2 違う、そうじゃないのよ
「落ち着かない……」
「そうですよ!これは、冬華さんと夏目様のデートじゃないんですから!私とのデートなんですからっ!」
「春音さん、それもちょっと違うかも」
ジュエリーランドにて、何故か待ち伏せしていたかのように現われた夏目と橘さんに挟まれ私は頭を抱えていた。
何故ここにいるの?とか聞きたいことは色々あるけれど。
まずは、どうして橘さんが私がここに来るって知っていたのか聞きたかった。
これは立派なストーカーでは?と思ったが、もう慣れているというか夏目も橘さんもストーカーだの束縛だのする男だったことを思い出して、私は取りあえず流すことにした。
それよりも、目の前にいるこの2人をどうするか……という方が重要だろう。
「ねえ、なんでここに来たの?」
「女性二人だけじゃ危ないだろ?」
「ただジュエリーランドにいくだけよ!?何が危ないのよ!」
私は夏目に叫んだが、彼はただ笑って流すだけで何も答えなかった。
私は呆れながら溜息を吐くと、夏目は私の手を握ってきたのだ。
私は驚いて手を引こうとしたが、強く握られていて離すことが出来ない。
それどころか、恋人繋ぎにしてくる始末。
「わーっ!ダメです、ダメです!夏目様!確かに私は夏冬カップルを全力で推してますが、今日は冬華さんは私のものなので!私とジュエリーランド行くって約束してたので!」
と、春音さんが顔を真っ赤にしながら叫んでいた。
その発言も、もう色々とツッコミどころ満載だけど……今はそんな場合ではない気がした。
夏目が、春音さんの方に視線を向けた。
「いいだろ、一条。俺と冬華のことを応援してくれているなら、冬華を譲ってくれても。そもそも彼女は俺のものなんだから」
「……は、はぅ……夏目様…………って違います!今日ばかりは夏目様であっても譲れませんからねっ!」
そう言って、春音さんは私の腕に抱きついた。そして、猫のようにしゃーっと夏目を威嚇する。
私はそれを冷めた目で見つめていたが、夏目の方はと言うと不機嫌そうな表情をしていた。
私を挟んで言い争わないで欲しいと思っていると、いつの間にか後ろに回っていた橘さんがコソッと耳打ちをする。
「冬華さん、二人で抜け出して一緒に回りませんか?」
私はそれに首を横に振った。
すると、橘さんは少し残念そうな顔をしながら、小さく笑みを浮かべた。
そんな彼の様子に気づかず、夏目は春音さんと言い争っていた。そして、ふとこちらの存在に気づき二人して橘さんを見た。
その視線に気づいたのか、橘さんもそちらの方を見る。
そして、二人は同時に声をあげた。
「「それは絶対許さないぞ/それは絶対許さないッ!」」
私は思わずビクつき、夏目と春音さんは凄い見幕で私を見てきた。
いや、待って……なんで、こんな修羅場みたいになっているの?
私は状況についていけずに困惑していた。
そんな私に構わず、橘さんはニコニコしているしこれじゃあ春音さんと二人きりで回るのは難しそうと私は肩を落とした。
まあ、別にいいのだけど。後から面倒な事になる方が嫌だし。
「春音さん、ごめんなさい。この二人がどうしてもって言うから、四人で回りましょう」
「ええ!そんな……冬華さん……」
私がそう告げると、春音さんは泣きそうな顔をした。その隣では夏目が勝ち誇ったような表情をしているが無視する。
春音さんは、う~んと考え込むようにしていたが、私は後一押しすれば大丈夫だろうと口を開く。
「皆で回った方が楽しいし……ね?」
「冬華さんがそういうなら」
と、春音さんは渋々コクリと頷いた。どうやら納得してくれたようだ。
それから、私は三人を連れてジュエリーランドの中へと入っていった。
ジュエリーランドは、その名の通り宝石をモチーフにしたテーマパークであり、家族、カップル、老若男女問わず人気のテーマパークである。
テーマパーク内に宝石店がある珍しいテーマパークでもあるのだ。
「冬華さんあれ乗りたいです!」
と、春音さんが私の腕を強引に引っ張って連れていく先はジェットコースターだった。
それは以前夏目とジュエリーランドに来て最初に乗ったアトラクションだった。ここのジェットコースターは、日本一と言われるほど有名なもので、それ故に人も多い。
景観を重視した背もたれの低いコースターで、急カーブやうねりなど非常に手の込んだ最初から最後まで楽しめるジェットコースターなのだ。
以前来たときも、また乗りたいと思わされたアトラクションの1つでもある。
「……さ、三時間待ち」
しかし、いざ並んでみると三時間以上待つことになってしまった。
私は並んでいる人達を見て、げんなりとする。……こんなに並ぶなんて……前は二時間待ちだったがさらに一時間プラスされてしまっている。
待つことが嫌いなわけではないが、この一列という圧迫した空間で春音さんはまだしも、夏目や橘さんと並ぶことになるなんて……
「……ねえ、やっぱり他のところに行きましょう?」
「何言っているんですか!せっかく並んだんだから並びますよ!」
「でも、並ぶの辛くない?」
「冬華さんがいれば何時間でも並んでいられますよ!」
と、春音さんは私の腕に抱きついて、キラキラとした瞳で見つめてくる。
そんな彼女に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。そして、その隣にいる夏目は面白くなさそうにしている。
そんな二人の様子に私はため息を吐いた。
まあいいけれど。
それにしても……どうして、私の周りにはこういう人が寄ってくるのかしら? 夏目も春音さんも私には勿体無いくらいの美人なのに。
私なんかより、もっと素敵な人は沢山いると思うんだけど。
そんな事を考えながら私は、結局三時間の待ち時間を春音さんと一緒に過ごした。
ようやく順番が来た時には私はげっそりとしていた。何故なら彼らは時間を潰すためにゲームをしようと言い出し、そのゲームの内容があまりにも精神的にくるものだったからだ。
「冬華さんの良いとこ沢山言おうゲーム!冬華さんの良いところを順番に言って言えなくなった人が負けです」
「ほう、それは楽しそうだな」
「僕なら永遠と言い続けられそうですけどね」
「勘弁して……」
と、彼らは人の目も気にせず私の良いところといってあれやこれやと言い出したのだ。……恥ずかしくて、死にそうだった。
私はそんな羞恥プレイに耐えきれず、 存在感を消し他人のフリをするしかなかった。
そうして、ようやく私達の順番が回ってきたので、私は、春音さんに手を引かれてジェットコースターに乗っていた。
ジェットコースターに乗っている最中、私は春音さんと会話をした。勿論落ちるときは安全バーにしっかり捕まってきゃーと叫んでいたけど。
彼女は終始笑顔で、テーマパークで遊んでいることを楽しんでいるようだった。
私がそんな彼女の様子を見ていると、春音さんは私の視線に気付いたようでニコリと微笑みかけてきた。
その笑みが可愛らしく、思わず頬が緩んでしまう。
友達と言うより、寧ろ妹のような。私は春音さんと仲良くなれそうな気がした。
それから、コーヒーカップやメリーゴーランドなど色々なアトラクションに乗り、お昼ご飯を食べた後はパレードを見ることになった。
そして、いよいよパレードの時間となり、辺りは歓声に包まれていた。
私は、春音さんと夏目の後ろについて歩いていた。すると、夏目が突然立ち止まりこちらを振り向いた。
「夏目?どうしたの?」
「ああ、いや……何でもない」
と、夏目は私の方へ歩いてくるがパレードとは違う方向を夏目はずっと気にしているようで、橘さんも何かを感じ取って辺りを見渡す。
すると、視界の端に鮮やかなオレンジ色が映ってしまったのだ。
(きの、気のせいよね……)
しかし、一度見えてしまったものはなかなか頭から離れず、どうしても気になってしまうのだ。
そして、私は恐る恐る振り返るとそこにはオレンジ髪の男があろうことかこちらに走ってきたのだ。
サングラスや地味な格好をしているが、完全に奴だった。
私はその男の顔を見て驚き、そして、その男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「冬華先生――――っ!」
そういって今度は打って変わって満面の笑みでこちらに走ってきたのは、俳優の相葉春夏秋冬だった。




