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6 女友達と遊びに行く約束を




 突然の発言に、思わず声が裏返ってしまった。しかし、そんな私にはお構いなしに春音さんはさらに続けた。

 春音さんは私の声を聞いていなかったのか、それとも聞こえなかったふりをしているだけなのか、そのまま喋り続ける。




「雑誌とかでも趣味は何ですかっていう質問に対して、読書だって答えていて、それで好きな本は冬華さんの『暴君なかれを落とす方法』だって」

「ま、まあそれなりに有名だし……」

「この間の『それでも暴君を愛しますか?』のレビューもしていたし!」




 そういって、春音さんは相葉の公式動画サイトを開き、私に見せてきた。

 そこには、相葉のプロフィールや出演作などが映っておりSNSもやっているようで、春音さんはそれらも同時に見せてくれた。


 確かに、俳優業をしているだけあって、顔は良い方だと思う。それに、演技力もかなりあるようだ。

 そして、春音さんが言っているように、どうやら彼は私が書いた小説の熱狂的なファンらしい。




(それじゃあ、昨日名前行った時その著者だってバレたりしたんじゃ……!)




 私は、ペンネームを使いわず本名イコール著者名で活動している。だから、彼がもし昨日の時点で私がその著者だとバレていたとしたら……

 私は、冷や汗を流しながら春音さんを見た。すると、春音さんは目を輝かせてこちらを見ていて……




「相葉さんの言うとおり運命ですね!」

「やめてよ……」

「後、相葉さん、冬華さんの書いている本の中で一番イヴェール・アイオライトが好きだって言ってましたよ!」

「ああ、もう……本当に頭が痛い」




 大丈夫ですか!と春音さんは心配そうに声をかけてくれるが、今の私にとっては余計なお世話だった。

 春音さんも私の作品を読んでくれているようなのだが、彼女の前世がプレメベーラということもあってなんだかんだ申し訳ない。本当は読んで欲しくなかったのだが、感想をくれるし共感してくれるしで悪くはなかった。


 そして、相葉もまた読んでいて、それでピンポイントにイヴェール・アイオライトって……




「分かったわ……もうその辺にしておいて」

「あっ……ごめんなさい」




 私が春音さんを止めると彼女は素直に引き下がってくれた。これ以上何か言われるのは嫌だったのでほっとする。


 それにしても……本当に出来すぎている。何もかも。


 相葉と出会ったのははたして偶然だったのだろうか、それとも必然……

 

 しかし、幾ら考えても答えは出ず私は大きなため息をついた。



「でもいいなぁ……冬華さん、相葉さんに会った何て」

「いい、のかな……」

「そりゃ勿論、いいと思いますよ!宝くじ一等当てるぐらいの幸運ですよ!」




と、春音さんは興奮気味にいう。


 絶対、宝くじ一等当てる方が難しいと思うのだが……


 そんなことはさておき、昨日の彼の正体が分かったところで、私はこれからどうするかを考えなければならない。

 いや、多分もう二度と会うことはないのだろうから心配していな……いといったら、嘘になる。なんだか、また出会いそうなそんな嫌な予感がする。

 私の場合、嫌な予感は、的中することが非常に高いため気を抜けない。


 私はもう一度大きく溜息をつくと、スマホを取り出して時間を確認する。時刻は既に四時半を指しており、そろそろお開きにしようと私は席を立つ。




「もう帰るんですか?」

「うん……そろそろ帰ろうと思って」




 そういうと、あからさまに悲しそうな顔をする春音さん。待てを言い渡された子犬のようにくぅんと鳴き声が聞こえてきそうだった。それにしても、本当に春音さんは私に懐いているようで嬉しい反面少し困ってしまう。


 彼女と近づけば近づくたび、春音さんの可愛さを突きつけられているような気になり、複雑な気持ちになる。

 自分が可愛いとは全然思っていない。寧ろ、可愛くない(性格も含め)部類に入っているとすら思っている。だからこそ、可愛い春音さんの隣にいるのは心苦しいというか……妬ましいわけじゃないけど。


 とにかく、私はこの感情が苦手だ。こんなことを言ったら、きっと春音さんを傷つけてしまうかもしれないけれど……友達なんだし……ええ、友達だからこそ胸を張れる自分になりたい。


 私は春音さんの言葉を無視して、伝票を手に取りレジへと向かう。そして、会計を終え外に出ると既に日が落ちかけていた。




「今日はありがとうございました!冬華さん、また一緒に行きましょうね!」

「ええ」




 私は軽く挨拶をし春音さんに背を向けた。すると、春音さんは何か思い出したかのように慌てて駆け寄ってきた。

 一体なんだろうかと振り返り春音さんを見ると彼女はキラキラとした笑顔を私に向けていた。




「春音さん?」

「今度、二人でジュエリーランドに行きましょう!」

「私と二人で?春音さんと、私で?」

「はい!」




 何故、そんなことを言い出したのか分からず私は首を傾げる。


 ジュエリーランドとは、有名なテーマパークの事である。以前、私と夏目が初めてデートした場所……良い思い出があるかと聞かれれば一概にイエスとは答え辛い。

 後、あそこは結構カップルに人気なテーマパークの為女性二人で……可笑しくはないのだが、女子会というのもあるだろうし。だが、二人で買い物に行く以外はコレと行って、友達らしいことをしていなかったので、少し興味はある。


 断る理由もないし別にいいのだけれども……




「でも、何で急に?」

「友達と遊びに行くって言えば、ジュエリーランドだと思いまして!」

「うーん、理由になってないと思うんだけど……」




 春音さんは、何時も以上にテンションが高いように思える。まるでクリスマス前の子供みたいだ。

 まぁ、いいやと思いながら私は春音さんの提案に乗っかることにした。




「絶対ですからね!後で日時の詳細送ります!」

「ゆっくりでいいからね。私も予定あるし」

「夏目様とのデートの予定ですね!」

「声大きい。違う……事もないけど、仕事もあるし」




 春音さんは私の言葉を聞くと、頬を膨らませて拗ねる。

 しかし、直ぐに表情が戻り、満面の笑みを浮かべた。そして、では…と一礼しそのまま走り去って行った。私はその背中を見送りつつ小さく溜息をつく。


 相変わらず慌ただしい人だと思いつつ、頬を緩ませると鞄の中で電話のバイブ音が鳴り響く。私はスマホを取り出して画面を確認すると、そこに映っていたのは夏目の名前。


 少しでも帰るのが遅かったり、連絡を無視したりすると、彼も子供のように拗ねる為私は急いで通話ボタンを押し耳にスマホを当てた。




「はいはい。今帰るわよ」




 スマホ越しに、夏目があれやこれやと言っていたがこれ以上話す気は無かったので通話ボタンを切って、鞄にしまう。


 ビルの谷間に夕日が沈みかけており、私は早足で夏目の待つマンションへと足を進めた。



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