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5 悪夢再び




「鏡の迷宮は、全面鏡張りの迷路となっております。途中にあるチェックポイントで正しい道を選び、ゴールを目指しましょう」




 キャストさんの説明を聞いている途中、ようやく追いついた夏目、橘さん、春音さんは息を切らしながら俺たちも一緒にはいる。とキャストさんに人数の説明をしていた。


 相葉はそれを見て、面倒くさそうな顔をする。


 そして、私はというと、キャストさんの話を聞きながら相葉の腕を振り払おうとしていた。

 しかし、相葉はそれをさせない。


 そんな相葉の様子を見たキャストさんは、少し驚いた顔をするが、すぐに営業スマイルに戻り説明を続けた。きっと、有名人だって事に気がついたのだろう。




「では、いってらっしゃいませ」




と、手を振る。


 私たちはキャストさんに見守られながら、迷路へと入っていった。


 以前もきたことがあるが、変わらず中は驚くほど静かで、想像以上に暗かった。青白い光が鏡に反射して私達の姿を多方面から映し出す。

 それが凄く不気味で、私は思わず身震いする。このなんとも言えない静かさと暗さが苦手である。


 それに気がついたのが相葉が私の顔をのぞき込む。




「ん?冬華先生もしかして、怖いの?」

「そんなわけないでしょ!?お化け屋敷でもあるまいし」




 私がムキになって否定すると、相葉は嬉しそうな顔をした。

 迷路の中は薄暗いというのに、彼は私の表情がはっきりと見ているみたいだった。




「俺、暗いとこに目慣れてるんで。でも、ここって本当におばけ出るらしいですよ。お化け屋敷より」

「ひっ」




と、小さな悲鳴を上げたのは春音さんだった。彼女はどうやら幽霊が大嫌いらしく、さっきまで私達の後ろに隠れていたのだが、今は夏目の腕に飛びついていた。


 その様子が可愛くて私は思わず笑ってしまった。

 私も、そういう類のものは苦手だが、信じているかと言えば半分NOである。それに、お化けよりももっと怖いものがあるのを知っているからだ。




(……ここが苦手なのは、イヴェール・アイオライトと出会ったからなんだけどね)




 そう、以前ここに来たとき停電が起きその時鏡にイヴェール・アイオライトの姿が映ったのだ。そうして、彼女は夏目……エスタスやイェシェインのことを話した。エスタスを恨んでいることや、彼といたら不幸になると。前世の私であるらしいが、全く今の私と似ても似つかない。



 まあ、彼女の言葉もあって夏目と一悶着あったわけだが今では和解したというかわかり合えたというか……恋人になれた。


 前世では恋人、結ばれるまで行かずイヴェールは毒を飲み自害した。




「おい、一条離れろ」

「だ、だって。夏目様、お化けが出るんですよ!?」

「出るわけないだろう。そんなもの」




 夏目は呆れた顔をしながら、腕にしがみつく春音さんを引き剥がそうとする。だが、彼女は必死にそれを阻止していた。怖い怖いと首を横に何度も振っている春音さんに夏目は舌打ちをならしていた。


 そんな二人の様子を見ながら、私は小さくため息をつく。

 正直、今の状況で夏目と二人きりになりたいとかくっつきたいとか……春音さんが羨ましいとか思ってしまった。




(私の、彼氏……なんだけどな)




 なんて、思いながら私は自分の胸をぎゅっと握る。

 なんだかもやっとした気持ちになる。春音さんは夏目のことを諦めたというか、私達のことを応援してくれているのは分かっているけど、夏目が異性に触れられているのを見ると心の中で黒い感情が顔を見せるのだ。


 春音さんは大事な友達なのに……そう思いながら私は前を向く。どこもかしこも鏡だらけ。一度きたことがあっても道など覚えているはずもなく、しかもこの迷路はかなり大きい。二階まであるため脱出が困難である。



 夏目と春音さんはまだ言い合っているようだったので、私は思わず相葉に話を振ってしまった。




「相葉君ってこういうの慣れてるんじゃない?迷路とか得意そう……相葉君?」




 相葉は何かを考え込んでいるようで、私が話しかけても反応がなかった。彼の瞳には何が映っているのか分からないが、ただじっと鏡を見つめていた。


 そして、ゆっくりと口を開く。

 それはまるで、独り言のように。私達に聞かせるように呟いた。




「鏡に何か映ってません?」

「おおおお、お化けですかっ!」




 そう最初に反応を示したのは春音さんだった。

 だが、相葉は首を横に振る。

 その行動を見て私は眉間にシワが寄るのを感じた。




(なんだろう、すごく嫌な予感がする)




 私達の視線の先には、暗闇に包まれた通路があった。私達は先ほどまで出口に向かって歩いていたが、途中で方向感覚を失い、出口とは反対方向に歩いているような気さえした。


 だが、私達がいる場所が鏡の世界だからと言っても、何も見えないというのはおかしい。

 私はスマホを取り出して明かりをつけようとしたが、何故か電源が入らなかった。

 それどころか、電波すら届かないのだ。つまり、私達がいる場所は外界から遮断されていることになる。




「な、夏目様ぁ。これ、どうなっているんですか!?」 




 春音さんが半泣きになりながら、夏目に抱きついた。

 そんな彼女を夏目は引き剥がし、夏目は春音さんを橘さんの方へと投げた。




「お前の同級生なんだろ。お前が面倒見ろ」




と、夏目は冷たく言うと険しい表情で何か考え始めた。


 確かに、このままではまずい。


 春音さんは不安げにこちらを見る。そんな彼女を安心させるため、私は微笑みかけた。

 だが、彼女の顔色は良くならない。むしろ悪化していた。




(これは、困ったな……)




 そう思いながらも打開策は見つからない。

 そもそも、何故こうなったのか……原因は分かっている。あの時、相葉が言った一言が原因だ。きっと、春音さんはそのことでパニック症状を起こし、恐怖から肉体的にも精神的にもきているのだ。


 そして、この状況は非常に不味い。


 前よりもこの迷路が長く感じるし、先が一向に見えない。まるで、本当に私達を惑わし迷わし、閉じ込めるように。




「ねえ、夏目。相葉君が見たのってもしかして」

「……俺もお前と同感だが、俺は記憶にない」




と、夏目にコソッと話しかけると夏目は私心配そうに見てから後そう答えた。


 だがどうやら、彼は覚えていないらしい。ということは、私の思い過ごしかもしれない。相葉も私達と同様前世持ちの可能性がある……そう私は踏んだのだが、私、イヴェール・アイオライトに関係する人物だけが記憶を保持若しくは転生しているのだとしたら、夏目が覚えていないわけないのだ。

 イヴェールに関わっているはずだから。




(とりあえず、今はこの状況をどうにかしないと)




 私は思考を中断して辺りに視線を向けると、ふと橘さんと目が合った。橘さんは私と目が合うと、そこを離れないようにとでも言うかのように私に訴えかけてきた。




「そうだ、冬華。お前は覚えていないかも知れないが、心当たりとかはあったりしないか?彼奴について」

「え、ああ、えっと。あの鮮やかなオレンジ色……何処かで見たことがある気がして」




 夏目に話を振られ私は戸惑いつつも、そう答える。


 すると、橘さんは目を丸くした。どうやら、私の発言は彼にとって予想外のものだったようだ。

 そして、彼は何かを考えるように顎に手を当てて黙ってしまった。


 相葉は鏡に映る暗闇を見つめていた。




「連城先生もしかして――――――」

「橘さん?」




 橘さんが何かを思い出したかのように口を開いた瞬間、パチンと照明が音を立てて切れた。

 あたりは一瞬にして暗闇に包まれる。先ほどよりも暗い、暗い、闇に。




「嘘、また停電……?」



 そう呟いた私の声が反響する。

 私はスマホを取り出して明かりをつけようとしたが、やはり電源が入らない。それどころか電波すら届かないのだ。

 これでは連絡を取ることが出来ない。




(どうしよう、これじゃあ、皆がどこにいるかも分からない)




「いや、さっきまで周りに皆いたからきっと……」




 そうしてようやくぼんやりと、照明がつくと目の前の大きな鏡に私ではなくイヴェール・アイオライトが映っていた。

 しかし、彼女はじっと私を見つめるだけで何も動かない。いや、私が動くのと同時に私と同じように左右反転で動くのだ。

 まるで、私が動いているのか彼女が動いていて、それが重なっているような感覚に陥る。




「これ、私の姿がイヴェール・アイオライトになってるんだ」




 鏡に映っているのはイヴェール・アイオライトだが、動きはうつしている本人のものなのだ。だから、私の姿をイヴェール・アイオライトとして鏡は映している。


 それは、以前ここに来たときとは異なる現象だった。


 そう、私は鏡に手を当てながら考えていると後ろからコツコツと足音が聞こえてくる。

 私はその音に振り返ると、そこには怪しい笑みを浮べる相葉の姿があった。




「……相葉君?」

「俺、全て思い出しました。やっぱりこれは運命だったんだ」




 そう言って彼は私に近づいてくると、私の腕を掴む。

 私はそれに驚いて振り払おうとするが、力が強すぎて全く離すことが出来なかった。

 そして、彼はそのままぐいっと私を引っ張ると、私を抱きしめた。




「アンタもそう思うだろ。イヴェール・アイオライト様」





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