ()がらせ、ふとももが全貌(ぜんぼう)をさらけ()していた。色白(いろじろ)(にく)がたっぷりと(みの)った、筋肉質(きんにくしつ)一切(いっさい)(かん)じない、やわらかなふともも。贅肉(ぜいにく)たっぷりな少女(しょうじょ)のふとももに、(おとこ)視線(しせん)()まらない。(まる)みを()びたもも(にく)輪郭(りんかく)内股(うちまた)()()がった(すじ)のライン、(まえ)から()えるぷりんとしたお(しり)……。

 そして、上下(じょうげ)()びたふとももの()()赤茶(あかちゃ)チェックのスカートの(かげ)(なか)にある、純白(じゅんぱく)三角(さんかく)――そこへ視線(しせん)()いた瞬間(しゅんかん)だった。

 (よこ)(がわ)()けるスクールローファーが、くるりと90()(まわ)り、()(かかと)をこちらへと(くろ)(びか)らせた。まるで――(みね)から()へ、(かたな)(かえ)すかのように。

 12(にん)()(おとこ)に、少女(しょうじょ)審判(しんぱん)(くだ)る。

 (さば)きの鉄槌(てっつい)黒革(くろかわ)のスクールローファーが()()ろされ――(おとこ)脳天(のうてん)へと、(かかと)直撃(ちょくげき)した。(おとこ)全身(ぜんしん)筋肉(きんにく)硬直(こうちょく)し、少女(しょうじょ)(まえ)(ひざまず)いたまま、ビクン、ビクンと痙攣(けいれん)すること数秒(すうびょう)、やがて(まえ)のめりに(たお)れていく。コンクリートの(ゆか)顔面(がんめん)(せま)()(なか)(おとこ)視界(しかい)()(くら)になった。

 (たお)れた(おとこ)違和感(いわかん)(おぼ)えた。(かお)にぶつかった感触(かんしょく)が、コンクリートの(ゆか)などではなく、むにっと(やわ)らかく、ほんのりと(あたた)かかったのだ。においも酸味(さんみ)甘味(あまみ)苦味(にがみ)色々(いろいろ)()ざった不思議(ふしぎ)(かお)りに(つつ)まれる。そして(おとこ)()()いた。

 ――少女(しょうじょ)(わき)に、ギロチン(だい)にはめられていることに。

 (おとこ)にできることは、もう(なに)もない。身体(からだ)どころか、(くち)すらもまともに(うご)かせず、ただ(わめ)くことしかできなかった。言葉(ことば)にならない言葉(ことば)(わめ)いているうちに、(おとこ)顎下(あごした)に、少女(しょうじょ)手首(てくび)()()まれる。(こん)ブレザー()しの少女(しょうじょ)乳房(ちぶさ)が、(おとこ)(あたま)をホールドする。――もう、その(とき)()たのだ。身体(からだ)(うご)かない。(なに)もできない。(あと)はもう、あるがままを享受(きょうじゅ)しているしかなかった。

 少女(しょうじょ)(うで)()むギロチンの(なか)で、(おとこ)はあるがままを――少女(しょうじょ)(にお)いを享受(きょうじゅ)する。(こん)ブレザーに()みたクリーニング(ざい)少女(しょうじょ)(はだ)からにじみ()(あせ)(くろ)(なが)つや(かみ)から(ただよ)うシャンプーの(はな)やぎ……。それらが()ざり()った、年頃(としごろ)女子高生(じょしこうせい)(にお)いに(つつ)まれる(なか)で――

 最後(さいご)に、少女(しょうじょ)のやさしい(こえ)()いた。




 「――おやすみなさい」




 女子高生(じょしこうせい)ひとりと、(おとこ)12(にん)との戦闘(せんとう)決着(けっちゃく)した。

 (おとこ)たち12(にん)は、女子高生(じょしこうせい)ひとりを相手(あいて)に、全滅(ぜんめつ)した。

 (おとこ)12(にん)全員(ぜんいん)が、少女(しょうじょ)のギロチンによって、断罪(だんざい)された。



 (はい)倉庫(そうこ)()()夕日(ゆうひ)()()げる。

 12(にん)物言(ものい)わない(おとこ)たちが(ころ)がる(なか)で、少女(しょうじょ)()だしなみを(ととの)(はじ)めた。

 まずは黒革(くろかわ)のスクールバッグを()けると――(しろ)レースのハンカチを()()した。それを(みずか)らの(かお)(まわ)りにぽんぽんとあてがって、()っすらと(にじ)んだ(あせ)をふき()っていく。(つづ)けて(ぬの)(めん)裏返(うらがえ)すと、(かえ)()などまったくついていない(みずか)らの()を、(ゆび)一本(いっぽん)一本(いっぽん)までもきれいにぬぐった。そうして使(つか)()えたハンカチは、12(にん)()死体(したい)(かお)(うえ)へと、ひらひらと()として()てられた。

 (つぎ)にバッグからコンパクトミラーを()()し、前髪(まえがみ)をなぞり、(よこ)(かみ)(みみ)にかけ、胸元(むなもと)(あか)いリボンを(なお)す。あちこちに小首(こくび)(かし)げながら仕上(しあ)げを確認(かくにん)すると、(さわ)やかに微笑(ほほえ)み、コンパクトをぱたんと()じた。

 最後(さいご)にスマートフォンを()()えに()()して、通話(つうわ)する。(しと)やかな声色(こわいろ)で「12(にん)、いつものお(ねが)いします」とだけ()って通話(つうわ)()えると、ひとつ(かる)()びをして、やって()方向(ほうこう)へと(ある)(はじ)めた。



 ――女子高生(じょしこうせい)が、()戦場(せんじょう)()()る。



 死屍(しし)累々(るいるい)(はい)倉庫(そうこ)、たったひとりだけの生存者(せいぞんしゃ)である少女(しょうじょ)が、悠々(ゆうゆう)日常(にちじょう)へと(かえ)っていく。黒革(くろかわ)のスクールバッグを片肘(かたひじ)にかけて、物言(ものい)わない(おとこ)たちの(なか)を、スマートフォンをいじりながら(ある)()けていく。()びきった大門(だいもん)から()()夕日(ゆうひ)が、帰路(きろ)につく女子高生(じょしこうせい)燦々(さんさん)()らしていた。

 少女(しょうじょ)出口(でぐち)へと(ある)きながら、今度(こんど)長電話(ながでんわ)(はじ)めた。

 その声色(こわいろ)は――(さき)ほどまでとはまったく(ちが)うものだった。



「ママ、(いま)から(かえ)るね。ママ()いて()いて。今日(きょう)は12(にん)、ご案内(あんない)してあげたの。うん、今日(きょう)もどこも怪我(けが)してないよ。うん、そっちも大丈夫(だいじょうぶ)。またいつものおかたずけ()さんを()んでおいたから。しっかりおしおきもしたし、最後(さいご)()反省(はんせい)してたみたいだから、みんな天国(てんごく)()けると(おも)うわ。途中(とちゅう)、みんな一斉(いっせい)()()しそうになっちゃって、さすがにもう(あきら)めるしかないと(おも)ったの。だから(すこ)しだけ、(つよ)めの言葉(ことば)刺激(しげき)してあげたわ。そうしたらね、ふふっ、面白(おもしろ)いくらいにみんな(かお)()()にしちゃって――え? 今夜(こんや)はハンバーグなの? やったー! (わたし)、ママの手作(てづく)りハンバーグ大好(だいす)き! 大丈夫(だいじょうぶ)大丈夫(だいじょうぶ)(すこ)()()があった(ほう)がおいしいよ。今日(きょう)はいっぱい運動(うんどう)したから、たくさん()べるね。ソースはなぁに? え~お(たの)しみ~? ママのいじわる~。いいもん、お夕飯(ゆうはん)のときにパパに()いつけちゃうんだから。……あ、そうだ。今日(きょう)学校(がっこう)でとっても面白(おもしろ)いことがあったの! ミカちゃんとユキナちゃんがね、(おな)(おとこ)()のことが()きになっちゃって――」



 女子高生(じょしこうせい)(うし)姿(すがた)が、()()夕日(ゆうひ)()まっていく。

 晩秋(ばんしゅう)(かぜ)(なか)(なが)黒髪(くろかみ)をゆらゆらとなびかせて。

 赤茶(あかちゃ)チェックのスカートをひらひらとおどらせて。

 ()びきった大門(だいもん)(あいだ)を、足早(あしばや)(とお)()けていく。

 ローファーの(はや)足音(あしおと)が、次第(しだい)(とお)のいていく。

 時折(ときおり)()れてくる(はな)(ごえ)も、徐々(じょじょ)にぼやけていく。

 ()()夕日(ゆうひ)燦々(さんさん)()らす、少女(しょうじょ)(うし)姿(すがた)

 (おとこ)12(にん)(ほふ)り、断罪(だんざい)した、女子高生(じょしこうせい)(うし)姿(すがた)

 (なが)黒髪(くろかみ)を、スカートを、おどらせながら。

 通話(つうわ)(ちゅう)の、(しあわ)せな(わら)(ごえ)()らしながら。

 少女(しょうじょ)は、夕日(ゆうひ)(なか)へと()えていった。



 (まち)(はず)れの(はい)倉庫(そうこ)(よる)(せま)る。

 喧騒(けんそう)()()り、(はな)()りゆき。

 (おとこ)12(にん)死体(したい)(ころ)がるだけの戦場跡(せんじょうあと)

 その(なか)で――()(しろ)一輪花(いちりんか)だけが()れていた。 

 一人(ひとり)(おとこ)(かお)にかかった、(しろ)レースのハンカチーフ。

 その(しろ)(はな)だけが、()えた夜風(よかぜ)()れていた。

 物言(ものい)わない(おとこ)たちを見下(みお)ろしながら。

 いつまでも。ふりふりと。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ