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( ᐙ )短編小説( ᐙ )

ゲームは戦争ですか?

作者: 迷迷迷迷

  ライカ・クドリャフカという少年は戦場にいた。

  彼の任務は兵士たちの健康状態を記録したデータチップを守ること。

  ……と言うよりかは、記録を守るために自らが肉の盾となる。そういった意味合いの方が強い任務に当たっていた。


「全くもって不満がない、と言えばそれはウソになる」


  廃墟の中。

  戦争の影響で無理やりに廃墟に差せられた建物の中、クドリャフカたちは敵兵に囲まれていた。

  待ち伏せされていたのである。

  情報を守ることに必死になりすぎていて、上層部は味方の安全を確保できなかったのだ。


  そのしわ寄せが今、敵が大量に潜んでいる敵地の渦中に迷い込んでしまったクドリャフカと、彼の部下であるアイオイ・ルイ二等兵の姿。

  彼らそのものであった。


「ここが俺たちの墓場になるそうだ」


  クドリャフカは淡々としたものであった。

  情報を守るための数々の逃亡作戦による疲労感による弊害。

  あるいは、自らの価値に対する問いかけ、その答えが導き出されようとしているこの瞬間への絶望感が、感情という感情のありとあらゆる彩を無色透明に塗り替えてしまっていた。


「希望を捨てるな」

  ルイがクドリャフカに話しかける。

「……なんて、馬鹿げた希望という病に取り憑かれた戯言を言うつもりはありません」


  何やらごにょごにょと話している。


「生き残るための作戦であれば、僕にいい案があるであります」


  余所事を考える。

  思えば良いことも悪いこともあったようでなかったようで、どちらも結局は無意味でしか無かったような人生だった。

  死に際に人生の意味なんて考えられるはずもなく、結局のところ、そんな物語は生者が生きる間に苦しみを少しでも減らすための苦し紛れの言い訳に過ぎないのだ。


「群衆に紛れてしまうのです、幸いこの辺りには大量の避難民が取り残されている。

  敵側の情報が上手く伝達されていなかったようですね」


  現実逃避。

  いやいや、確かに生きていていいことは確実に存在しているはずだった。

  何も全てが悲劇の人生なんてそうそうあるわけが無い。

  何を幸せに思うかなんて自由だ。

  自由であればこそ、何を不幸に捉えるかも思うがままで、だから苦しいと言うのに。

  そう、例えば生まれて初めて誕生日プレゼントに最新型のゲーム機を買ってもらった日のこと。


「なにか……何かしらの器に機密データを隠す必要性があります」


  ゲーム機にカセットを入れた時の喜び。

  いかにもガキ臭くてしょうもないが、しかし喜びは確かに存在していた。

  だが、母親や父親や、その時周りにいた友達はゲームがあまり好きではなかった。

  ガキの遊び。戦争が始まった途端にみな軍国主義、全体主義、思いやって戦う、協力しあって戦う、味方どうしを仲良く結託させて集団になって、敵と戦う。

  日々の繰り返し。自分自身もいつしかゲームを、遊ぶことを否定し始めていた。

  大人になるにつれて生きているだけで疲れていく。

  仕方ない、軍人として役割を持って国のために働くのはとても疲れることなのだから。


  だから。


「死ぬ間際になっても、こんなガラクタを持って歩いているんだな」


  懐から取り出した一台のゲーム機。

  ダブルスクリーンの銀色の機体、メガネケースよりも少し幅広、小銭入れのように軽妙な重量。


「それは」


  ルイが、何やら先程からずっと続けていた言葉を一時停止している。

  珍しく驚いたふうに、緑の瞳をまあるく見開いている。

 

  ルイの視線の先、クドリャフカの手のひらに一台のゲーム機が握りしめられていた。


「それは……!」


  ルイが感激の声を発している。

  それを無視してクドリャフカは走馬灯代わりの思い出話に投身自殺よろしく身を投じていた。


「うちの親はゲームが嫌いで、ダチもみんなゲームなんて子供の遊びだなんてバカにして。

  そんな奴らばっかりの中で、ルイ、お前だけが俺の好きな物を肯定してくれた」


  クドリャフカにしてみれば、人生最後の人間としての尊厳を保った上での友愛の告白であった。


  人間二人、互いに愛の告白を受け入れて終わり。

  そのつもりだった。少なくともクドリャフカにとっては。


  だが。


「いいえ、終わらない」


  ルイは、クドリャフカの手からゲーム機を奪い取っていた。


  ……。

  以下は人類居住区「東京」にて人類に比較的友好的な異人の疎開においての取引内容。

  その音声の一部、数分間のみのごく短い出来事である。

  ……。

「あなた方は?」

「あ、えーっと……」

「クドリャフカさん」

「あ! その! 俺、じゃなくて私共は人間界の文化にとても興味があってこうして友人を連れ立って人間さまさま方の暮らす優雅な土地に優雅に観光しに来た所存でございましてございまする」

「はあ……? なんか怪しいな。

  ……ん? 手に持っているそれは」

「ひっ、ひぃっ! こ、こここ、これはただのこどものおもちゃでございまして、クソガキの時間つぶし塔なの戯言に無駄に金をかけるのはくだらない大人のくだらないワガママでして、ですがこう故郷の思い出が一つでもあると多いわけでして、すすすすみません、手前共のような下等生物がこのような贅沢品を」

「ふざけんなよ!」

「うわっ?! 怒った……」「怒りましたね上等、ではなくハカセ」

「それって」

「は、はあ」

「あの伝説のダブルスクリーンじゃん!!」

「え?」

「マジかよー! 戦争の影響でほぼ絶滅したって言われている限定モデルじゃん。

  やべー……生きている間に、しかも来んなきな臭い時代に生きて、こんなお宝を間近で見られるなんて」

 

  しばらく沈黙。


「……っと、失敬、取り乱して申し訳ない」


  敵国の軍人は、クドリャフカに有効と尊敬の眼差しを向けている。


「通行を許可します。良い旅を」


  ……。


  一ヶ月後。

  クドリャフカとルイは休暇中、誰もに居ない夜の公園でひっそりと遊んでいた。

  ゲームで。


  ルイが指先でコマンドをコチコチ押しながら、思い出話。


「データをゲームソフト用のチップに読み込ませて、そのままゲーム機に擬態させて密輸入」

「ヤクの売人みたいな、姑息極まりない手口だったよな」

「しかしおかげで、僕達はこうして任務終了後の休暇に甘んじていられるわけです」

「……」

「どうしました? クドリャフカ上等兵」

「今は休暇中だ、ルイ」

「これは失礼、クドリャフカ」 

「結局、俺の敵っていったいなんだったんだろうな?」

「と言いますと?」


  クドリャフカは電源が明滅するゲームを、どこか寂しそうに眺めている。


「俺の好きな物を否定するのが味方で、それが俺の世界で。

  でも世界には俺の好きな物を肯定してくれる誰かがいて、でもそれは敵で。

  もう、訳が分からねえよ。

  バカバカしいよな、たかがゲームごときでこんな、世界の、どうにもならないことについて、考えるなんて」

「泣いているのですか?」

「……泣いてねえよ、

  ただ……子供の時の俺に行ってやりたいよ。お前の好きな物は、決してお前にとって無駄にはならなかったって」

「正しく文字通り、命を、人生を救われましたね」

「冗談じゃねえよ、ゲームで命救ってどうすんだっての。ゲームはただの遊びじゃなくちゃいけねえんだよ。

 少なくとも、命なりなんなりなんでもいいけど、……大事なものを傷つける手段にするなんて、絶対に嫌だ」

「本当に好きなんですね」

「ああ、愛していると言っても過言じゃないぜ」

「あ」

「ん?」

「色違いが出ました」

「マジかよ! 絶対捕まえろ!」

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[良い点] ピンチの演出とその対策の提案、しかいその方法はある問題を抱えていて、解決策が必要。 情報の出し方やタイミングが巧くて、さらにサワヤカなオチで安心しました。 [気になる点] クドリャフカな…
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