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1 正式に恋人始めました



 全く、どうにかしている。



 私は叫びたい気持ちで一杯だった。否、きっと気づいていないだけで叫んでいたかも知れない。

 私こと、連城冬華は自分で言うのも何だが恋愛作家である。それはもう売れに売れまくっている恋愛作家。コミカライズ化から近日アニメ化まで成し遂げた今をときめく恋愛作家……なのだが。




「冬華……今日も愛おしいな」

「もう、鬱陶しいのよ。これ以上ひっついたら一週間お触り禁止にするわよ!」




 眩いほどの金髪は私の首筋をくすぐり、私より一回りか二回り大きい身体は私を包むような形で抱きしめていた。腰に回された筋肉質な腕を退けようと奮闘するが、ピクリとも動かない。

 彼の吐息が耳にかかり、私は思わず身を捻る。


 彼……久遠財閥の御曹司こと、久遠夏目とは先月色々あった一ヶ月を乗り越え晴れて恋人同士になった。


 私と彼(ともう二人いるのだが)は、前世すれ違い挙げ句の果てに破局した、所謂両片思いで人生を終えた前世持ちである。


といっても、記憶がしっかりあるのは夏目ともう一人私の担当編集者なのだが、私も前世の自分が夢に出てきたり、鏡に映ったりと記憶はないのだが自分には前世があり、夏目の前世であるエスタス・レッドベリルを愛していたことを知った。


 そうとも知らず、私はそのことを小説のネタとして使い書籍化までされ、夏目にとっては前世、リアルで起きたことなのだろうが、私にとっては前世でもフィクションなのである。



 前世の私は、悪女と呼ばれた悲しき元奴隷イヴェール・アイオライト。

 しかし、もう一人の前世持ちの人に寄れば私は滅亡した小国の皇族だったらしい。まあ、どっちにしても今となっては昔、前世のことで関係無いのだが……



 そして、前世からの柵も全て吹っ切って、私は連城冬華として、彼は久遠夏目として大概のことを認め好きだと伝え、恋人になった。




――――なのだが。





「何故だ?恋人同士なのに……それに、俺は全身で冬華に愛を伝えているだけだぞ?恥ずかしいのか?」

「恥ずかしいとかそういう問題じゃないの……!勿論恥ずかしいけど、けどそうじゃなくて、私の仕事の邪魔してるのよ、貴方は!」




と、私は目の前のパソコンを指さしながら言った。


 かれこれ数十分はこうして、彼に抱きしめられている。もういい加減にして欲しい。



 恋人になったからと言って、変わるものじゃないし寧ろ普通にしてくれないと、鬱陶しい。


 夏目は、あの事件があってから心を入れ替えたというか前世の思い人である私の前世イヴェールを好きなのではなく、私、連城冬華が好きだと伝えてくれた。そうして、見返りを求める押しつけの愛から、見返りを求めない愛情を私に注いでくれているのだが……


 それが、また鬱陶しくてたまらない。


 ベタベタしすぎというか、日に日にスキンシップは激しくなるし、不意打ちで何度もキスしてくるし……


 嫌……と言うわけじゃないのだが、こう毎日されると心臓に悪く、かなりの負担が心身にかかっている。




「あの事件もあったから、結構予定が押してるの。これじゃあ、いつまで経っても水族館に行けない」

「……」




 そういうと、夏目はスンッと黙り込んでしまった。


 あの事件、というのは私の担当編集者である橘秋世さんに監禁一歩手前、そして襲われたことだろうか。まあ、彼の家に泊めて貰うきっかけを作ったのは夏目で、私も真逆橘さんに好意を抱かれているとは思っていなかったため油断していた。


 そうして、まあその事件があって以降私達はお互いの気持ちを確かめ合って恋人になったのだが……



 その事件解決までの時間が余りに長すぎたため、執筆作業が遅れてしまっているのだ。

 襲われかけたとは言え、橘さんにはかなり迷惑かけているし私もこの仕事に熱意を持って取り組んでいるからあれだけ執筆期間が空いてしまったことに悔やんでも悔やみきれないでいる。




「そうだな……、だが、俺は冬華をこうして抱きしめていないと落ち着かない。やっと恋人になれたんだ。甘えてもいいだろう?」

「理由になってないのよ。もう……それに、そんなベタベタされたら冷めちゃうんじゃない?世の中の女性って」




 そういうものなのか?と夏目はきょとんとした顔で私を見た。その顔を見て、私はため息をついた。


 夏目は、変わってないと言えば変わってない。

 感情の浮き沈みが激しいが、最近は安定しているし……愛情の押しつけがなくなっただけましになった。



 けれど……




「フッ……だが、まあ水族館デートが行きたくて、仕方ないのなら離れてやろう。また、今度と予定を変更されるのは俺も気にくわないからなあ」

「……はあ!?何よ。私だけが水族館いきたいみたいに!」

「事実だろ?」

「違うわよ!貴方だって、私とデートしたいくせに!」




 私は、思わず怒鳴ってしまいその拍子にパタンとノートパソコンが閉じてしまった。

 立ち上げ直しだ……と思いつつも、私はようやく夏目の腕から解放され彼から急いで距離を取った。すると、彼はあからさまに悲しげな表情を浮べ眉をハの字に曲げた。




(私が悪いみたいじゃない!)




 夏目の俺様は健在であった。


 今も時々思うけど、どうして彼と付合っているのだろうと自分でも不思議になってしまう。俺様キャラなんてフィクションの世界だけで輝きキャーキャー言われるものだと思っていたし、そもそも俺様キャラはそこまで私のタイプじゃない。


 前もそうだったけど、夏目のいいところを10個あげろと言われたら恋人になった今でも言えるか危うい。


 けれど、そんな夏目に私は恋しているのは事実で……





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